2年ぶりになごみ邸で開催されたイベント「茶と絵」
今回のテーマは、七十二候の一つ「土脉潤起(つちのしょううるおいおこる)」。
絵描きの松井奈穂さんが愛媛県内子の和蝋燭と出会い、「この灯りをぜひ中山でも」という想いから、茶道家の斎藤宗佳さんとのコラボレーションで実現した会です。
和蝋燭という「生きた」灯り
私が初めて体験した和蝋燭。普段手にするパラフィン製の蝋燭とは、その成り立ちから全く違います。
原料は植物。ハゼの実から採れる「木蝋(もくろう)」を使い、芯は和紙とい草の髄(燈芯草)を真綿で巻き上げたもの。
ナンキンハゼ 2025.11.19
その芯を菜種油に浸して火を灯すと、炎は大きく、力強くゆらゆらと動き出します。
不思議なことに、この灯芯の本数は「奇数(7本や9本)」と決められているのだそう。新月の日にはあえて本数を減らし、闇の深さに合わせて灯りの量を調和させる。自然のリズムに寄り添う、日本人の繊細な美意識に背筋が伸びる思いでした。
暗闇がひらく、五感の世界
お茶の世界では、冬の夜に「夜咄(よばなし)」という茶会が行われます。
今回はその風情を、茶道に馴染みのない人でも楽しめるよう、美しくしつらえてくださいました。
日が暮れた和室は、ほとんど何も見えないほどの暗がり。
でも、だからこそ、普段は聞き流してしまうような「音」が、驚くほど鮮やかに耳に届きます。
- 釜から湯を汲み、戻す時の水の音。
- 柄杓を置く時の、凛とした「コツ」という音。
それはまるで、夏の茶巾絞りの水音を思い出すような、命の響きでした。どなたかが「瞑想のよう」とおっしゃっていましたが、視覚が制限されることで、意識が一点に集中していく心地よさがありました。
見えないからこそ、感じるもの
お菓子は季節に合わせた「茶巾の練り切り」。
暗がりの中、その頭に差した微かな緑と桃色は、はっきりとは見えませんでした。
けれど、それでいいのだと感じます。
お棗(なつめ)の拝見では、近くに燭台を運んでいただきました。
揺らぐ炎に照らされて、漆の上の金色の蒔絵だけが、闇の中にぽうっと浮き上がる。
その美しさは、今思い返しても夢の中の出来事のようです。
2020.02.09四季の森公園
土脉潤起 — 春の雨が命を潤す
「土脉潤起(つちのしょううるおいおこる)」
2月19日から23日頃。冷たい雪が暖かい雨に変わり、地中の命が目覚め、大地が湿り気を帯びていく季節。
雨、時雨、雪解雨、慈雨……。
呼び名は様々ですが、この日の灯りはまさに、春を待つ土の中の静かな脈動(パルス)そのもののようでした。
何も見えない暗闇の中で、確かに感じた新しい命の気配。
日常の喧騒を離れ、一筋の炎と向き合った時間は、私にとって忘れられない「春の始まり」となりました。



