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安倍晋三総理は「あの悪夢の民主党政権」が作った新型インフルエンザ等特別措置法の適用を決断しました。以前のブログ記事「安倍政権の判断を鈍らせる3つのメンツ~新インフルエンザ特措法の適正な運用」でも触れましたが、現野党勢力を罵倒する目的で引用された過去の政権に対する、あまり品がいいとは言えない総理の発言が、この法律の適用を遅らせた原因であり、そもそも「新型インフルエンザ等」の「等」の中にCOVID-19(今回の新型コロナウイルス)を読み込みさえすれば、法改正は必要なかったと私は考えています。

 

■新型インフルエンザ等特別措置法を改正する必要はなかった

 

結果的に安倍内閣は今後、新型の感染性疾患が発生し、政府として緊急の対応が迫られる時に、これが新型インフルエンザではない場合はすべて、法改正によって、その適用の是非に国会承認を必要とするという先例を作ったことになるというのが私は今回の安倍政権が提案した改正案の唯一の効果であったと、批判的に評価しています。

 

そもそも既にWHOがパンデミックを宣言しているCOVID-19(新型コロナウイルス)のように、政府なり地方自治体が緊急措置を迫られる事態を想定して、特措法は存在意義を発揮するのです。わざわざ法律に「等」と規定されている感染性疾患について、いちいち国会承認どころか、法改正を要するとしたことに私は疑問を感じざるを得ません。

 

■東日本大震災に苦労した民主党政権だからこそ出来た今回の特措法

 

この法律を作ったのは平成24年5月、野田内閣でした。今月9年目を迎えたあの東日本大震災は、福島第一原発事故を伴う、自民党政権が経験したこともない大災害の対応に苦労した民主党政権だからこそ必要に迫られて作った法律だということを私たち国民もはっきりと認識しておく必要があるのではないでしょうか。東日本大震災当時の官房長官が、現在、立憲民主党の党首を務める枝野幸男代表だったことも忘れてはなりません。

 

だからこそ、今回の改正案審査にあたって衆議院法務委員会では、岡田克也代議士が改正の必要はないと主張し、立憲民主党の法務部会長である山尾志桜里部会長が法改正をする必要があると言うのであれば、緊急事態宣言に国会の事前承認の手続きを規定すべきだと議論したわけです。

 

■「等」の解釈に法改正が必要という議論と国会事前承認を求める議論

 

しかし、もともと特措法は、緊急事態に一時的に行政権力(首相や地方自治体の首長)に特例的に権限を集中させて、事態の収拾に当たらせるために立法府である国会が行政府に対して事前承認を与えるための法律ですから、この法律の適用を巡って国会審議が必要だというのは法の趣旨からは外れていくようにも思われます。

 

ですから、もしもCOVID-19(新型コロナウイルス)を新型インフルエンザ等特別措置法の適用の範囲である。「等」という規定の中に含まれるのだから、法改正は必要ないという立場を取るのであれば、その政治的判断において、野党がこの法案に反対することもひとつの「政治の筋」ではありました。

 

一方、安倍政権はCOVID-19(新型コロナウイルス)に同法を適用するために、国会承認どころか、法改正を要するとしたところに大きな矛盾を孕んだ議論が生まれることになります。野党が法改正するならば、緊急事態宣言をする際には、国会の事前承認を規定すべきだと議論を展開したことはつまり、二律背反になるということです。

 

もしも民主党政権下で作った同法に瑕疵はないと主張したければ、改正案に反対すればいいのですが、同時に緊急事態宣言に国会の事前承認が必要だと議論することは矛盾した議論になるということです。

 

■与野党間の政治決着は前線で戦った政治家たちの信念を包摂できるか

 

結果的に国会事前承認という案件は法改正には盛り込まれず、付帯決議という形で与野党が決着したことは政治判断として間違ってはいないことですし、誰よりもこの緊急事態に当事者意識をもって臨んでいる立憲民主党の枝野幸男代表にとっては、この範囲で改正案に賛成して同調していくことは当然の判断であっただろうと私は思います。

 

立憲民主党の党籍を有する山尾志桜里代議士と阿部知子代議士、そして合同会派に所属する寺田学代議士は改正案に反対の表決を示しましたが、特に山尾代議士は党の法務部会長として、法務委員会の議論をけん引してきた功績もあり、議論の過程で森法務大臣の不用意で不穏当とも言える発言に毅然と対抗する姿は立派でした。元検察官の威風堂々たる存在感がメディアで広く報道されなかったことは英国から委員会審査を見ていても残念な思いがします。党としての寛大な処置が行われるように国民の一人として執行部の皆様にはご配慮をお願いしたいと思います。

 

■今、野党に期待すること・・・

 

さて今、野党として成すべきことは、まず特措法の適用も含めて安倍内閣にCOVID-19(新型コロナウイルス)対策は全面的に委任すること。その上で、むしろ消費税の一時凍結もしくは減税法案や中小企業に対する休業補償的な景気対策、学校閉鎖に伴う一人親世帯に対する支援策やオンライン等による補習プログラムの提供、不要不急な外出を回避できるような独居高齢者へのサポート、その他の医療福祉の補完的サービスの提供など、国民生活に密着した視点からの支援策を政府に対してセットで政策提言していくことではないかと思います。それが野党だからこそ出来ること。そこに財源の裏付けをもって実施していく方法を考えるのは行政府の使命だからです。その上で、特例的な国債の発行を求められれば、それをきちんと審議して通していくことが野党の責任ということになります。

 

不要不急な法改正を求めたり、既に不要不急なマイナス金利政策を講じてきたり、このような緊急時の対応として特権的にプロアクティブに対応しなければならない決断について、安倍内閣の動きが後手後手であることは憂うべき事態だと私も思います。しかし、それにカンフル剤を打つ野党の存在感が、今こそ見たいと私は期待しています。

 

皆さんはどう思われますか?

 

ポリティカルセオリスト

瀬戸健一郎(せとけん)

Kenichiro Seto

Political Theorist