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※このお話は前回の後日談に当たるお話です。今回の前日談はこちらからhttps://ameblo.jp/seto-akagami/entry-12422029336.html
 
エミリーはファーカーにある機関庫で退屈していた。と言うのも新しい機関車のルーシーが来てからと言うもののエミリーの仕事はめっきり減ってしまったのだ。パーシー達、同じ支線の機関車は皆忙しそうに働いているのを羨ましそうに眺めているしかなかった。
「はあ、機関庫でじっとしてるのは退屈ね。」彼女はため息をつくと、ふとに操車場の方で貨物列車を押しているパーシーに気づいた。どうやら列車の準備をしているようだ。
「パーシー、それはあたしの列車?」「いいや。これはルーシーのだよ。」そこへルーシーがバックで入って貨物列車を連結した。彼女が勢いよく列車にぶつかったせいでパーシーは列車に突き飛ばされた。
「あらごめんなさいパーシー!張り切り過ぎちゃって。」「いいんだよルーシー。でも列車を連結する時は落ち着いてゆっくりとね。」「落ち着いて、ゆっくりね。分かった覚えておくわ。」ルーシーはパーシーの言葉を繰り返して言うと走り出した。
意気揚々と走り去っていくルーシーを見てエミリーはまたため息をついた。
「どうも新しい機関車が連れてこられたようですな。」声がした方を見ると石炭の貨車を運んできたドナルドとダグラスがいた。「このままだとあなたの立場が危ぶまれますな。もしかしたらメインランドに送り返されるかもしれませんぞ。」ダグラスがからかう。
「そんな事こちらあるはずないでしょ!」とは言ったものの内心エミリーも不安だった。ルーシーが良い機関車なので彼女を嫌いになれなかったが、夜になって彼女が仲間たちと話しているのを見ると、やはり自分が送り返されてしまうのではないかと考えてしまうのだ。
数日後。エミリーがファーカー機関庫で1人ぜんじでいるとトップハムハット卿が彼女に会いに来た。「エミリー。君に少し話があるんだが……。」「お願いです!ゴミの貨車でものろまな貨物列車でも牽くのであたしをスクラップにしたり送り返さないでください!」
「何?一体何の話をしてるんだね?」突然エミリーが矢継ぎ早に言ったのでトップハムハット卿は戸惑った。「え?」エミリーの方も最悪な事を話されるのではないかと覚悟していたのだがトップハムハット卿の返事にあっけらかんとしてしまった。
「わたしは君に新しい仕事を頼みに来たんだぞ?」「新しい仕事?」「そうだ。実はルーシーをこの支線に配属させる事になったんだがそれに伴って君をエドワードの支線に移行させる事にした。」「エドワードの支線ですか!?」
「最近あの支線が忙しいもんでね。人手が足りなくなったんだよ。それで人手を増やす為にいろんな支線で働いている君を配属する事にしたんだ。」
確かにエミリーはいろんな支線で働いている。湖の傍のブラック・ロッホ線や人手の少ないカーク・ローナン線、時には忙しい本線を手伝って走る事もあった。だが彼女はその中でトーマスの支線の美しい景色や仲間たちを気に入っていた。
その支線から離れるのは辛かったが、トップハムハット卿の決めた事には従わなくてはならない。「は、はい。分かりました……。」
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エミリーが重い足取りでウェルズワース駅にやって来ると駅で彼女の事を待っていたエドワードが気さくに出迎えた。「やあエミリー。待ってたよ。時間通りに来てくれたんだね。」「こんにちはエドワード。」
「ハロー、エミリー!君と働ける事になって僕ちゃんも嬉しいよ!」箱型ディーゼル機関車のフィリップが駆けこんできた。「あたしも嬉しいわフィリップ。はぁ……。」エミリーの様子を見てエドワードは心配した。「何だか元気がないみたいだけど大丈夫かい?」
「あんまり大丈夫じゃないわ。」「何があったんだい?」「トップハムハット卿にトーマスの支線の仕事を奪われたの。」「どうして!?」フィリップは驚いて息をのんだ。
「ルーシーって言う新しい機関車が来たの。彼女があたしより役に立つからトップハムハット卿はあたしを追い出してあたしの代わりにトーマスの支線で働かせるつもりなのよ。」
それを聞いてエドワードは笑って言った。「多分それはないんじゃないかな。彼は君がいろんな場所で働けるから君にここの支線の仕事を任せたんじゃない?まあトーマスの支線が恋しいかもしれないけど君もそのうちここを同じように感じれると思うよ。」
エドワードはそう言って励ますと客車を取りに行った。エドワードに励まされたがエミリーの気はそれでも晴れなかった。
エミリーのエドワードの支線での初仕事は旅客列車を牽く事だった。エミリーがホームで待機しているところへフィリップが客車を繋げてくれた。反対側のナップフォード方面のホームにゴードンの急行列車が到着する。
ゴードンの列車から降りた乗客たちは連絡橋を渡って反対側のホームに降り、それからバスのバーティーに乗ったり、ホームで待機しているエミリーの列車に乗り込んでいく。時計を確認した車掌が笛を吹いて出発の合図を出す。
ところがここでトラブルが発生した。本来ならゴードンの列車が先に出発するのだが、何を思ったのかエミリーが先に走り出してしまった。
実はトーマスの支線にいた時はエミリーの列車が先にゴードンの列車より先に出発していたので、エミリーはトーマスの支線にいた時と同じように先に走り出してしまったのだ。
そのせいでエミリーの客車の扉はキチンと閉められなかったり、乗り過ごす乗客が出てしまった。「おい何やってるんだ、止まれエミリー!」車掌が慌てて笛を鳴らしながら赤旗を振ったので幸いエミリーはすぐに止まった。
「君の出発時刻はまだだよ。時計が読めないのかい?」車掌が時計を指さして怒った。「あらやだ、ごめんなさい!」エミリーは急いでホームに戻ると出発の合図を大人しく待った。
「良いものを見せてもらったよ!こりゃ傑作だ!」その様子を駅にいたゴードンに見られてゲラゲラ笑い転げられ、エミリーは恥ずかしくて顔を真っ赤にさせた。
ゴードンが笑いながら出発すると、車掌が再び笛を吹き、今度こそエミリーは乗客を全員乗せて走り出した。その様子をエドワードは操車場から心配そうに見送った。
エミリーは支線を走りながら次の駅であるサドリー駅に向かった。支線では本線とは違い各駅に列車が止まらなければならないのだがさっきの失敗を気にしていたエミリーは駅が近づいてきているのにも関わらずスピードを落とさなかった。
「おかしいぞ?この列車どうして駅に止まろうとしないんだ?」そしてエミリーは乗客を乗せたままサドリー駅を通過してしまった。「どうして止まらないんだ!私はあの駅で降りなきゃならないんだ!」乗客の声でエミリーはハッと我に返りブレーキをかけた。
「ごめんなさい!止まる駅が分からなかったの。」エミリーは慌ててバックしてホームに列車を止めた。駅に着くと乗客たちは皆ぷりぷり怒って駅を出ていった。それを見たエミリーは酷く落ち込んでしまった。
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エミリーの次の仕事はスクラップ置き場からクロックス精錬所に鉄くずを運ぶ仕事だった。スクラップ置き場ではそこで働くクレーンのレッジがエミリーの事を歓迎してくれた。
「やあエミリー。今日からこの支線で働くんだってね。歓迎するよ。」「ありがとうレッジ。でも……すぐにトーマスの支線に戻ると思うわ。」「そうなのかい?そりゃ残念。」レッジは興味なさげに素っ気なく言うと仕事に戻った。
エミリーはレッジに全てのスクラップを積み込んでもらうのを待ち、走り出す準備をしていた。スクラップが積み込み終えられたところへデリックが警笛を鳴らしながら通過した。
デリックが通過するのを待ってから信号手がポイントを精錬所方面に切り替える予定なのだが、その前にエミリーが走り出してしまった。「よし、それじゃあ行くわよ!」「待ってエミリー、方向が違うぞ!」レッジが引き留めようとした。
「大丈夫よレッジ、行きなれた場所だから道は分かってる。絶対に迷ったりしないわ!」エミリーはそう言って彼の忠告を聞き入れなかった。「待ってよ、そっちはブレンダム方向だ!ポイントがまだ切り替わってないんだよ!」
だがエミリーはとっくの昔に彼の前からいなくなってしまっていた。
スクラップ置き場を離れたエミリーは間違った目的地を目指して支線を走った。「鉄くずがお喋りしなくて良かった。お客さんみたいに怒ったりしないもの。」エミリーはホッとしながら言った。
間もなくエミリーは騒がしいブレンダムの港に辿り着いた。今日の港は大忙しで沢山の機関車や貨車、そして列車が港の中を移動していた。「さてと、この鉄くずをどこにもっていけばいいのかしら?」
エミリーが辺りを見回しながら走っていると隣の線路を走って来たポーターが並んだ。「おや、エミリーじゃないか。こんなところで何してるんだい?」「この鉄くずをどこに持って行けばいいのか分かるかしらポーター?」
「えぇ?鉄くず?」それを聞いたポーターは困惑した。「今日港に届く積み荷の中の予定リストに鉄くずなんか入ってないぞ。」クランキーが下を見下ろしながらぶっきらぼうに言った。
「えぇ、嘘!そんな!それじゃあたし、また失敗しちゃったの?」「鉄くずなら多分クロックス精錬所にもっていけば良いんじゃないのかな?」運んできた陶土が荷下ろしされるのを待っていたティモシーが言った。
「クロックス精錬所?そんな場所聞いた事ないわ!」エミリーはすっかり混乱していた。エミリーがバックで戻ろうとした時同じ線路をディーゼル機関車のノーマンが走って来た。
ノーマンは後ろ向きで走って来る列車を見て慌ててブレーキをかけたがエミリーはノーマンに気づくのが遅れて彼に衝突してしまった。「何やってるんだコラ、気をつけろ!」「あらやだ、ごめんなさい!」
港の責任者はその様子を見てカンカンだ。「今日は港が混雑して大忙しなのに君のせいで混乱して余計に遅れるじゃないか!」「あはは、エミリーはおっちょこちょいだなぁ。」「トーマスの支線でもそんなんだったのかい?」通りかかったビルとベンがからかった。
「からかってる暇があるなら君たちがこの鉄くずを精錬所まで運んであげたらどうだい?」ティモシーが言った。「ええ!?」「なんで僕たちが!」「ただでさえ忙しいのに君たちときたら遊んでばかりじゃないか。ちょっとは仕事して混乱と遅れを取り戻しなよ。」
「ティモシーの言うとおりだ。君たちが行きなさい。」「ちぇっ、もともとはエミリーのせいなのに……。」港の責任者にも言われ、双子の機関車はぶつぶつ言いながら言われた通りにした。
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エミリーは落ち込んだままその日の夕方までブレンダムの港にいた。「おい退け、そこの『ボディーのわりに煙突が長すぎる機関車』さん!無駄のないモダンな機関車様のお通りだぞ~!」ディーゼルが彼女に罵声を浴びせた。
エミリーは何だか一人ぼっちになった気分だった。彼女はトーマスの支線が恋しかった。「ここじゃあたし、トーマスの支線にいた時みたいに役に立つ機関車ではいられないんだわ。早くトーマスの支線に帰りたいなあ。」
翌朝。エミリーはブレンダムの港からウェルズワース駅まで本線の機関車に渡す貨物列車を牽いていた。エドワードの支線にはトーマスの支線と同じように綺麗なな花やさえずる小鳥もいたが、それがますますエミリーを恋しくさせた。
「おはようエミリー。」果樹園に差し掛かった時トレバーに挨拶されたがエミリーはそれにすら気づかなかった。彼女の頭の中はトーマスの支線の事しかなかった。
そのせいで彼女はサドリー分岐点のポイントが本線の方に切り替わっている事に気づかず、そのまま本線の方へ向かっていった。彼女がそれに気づいたのは本線と支線の交差するところに差し掛かった時だった。
「どうしよう、あれは本線の線路じゃない!あたし、道を間違えてたんだわ!」そこへ運悪く貨物列車を牽いたジェームスが本線の方から走って来た。このままではジャンクションでぶつかってしまう!
「ジェームス!止まって~!」エミリーの叫び声に驚いたジェームスがジャンクションの方を見るとエミリーが突っ込んでくるのが見えた。ジェームスは急いでブレーキをかけたが、タイミングが間に合わずエミリーの前を横切り始めた。
エミリーは衝撃に備えて目を瞑ったが、ジェームスの列車にぶつかる寸前で何とかブレーキが利いて止まる事ができた。「何やってるんだ、気をつけてくれエミリー!」ジェームスは怒りながら再び走り出した。
彼女は事故を起こさずに済んでホッとしたが、ケアレスミスを起こした事に落ち込んでしまった。「トーマスの支線なら失敗なんかしないのに……。」
エミリーは何とかエドワードの支線に慣れようと思い、トーマスの支線の事を忘れようとしたが、どうしてもトーマスの支線を忘れる事ができなかった。小川を見てもトーマスの支線を思い出すし、花畑を見てもトーマスの支線を思い出してしまう。
エミリーがウェルズワースの駅で貨車の入れ替え作業をしているところへこの辺りでは聞きなれない汽笛が聞こえてきてホームに列車が滑り込んできた。「おや、エミリーじゃないか。」「あなたは……ウルフね!」
「そうだよ、覚えててくれて良かった。」ウルフと言う名前の機関車はにっこり微笑みかけた。ウルフはグレートウェスタン鉄道の機関車でトップハムハット卿がダックの支線を手伝ってもらうためにメインランドから借りていた機関車だ。
勤めを済ませてメインランドに帰った今も時折メインランドから列車を牽いてくる事がある。「ところで君はトーマスの支線で働いてる機関車なんじゃなかったのかい?」「ええ、その事でちょっと色々あってね……。」「色々って?」
エミリーはあまり気が進まなかったが、事情を知らないウルフに自分がトーマスの支線からエドワードの支線に移された事を話した。「なるほどね。つまり君はそのルーシーと言う新しい機関車がトーマスの支線に来た事でエドワードの支線に移されたって事だね。」
「ええ、そうなのよ。でもトーマスの支線が恋しくて……。」「うーん、でもまだ君はまだこの支線に来たばかりなのじゃないのかい?2日やそこらで新しい環境に慣れようとするのは無理があるよ。」ウルフは笑いながら言った。
「誰にでも時代の流れと共に違いは訪れるものだからね。その環境に臨機応変に対応していく事も大切だと僕は思うよ?」「僕もそう思うよ。」帰って来たエドワードがウルフに賛成した。
「僕も他の機関車に機関庫を譲っていた時期があって機関庫の仲間が恋しかった時期があったけど、僕らはソドー島で働いている仲間なんだし、いつでも会えると思うと寂しくなくなったんだよ。」エドワードが自分の経験を思い出しながら優しく言った。
それからエドワードは明るく続けた。「それにこの支線はトーマスの支線を思い出させるほどそっくりなんだろ?だったらすぐにここにも慣れて寂しくなくなるさ!トーマスたちもしょっちゅう来るし。」
「トーマスが恋しいなら僕ちゃんをトーマスと思えばいいよ!」貨車の陰から飛び出してきたフィリップが言った。「それは無理があるんじゃないのかな?」ウルフが苦笑いするとエミリーとエドワードは思わず笑い声をあげた。
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それからエミリーの考え方は変わった。彼女はエドワードの支線での生活がトーマスの支線にいた時と少しも変わらないと思えてきたのだ。「トーマスの支線で列車を牽くのもエドワードの支線で列車を牽くのも全然変わりないわ!」
トーマスの支線の港が恋しければブレンダムの港で潮風に当たり、ソドー陶土で働いている時はファーカー採石場を思い出した。
そして時折エドワードの支線にやって来るトーマスと支線の情報を交換し合った。「やあエミリー!エドワードの支線はどうだい?」「あらトーマス!あたしね、ここの生活にずいぶん慣れたの!まるであなたの支線にいる時と同じみたい!」
「そうかい、君がこの支線に慣れたみたいで良かったよ。」
今日も楽しそうに働くエミリーをエドワードは微笑ましそうに見守っていた。
 
●あとがき
風邪ひいて布団に籠りながらこの記事のあとがきを書いてます。セト/赤髪です。今回よりエミリーがエドワードの支線に移行されるオリジナル設定を付けましたが今後物語に何か活かされるのかと聞かれれば答えはNOになります。
じゃあ何で移行したのかと聞かれれば「んー、エドワードの支線に女性率が少ないから?」と言うのが答えになります。
もとよりエミリーはトーマスの支線だけでなくブラック・ロッホ線とか本線でも働いてるので「トーマスの支線専属」と言う訳ではないでしょうが(カーク・ローナン線で働いていたというのもオリジナル。あの支線はファーガスくらいしか走ってないので花を持たせようかと)。
簡単に言えばSLTOLTでデイジーがトーマスの支線からハーウィック線に移籍した感じでしょうか。
 
因みに後半で少しだけ登場してエミリーに助言したウルフは5月に京都に行ってきたフォロワーさんと合同作成している小説に登場するフォロワーさん発案のオリキャラです。どのようなキャラ化は後日ルーシーと共に紹介いたしますのでお楽しみに。
 
ウルフの活躍するお話はこちら→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10435044
フォロワーさんとの他の合同作品も後日掲載します。
 
話が逸れてしまいますが年内中にトーマスのオリストS1禅話投稿する自信がなくなってきました(泣)
まあ夏休み中更新サボっていた俺の責任なんですが・・・。カーズの中編の投稿は確実に来年になってしまいますね。
トーマスの短編も予定していた公開順と大きく前後してしまいます。最悪の場合30話予定していた話の5本は没にする確率が高まってきました。申し訳ないm(__)m
次回もトーマスの短編を投稿予定ですが度のお話かはまだ未定です。デリック回かスクラフ回かティモシー回を予定しています。
では今回はこの辺りで(@^^)/~~~
 
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