小林麻央 痛み止めテープを増やす「自分だけの性格の癌と闘わなければ」
という記事を読みました。
これから記すことは、小林さんの事例からは離れて、一般的なこととしてお読み頂ければ幸いです。
この記事はYahoo! に転載されているのですが、
コメントのうちの一番上に出て来ているのが
「実際、痛み止めを強いものにすればするほど、寝てしまう。
それでどんどん起きている時間がなくなり、最後は昏睡状態になってそのまま・・・ってことが多いかと。
ウチは、最後にうっすら意識があったのが木曜日の夜、息を引き取ったのが日曜日の午後一。」
というものです。
このコメントを書かれた方のことを何か批判する意図はまったくないことを先に述べておきます。むしろご家族のご病気で大変だったと心中をお察し申し上げます。
このように感じられている患者さんのご家族が多い、というのはしばしば経験する事実です。
しかし、重要なこととして、がんの高度進行期・終末期、とりわけ臨死期が迫っている場合の眠気は医療用麻薬が原因ではないことも多い、ということです。
医療用麻薬の眠気は数日で耐性ができて軽減しますし、徐々に増量する方法(私は医療用麻薬の貼付剤のフェントスは1mg刻みで増量します)で、増量によって生活に支障が及ぶほど高度の眠気になることはけして多くありません。
また、たとえ医療用麻薬が原因だとしても、それだと慣れて来て眠気が改善するのが通例です(小林さんが書いていらっしゃる通りです)。
コメントの方のご家族のような、亡くなる数日前の状況の方は、たとえ医療用麻薬を使用しなくても、眠気が強くなったり、意識レベルが低下したりは普通にあります。
衰弱やせん妄、肝・腎障害など、多様な原因が混在して、眠気の原因となります。感染症や高カルシウム血症の症状が眠気である場合もあります。
しかし一般には、コメントの方が書かれているように、まだまだ「痛み止めを強いものにすればするほど、寝てしまう。それでどんどん起きている時間がなくなり、最後は昏睡状態になってそのまま・・・」というイメージが強く、本当は主たる原因ではない医療用麻薬が、眠気や昏睡の原因に目されてしまっていることもしばしばあります。
医療用麻薬を少し増やした程度で昏睡になるのならば、私の外来に通っている、仕事もされている方は職場に行けるはずがありません。彼らは普通に仕事をし、日々の生活をこなしていらっしゃいます。
もう少し、医療用麻薬や終末期の真実(眠気は多様な原因で増える、患者さんの状態によってはその出現はある種当たり前のことなのだ、ということ)が知られてほしいと願うばかりです。
今週土曜日に、一般の方も読める易しい専門書『誰でもわかる 医療用麻薬』が発刊されます。
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まさしく、医療用麻薬→眠って痛みを取る→寝てしまう→昏睡→死……という誤解を持っていらっしゃる方々に読んでもらいたいと思いますし、医療用麻薬を報じるメディア関係の方々にも一読を薦めたいと存じます。
比較的元気な患者さんに、過剰な眠気を出さずに加療するのも緩和医療の腕の見せどころではある一方で、コメントの方のような臨死期の患者さんの意識を覚醒させたままにするのは、誰が行っても難しいものです。
どうか、まだまだ誤解が多いこの分野の知識が、正しく知られてほしいと願います。
追伸
今日もう一本のブログ記事もよろしくおねがいします。
重なる時は重なる 「死ぬときにはじめて気づく人生で大切なこと33」発刊 私の一番の書き仕事は?
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