街場の現代思想 (文春文庫)/内田 樹

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一連の街場シリーズ、やめられずに、とうとう3冊連続で読んでしまった。けれど、この面白さは止まりそうにもないし、ありがたい事に、まだシリーズが続いているので、これから読破するのが楽しみだ。

現代思想というタイトルなので、哲学的な内容かと思っていたが、現代人の考え方について書かれたものだから、お固い内容ではない。もちろん、哲学的要素は出てくるものの、その知識はなくてもきちんと解説してくれているので安心して読める。基本的には、著者が教授を勤める大学の講義をまとめた形式なので、話し言葉で綴られており、とても読みやすい。

また、この現代思想版においては、人生相談形式が新鮮な試みだった。ここに寄せられた質問は、かつて質問してみたかったような、一般的で普遍的な質問であることが少なくない。同時に、こういう質問に著者はどうこたえるのであろうか、というわくわくした気持ちで、ページをめくる手は止まらなかった。

人生相談で回答しているなかに、著者の人間としての幅に触れるのが非常に心地よい。著者の人柄がよくあらわれてると言える。著者の素晴らしい学歴と研究により、そのような学者だ、という先入観で見ていたので、「あ、こんな繊細な機微に触れられるのは、このことを経験知としてしっているんだな」という事が随所に見られる。

離婚についての見解は、下記のようなものだ。
「幸福であれ不幸であれ、未来についてクリアカットな想像を抱くものはそのような未来を招き寄さずにはおれない。これが第一の命題。男女関係においては、相手が示す『理解不能』のふるまいについて私たちは『考え得る限り最悪の解釈』を採用する傾向がある。これが第二の命題。この二つを総合すると、私たちの誰にとっても、愛の終わりは構造的に不可避であるという結論が導かれる。(中略)その生来の『癖』をいつでも勘定に入れて運転すればよろしいのである。」
抜粋すると全く意味が分からないが、本を読めば、著者の経験知にも触れながら、この見解に至る説明が丁寧に記されている。

非常に清々しく、心地よい。こんな先生のもとで勉強できないのは残念だが、このように、本を通してその思想に親近感を持って触れられるというのは、読書のよい所だと、つくづく実感した。



老いの才覚 (ベスト新書)/曽野 綾子

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初めて読んだ曽野綾子の本だったが、もう、私はこの人の本を読まないと思う。夫とともに有名な作家であり、クリスチャンで、人権に関しても積極的にボランティア活動しているということは知っていたので、最近ベストセラーになっているこの本を読むのをとても楽しみにしていた。

しかし、特に前半では、いかにご自身が普通の老人とは異なり、自立した人間であるかを述べていた。正直言って、こんなお年になっても、他人の心の機微がわからないのかと思ったほどの語りぶりに、途中で本を読むのをやめたくなった。「あ、そうですか。曽野さんはお心がけが違って責任感のあるすばらしい人格をお持ちですね」と言わせるような、そんな調子である。

老年期に至るまでには、人それぞれの様々な道のりがあるわけで、それを一方的に自分が歩んできた視点から糾弾するやり方そのものに、著者が「老人性」と呼ぶ利己的な要素を見た気がする。

それでも後半は、少し共感を持ったり、心が温かくなるような事が書いてあったりしましたが、まぁ、全体としてはとても残念な印象で本を読み終えた。
君たちはどう生きるか (岩波文庫)/吉野 源三郎

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戦前の日本の知識人には、なんて度量が広い人がいたのだろうと、感激した一冊。

そして、敏感な感性と柔軟な発想を扱いかねていた青春期に感じた事が、

今の自分の思想を形作っている事を実感させられ、反省に似た思いで読んだ。



学校や周りが教えてくれたことを言われた通りに生きるだけでなく、

自分自身の体験から感じとった事を、ゴマ化さずに正直に受け止めることが出来ているか。

どういう時に、どういう場合に、どんな感じを受けたかをよく考える事が肝要だと説くが、

果たして現在の自分は出来ているのか、と疑問に思った。

この点について、第二章「勇ましき友」の中で、下記の文章が非常に心に響いた。

「ある時、ある所で、君がある感動を受けた意味のあることがわかって来る。それが、本当の君の思想というものだ。」



また、世間の風潮を意識すると、どうしても「大切な事」の基準が揺らいでしまう。

そのような基準は、いつの間にか他人のそれと置き換えられている事が多くなっているのが現実ではないだろうか。

だから、改めて自らの体験に基づいた思想に正直に生きる事を貫くことついて、非常に感銘を受けたのだと思う。

同じく第二章「勇ましき友」からの下記の引用は、いつも心に留めておきたい、とても素敵な言葉だと思う。

「肝心なことは、世間の眼よりも何よりも、君自身がまず、人間の立派さがどこにあるか、それを本当に君の魂で知ることだ。」


30代の私が読んでも、涙を流してしまうくらいの感激をもたらしてくれる本だが、

言葉遣いが易しいので、あらゆる世代の人に読んで欲しい一冊である。