旧式艦マルビナス (誰が為の宇宙の輝々-2) | 夢の大地

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ガンプラ、TRPG、MTG、コンシューマゲーム、他、気が向いた時に色々とつらつら書いていきます。

「たがためのそらのきき」、と読みます。

アーネスト・ヘミングウェイの「誰が為に鐘は鳴る」とは関係ありません。

 

ザンジバル級の設計デザインは、初放送当時、盛んに話題に上がっていた最新鋭の

宇宙船スペースシャトルのデザインに大きく影響を受けていると思います。

紡錘系の寸胴胴体、主翼と双垂直尾翼を配したデザイン。 少し後の時期に安彦氏

も関わった映画版「クラッシャージョウ」の主役艦ミネルバとも似ています。

当時は、まさに最新のスペースシャトルのデザインが「未来のデザイン」だったと

思えます。

そのスペースシャトルも退役してから10年以上経ちました。 

「これだ!」と感じるような、宇宙に向けた次の未来はなかなか目の前に現れてく

れませんが、いずれまたそういう船が現れる事を願っています。

 

艦上部の主砲のパーツが欲しかった。(´・ω・`)

今回は塗装と組立てだけですが、何本かはスジ彫りでパネルラインを入れました。

なので、成型色と似ていますが、オリーブドラブで全面塗装しています。

ただ、Jミサイルの発射管部分と発射口、艦橋部分は一発筆塗りです。

もう少し大きなキットなら、両舷合計4門の武装ステーションにメガ粒子砲を取り

付け、艦上部にも主砲を追加したかったのですが、合うパーツが見つからず、また

加工失敗が怖かったので見送りました。 (◉ω◉)

 

参考までに。

参考1 : アイリッシュ級戦艦

参考2 : アレキサンドリア級重巡洋艦

参考3 : エンドラ級巡洋艦

カタログスペックでは、実はエンドラ級が一番大きかったり・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

0089.10.18 0849 B7D秘匿基地内 ============

基地司令官のヒューグ少将は、一年戦争時に自らが指揮していた分遣艦隊のMS隊
の副隊長だった隻腕のB7D副司令ヨーク大佐と戦況モニターに見入っていた。
「敵のMS隊のほとんどはB7Dに引き付けました。 後方の増援が気になります
 が、合流される前に前衛を叩くなら、そろそろでしょうか、司令官。」
「そうだな。 フライターク大尉が上手く引き付けてくれたおかげで、敵前衛艦隊
 の護衛MSはほとんどいないか。 よし、ハドロン中佐へ第2段階への移行を伝
 達。 レンドラのマラン中佐にも作戦開始を伝達しろ。 第3ドックのファイ6

 へ非戦闘員と余剰人員の乗船を急がせろ。

 よし、残存の各ランチャーは残っているミノフスキー粒子弾頭弾を全て敵艦隊に

 向けて撃ち込め!」

少将の下令に応じて、B7D表面に隠蔽配備され、連邦軍の攻撃から生き延びてい
るいくつものVLSランチャーから、弾頭にミノフスキー粒子を詰め込んだミサイ
ルが、接近してくる連邦艦隊に向けて次々に放たれる。

高速で接近するミサイル群に対し、連邦前衛艦隊から迎撃のミサイルや艦砲が放た
れ、その迎撃の火網に引っ掛かったミサイルが閃光と化す。 それを抜けて艦隊に
迫った弾頭の一部は対空砲火の火箭に捕まる。 バラバラになった弾頭から不規則
にミノフスキー粒子が放り出される。 それすらも抜けた十数発の弾頭は与えられ
たプログラム通り弾頭を炸裂させ、本来発する強力な閃光と共に最大の効果を発揮
する形で連邦軍前衛艦隊の周囲に濃密なミノフスキー粒子で満たされた空間を形成
する。 その光景は生き残っている多くの光学観測装置からの映像で確認できた。
「上手く行って欲しいものだな。」
少将のつぶやきに、大佐がうなずく。
エンドラ級レンドラのマラン中佐率いる、作戦に参加する艦艇は4隻。
1隻でも多く戻ってきてもらいたいという思いを2人は共有していた。

0089.10.18 0853 連邦軍前衛艦隊キャラウェイ艦橋 =====

「艦隊周囲ミノフスキー粒子濃度急上昇!」
「かまうな! 全艦、主砲で撃ち返せ! ミサイル火力も更に叩きつけろ!」
キャラウェイの艦橋でホイットニー准将が指令を下すが、もしルカ中佐がいれば訝
しんだ事だろう。 敵の艦隊にミノフスキー粒子の弾頭を撃ち込む戦術は、今まで
数例が報告されているが、力で正面から早期に押しつぶす事を選んだホイットニー
准将には、攻撃の矛先を鈍らせるような戦術の変更が受け入れ難かったし、そもそ
も直接被害の出ない攻撃など気にも留めなかった。 
MS部隊は既にガンビア基地に取り付いている。 准将の中では、既に勝敗はつい
ていた。 勝ったも同然ではない。 既に勝ったのだ!
今さら艦隊に損害の出ないミサイル攻撃に、何ほどの価値があろうというのか。

そしてこの瞬間の危険性をホイットニー准将に進言する者は艦橋に誰もいない。
中央部に集中配置された主砲から放たれる光芒が、断続的に艦橋の中を照らし出す。

0089.10.18 0859 連邦軍前衛艦隊チャービル艦橋 ======

艦隊右翼に配されたレンチュラー大佐率いる第37索敵機動艦隊の旗艦アレキサン
ドリア級チャービルの艦橋では緊急の報告が飛び交っていた。
ミノフスキー粒子濃度のバランスが崩れ、レーダーや通信が一気に不全となる。
索敵や通信の担当士官があわただしく調整をする中、艦橋内の凍り付くようなセリ
フがスピーカーから流れ出た。
「敵艦隊! 方位80、上下-15、距離至近! すぐに第一射程です!」
反射的にレンチュラー大佐も報告の方位を確認する。 
ちょうど太陽が眩しく輝く方向。 通常の光学観測が難しい状況。 戦闘開始前に
も気になっていたが、MS程度ならともかく艦隊を隠す事などできるのか?
ガンビア基地から遠く離れれば、それだけミノフスキー粒子などによっても電子的
な隠蔽が難しくなる。 それに戦闘開始前にはミノフスキー粒子の散布は行ってい
ない上に、周囲にも粒子濃度が濃い不審な宙域は無かった。
それなのに、何故レーダーに引っ掛からなかったのか?
大佐の脳裏に、レーダーの放射源を惑わせる自然現象が思い当たった。
「太陽風か!」
その上で、ご丁寧にも艦隊が行動を開始する寸前に、ミノフスキー粒子弾頭をこの
艦隊に投射して、ガンビアからの電子的な索敵が難しくなる事と引き換えに、こち
らの艦隊に対し徹底的な電子妨害に出たということか。
大佐が真実に至った瞬間、目前の距離で爆発的な推進炎が初めて空間に放たれた。
「敵だ!」「敵艦隊!」「目標至近!」
いくつもの声が一気に艦橋内を満たす。
「あわてるな! 各艦対空砲火、即座に敵艦隊に向け弾幕を張れ! 各主砲、対艦
 ミサイルはガンビア攻撃を一旦中止し、敵艦隊に火力を向けろ! 艦隊方位08
 0、上下-15へ移行! ホイットニー准将に連絡! 敵艦隊至近! 要塞攻撃
 を中止し、直ちに艦隊陣形を変更し迎撃態勢を取るように!」
チャービルの更に右翼に配置されたサラミス改級の巡洋艦が第一主砲後方から爆発
したのはその下令の途中だった。 その爆炎の中を更にいくつもの大型のメガ粒子
の塊が突き抜け、ようやく回頭を始めたばかりのチャービルを次々と直撃する。

0089.10.18 0900 ザンジバル級マルビナス艦橋 =======

マラン中佐の指揮するエンドラ級レンドラに率いられた4隻単縦陣のガンビア艦隊
の最後衛に位置する、ザンジバル級機動巡洋艦マルビナスの艦橋で艦の指揮を執る
のはサヴィトリー・レルエン大尉。 31年の人生で初めて艦長として出撃する。
かつては勇名を馳せたザンジバル級も、今では旧式と化しているだけでなく、4基
の主機関の内1基が不調の為、全力での航行が出来ず艦隊の最後方に位置していた。
しかしいまだに健在な火力はムサイ級のそれを上回り、最後方からの支援射撃に徹
する予定だ。 この艦隊の各艦に搭乗した乗組員は各艦あてわずか40人強。
ほぼ艦橋とCICを満たすだけの人員しかいなかった。 遠隔操作で主機関と武装
だけを操作できれば良いとして、ダメージコントロールや自動以外の防御行動は考
慮外とされた。 
またMSもその全てをハドロン中佐のMS隊に集中させている為、直掩を持たない
丸裸の艦隊である。 それでも、艦やMSの整備員、軽度の負傷者などからの志願

者まで動員してようやく満たせた数だった。 戦力も人員も、連邦軍とは比べもの

にならないほど払底していた。

レンドラのマラン中佐からの下令で、レルエン大尉は主機を全力運転へと導く。
そして艦長席のマイクから、全艦内への放送を送る。
「クルーの諸君。 艦長のレルエン大尉だ。 これより本艦は連邦艦隊との交戦に
 入る。 艦は私に任せて、それぞれの任務を果たしてほしい。」
副長のレオ中尉と目が合う。
「さあ諸君、信念を尽くそう!」

まずは単縦陣の最前方を行くレンドラが、遅れてムサイ2隻が砲火を開く。
奇襲を受けた連邦艦隊の側面に、近距離射程の火力が次々に叩きつけられる。
「主砲、メガ粒子砲、狙いはどの艦でもいい。 好きな艦を狙って撃て!」
マルビナス艦首の4門のメガ粒子砲と艦上部の連装主砲も、火力の投射を始める。
その火力総量はムサイ級よりも大きい。 最も至近にいたサラミス級はどの艦の砲
撃が効いたのかもわからず撃沈。 その奥にいるアレキサンドリア級も相次ぐ攻撃
で既に火と煙に包まれている。
「副長、J弾(いわゆる大型のJミサイル)の発射準備にかかれ。 各砲は目標を
 シフトし、中央の敵艦隊旗艦アイリッシュ級へ火力を集中しろ。」
その時、艦下方に前方からのメガ粒子砲が直撃した。 第3メガ粒子砲部分が破壊
され艦が大きく振動する。
「大丈夫だ! 被弾部の隔壁を閉鎖して、残ったメガ粒子砲と主砲で応戦しろ!」

最後尾に位置するマルビナスの横を、小爆発を繰り返しながら燃える残骸と化した
アレキサンドリア級が漂っていく。 正確にはマルビナスの方が動いているのだが。
艦長席の横のコンソールでJ弾の発射シーケンスにあたっていた副長のレオ中尉が
その残骸を一瞥しつぶやく。
「敵にMSの直掩がいなくて何よりでしたね。」
「そうだな。 うちのMS隊も頑張ってくれている。 我々も負けてられんな。」

0089.10.18 0908 アレキサンドリア級チャービル補助艦橋 ==

チャービルの艦橋は艦砲が直撃し完全に破砕されていた。 艦橋基部の補助艦橋に
詰めていた副長アルヒーポフ中佐は、被弾の多さと威力、各所からの被弾報告、追
いつかないダメージコントロール、失われつつある電力を前に艦の最期を悟った。
そして艦橋の被弾大破と主動力の喪失の報告によって、アルヒーポフは退艦命令を
決意した。 海上艦と違い、艦内で出火があり、動力と電力が失われれば、あっと
いう間に全ての酸素が失われる。 ノーマルスーツ固有の酸素量では1時間ともた
ない。 一度そうなれば、もはや艦を救うなど出来ない話だというのは、今までの
戦訓で十分にわかっている。
「副長のアルヒーポフ中佐だ。 艦橋が被弾し消失、主動力も喪失し、電源の大半
 が失われた。 これより小官が指揮権を引き継ぐ。 チャービル総員へ下令。
 総員、直ちに退艦せよ。 退艦後残存各員はノーマルスーツの酸素量に留意しつ
 つ、後方の第54艦隊へ早急に合流せよ。」
それだけの言葉を艦内無線で飛ばした後、補助艦橋内の6人の要員にも退艦を下令
する。 要員が補助艦橋から出る事を見届け、次に行うべき機器の操作に入った。
まだ痙攣する程度に生きている艦の機能を、可能な限り「破壊」する必要がある。
補助艦橋からの遠隔操作でどれだけの事ができるかわからないが、暗い静寂の中で
指揮官としての孤独な戦いが始まる。

艦隊僚艦のサラミス改級は、既に2隻とも失われていた。

0089.10.18 0914 ザンジバル級マルビナス艦橋 =======

右翼の艦隊を食い破った4隻のレンドラ艦隊に対し、さすがに中央の艦隊も砲火を
向けてくる。 B7Dへの攻撃が一時的にでも弱まるのは良い事だ。
しかしどの艦からかはわからないが、マルビナスにも更なる敵弾が直撃する。 基
部に被弾した左主翼部分が強烈な金属音をひきずりながら離断していく。 だがも
うこの艦が大気圏に突入する事はないだろう。
「左主翼脱落!」
ダメコン担当が振り向いてうわずった報告の声を上げる。
落ち着かせるように、ゆっくりと丁寧な口調で、レルエン大尉が応える。
「了解した、伍長。 各員気にせず前方の敵艦攻撃に集中しろ。 伍長、艦体構造
 に、被害はないな?」
「はい、・・・大丈夫です。」
「わかった。 引き続き任務を遂行せよ。」
伍長に対し少し微笑みながらうなずく。 この死戦の中で尚、悠然とした姿の大尉
を、まだ若い伍長は誇らしく思った。

0089.10.18 0915 ガンビア宙域後方アヴァロン艦橋 =====

コクピット内のテレジア中佐に、マクファーソン大佐からの通信が入る。
「テレジア中佐、第一中隊は敵の艦隊を無視して、ガンビアに取りついた前衛のM
 S隊の救援に向かえ。 ホーバーム少佐の第二中隊にはキャラウェイ艦隊の援護
 として、側面から仕掛けている敵艦隊を迎撃させろ。」
「了解しました。」
マクファーソンは更に指示を出す。
「カルティアイネン中尉、本艦隊前方第2ラインに展開。 敵艦隊の精密座標デー
 タを収集し旗艦へ送信せよ。 艦隊各艦は艦隊最大戦速を維持。 トロンハイム、
 ウィスラー両艦は更新した艦隊指定座標へ移行後、対空戦闘に備えよ。」 
マゼラン級改アヴァロンの艦橋で、眉をひそめながら戦況モニターを見守っていた
マクファーソン大佐は、自身が取りえる限りの措置を講じたが、間に合うかどうか
は疑わしいとも感じていた。 
「ホイットニー准将との連絡はまだ取れないのか?」
「はい、呼び出していますが、まだ受信を確認できません。」
「わかった続けろ。 ・・・これは、まずいな・・・。」
戦況モニターの右側、奇襲を受けたレンチュラー大佐の艦隊が一気に突き崩されて
いる。 横一列に展開して前進している前衛艦隊に対して、右側面から特攻まがい
に単縦陣で喰い込んでいくガンビア艦隊は計4隻。
アヴァロンの艦長と、副艦隊司令を兼任するジョスラン・マッキーナ中佐がマクフ
ァーソンに声をかける。
「これのどこが『機動戦』なのか、理解に苦しみます。」
『機動戦の邪魔になる』とこの艦を揶揄したホイットニー准将への不満がにじんで
いるマッキーナ中佐は、一年戦争で戦死した自分の弟が指揮した巡洋艦「サンロー」
の沈んだ状況と、目の前のモニターに映る現状を重ねていた。 
横一列の横陣で進撃する艦隊へのミノフスキー粒子弾頭での欺瞞。 全く同じ状況
ではないか。
違いと言えば、サラミス1隻が沈むか、艦隊が壊滅しかけているか、だけである。

マクファーソンには別の苦々しい思いもあった。 
もっと強く准将へ意見具申すべきだったと。 そうすれば、現に重ねられている必
要以上の将兵の犠牲を、もう少し抑えられたのではないだろうか・・・、と。
「艦隊の回頭機動が鈍い。 ・・・これではまるで、据え物斬りだ・・・。」
今の所打てる手は打った。 艦砲の最大射程に入るまで、あとはテレジアとホーバ
ームが上手くやってくれる事を願うしかなかった。
「しかし・・・、敵も艦隊の行動線が限界に達すれば全滅は必定です。 あの艦隊
 はまるで死兵のようです。」
マッキーナ中佐のその言葉にマクファーソンもうなづく。
戦況モニターの中の、味方にも、敵にも、マッキーナ中佐は眉をひそめる。
観測結果を出したレーダー管制士官からの報告が艦橋に響く。
「敵艦隊識別。 熱反応からの推定ですが、エンドラ級1隻を先頭に、ムサイ級2
 隻、ザンジバル級1隻。 ザンジバル級は艦隊機動から少し遅れています。」
マクファーソンは即座に目標を定める。
「カルティアイネン中尉に下令。 最優先で最後尾艦の精密観測データを送れ。」

0089.10.18 0918 アイリッシュ級キャラウェイ艦橋 =====

「ばかな! ヤツらは一体どこにいたんだ! レンチュラーは何をしていた! 早
 くチャービルに通信を繋ぐんだ! 急げ!」
既にチャービルに艦橋は無く、通信を送るべき相手はいないのだが、ホイットニー
准将はそこまで思い至る余裕が無かった。 既に前衛のMS隊からはガンビア周辺
の制宙権確保の連絡が入っている。 MS隊に基地内部を制圧させる為に、早急に
艦隊を前進させ、艦隊火力で更にガンビアの防御力へ打撃を与える必要があった。
そこにとんだ横槍が入った。 あまつさえ、チャービル艦隊は側面近距離からの砲

撃の前に短時間で壊滅状態となり、艦隊右翼が突破された。 
既に敵艦隊はキャラウェイ右舷の目視距離に入ってきている。 それでも、砲撃戦
に持ち込めば勝てるとの考えが准将を捉えていた。
「よし、生意気な敵艦隊に砲撃を集中し、一隻残らず撃沈しろ! 艦隊、右舷回頭!
 プラット大佐に伝達、直ちに回頭する本艦隊の・・・」
准将の指示を遮るように、オペレーターの一人が悲鳴にも似た声で報告する。
「正面ゼロ・ゼロ方向! MSらしき高熱源1、高速で接近します!」
「なにっ!?」
こいつは何を言ってるんだ? 敵のMS隊は既にガンビアに後退したではないか。
単騎で真正面から飛び込んでくるバカがどこにいるのか? ありえない事だ。
ホイットニー准将や艦橋要員の見ている先で、対空砲火の弾幕を切り裂きながら高
速で接近する何かが放ったメガ粒子砲が、キャラウェイの至近距離で直掩に付いて
いたジムⅡの1機を貫く。 その機体が爆発すると同時に、全く速度を落とさない
青い機体が、ビームライフルを連射しているもう一機のジムⅡの胴体を、すれ違い
ざまにビームサーベルで両断した。
2機目の爆発を背にした青いギャプランが、ホイットニー准将に息をつかせる間も
与えず、艦橋の真正面まで一気に到達した。 艦橋を覆う防爆ガラスのすぐ向こう
でモノアイが鋭く輝き、准将の視線を釘付けにする。
「ばかな! 直掩は何をしている! こいつを墜とせえぇぇ!」

0089.10.18 0917 ザンジバル級マルビナス艦橋 =======

マルビナスは推進力の関係で前方の3隻からも、ほとんど陣形外に後落しているが、
それでも陣形を保つよう残っている全力で艦列に追従し、ムサイ級よりも大きな火
力で前方を行く艦への支援射撃を行っている。
艦橋正面上方にある壁面モニター。 敵アイリッシュ級旗艦を拡大したワイプ映像
に、見慣れた大型のMSが捉えられた。 
アイリッシュ級に付いていたわずか2機の直掩機を正面から瞬時に討ち取ったハド
ロン中佐の駆る青いギャプランが、指呼の距離でその艦橋に密着した。
艦上配備の対空砲火は、射角制限から艦橋方向への射撃が行えない。
青いギャプランは抜く手も見せずにアイリッシュ級の艦橋を横一文字にビームサー
ベルで引き裂く。 密閉された艦橋内部を満たす空気が、ビームサーベルの高熱に
よって一瞬で熱膨張し、まるで艦橋が爆発したかのように外部へ破片を撒き散らす。
次の瞬間にギャプランは、装備されたメガ粒子砲を手当たり次第に艦上へ射ち込み
ながら、味方の艦砲の危険を避けるように真上に離脱した。
艦砲の応酬の中央に飛び込んで、敵総旗艦の艦橋だけを引き裂き即座に離脱するな
ど、常人と一般的なMSでは相談もできない神業だった。

「よし今だ。 副長、J弾、敵アイリッシュ級に向けて撃て!」
「了解。 発射しました。」
マルビナス右舷艦側からたった1発だけ残っている、虎の子の巨大な統合多目的弾
頭ミサイル、Joint Multi Purpose Missile - L 通称Jミサイルが爆炎をほとばし
らせながら叩き出され、一気に敵総旗艦との距離を詰める。
艦橋を破壊され上に、レンドラと撃ち合いになっているアイリッシュ級に、J弾へ
の防御行動は全く出来なかった。 戦訓では、大きさゆえに迎撃されやすいJ弾だ
が、この距離と状況では何の妨害も受けずにアイリッシュ級の艦体中央に直撃し、
レオ中尉が設定した通りに対艦モードで炸裂。 
その破壊力でアイリッシュ級の右舷側カタパルト構造の前半部が、ゆっくりと艦体
から離断していく。 それに伴い、ひきずられるように多数の外装も脱落する。
艦内の与圧部分では、破壊されていく金属の悲鳴が轟いていることだろう。

既に1つの艦隊を壊滅させ、次には強力なアイリッシュ級旗艦とまともに撃ち合い
となった旗艦レンドラは、多数の被弾で艦体各所から炎を纏う煙を吹き上げながら、
更に接触コースでアイリッシュ級との間合いを詰める。 
だがしかし、すでに艦橋を破壊されているとはいえ、生き残った各砲座の必死の砲
撃に耐え兼ね、文字通り接触するような距離でレンドラは大爆発を起こした。 
相当数の被弾とJ弾の直撃で満身創痍だったアイリッシュ級は、至近距離でのレン
ドラの爆発がとどめとなり完全に沈黙した。
次に先頭となり指揮権を引き継いだムサイ級スノトラは、その後方のムサイ級ベル
ヒタと共に最後の艦隊へ艦首を向けたが、そこに数機のMSが襲いかかってきた。
更に艦隊の上の方では、離脱したハズのハドロン機が尻尾を付けたような白いMS
と格闘戦を演じはじめていた。

レンドラの爆発を見ていたマルビナスの艦橋内は沈黙に包まれたが、すぐにレルエ
ン大尉が指示を飛ばす。
「増援のMSは無視しろ! 敵後方の艦隊とはまだ十分に距離がある。 このまま
 スノトラの航路をトレースして最後の敵艦隊を最大戦速で突っ切る! 残った砲
 火を前方の敵艦隊に集中しろ!」
ハドロン中佐と渡り合う現用MSなど相手にして、この旧式艦が単艦で必死に抵抗
しても如何ほどの時間も稼げまい。 
それよりも作戦目的通り敵の艦隊に痛打を与え、最大戦速を維持したままB7Dに
『可能な限り』帰投するべきである。 が、・・・
レルエン大尉の指示と同時に艦橋の左舷方向が眩しく光り、大尉が視線を向けると
同時に艦橋の床面を大爆発が吹き上げ、艦橋内のクルー全員を吹き飛ばす。
生き残った自動のダメコン装置が、大破した艦橋部分の減圧を抑制する為のバルー
ンを次々と吐き出す。 ほとんどの光源が無くなった艦橋では、誰も何も報告しな
い。 頭と左脚からの出血おびただしいレルエン大尉だけがコンソールに腕をかけ
て姿勢を整えた。 艦橋内に数人の要員が漂っている。 
痛みに耐え、周囲を見回す。
「中尉・・・。」
天井付近で漂う中尉に近づいたが、既に事切れていた。
手近で電源が生き残っているコンソールから艦内放送をかける。
「艦長のレルエン大尉だ。 艦橋は被弾したがまだ健在である。 これより、、」
その時、マルビナスの艦体左舷を4発のメガ粒子の塊が次々に貫いた。 内一弾は
比較的装甲の薄い、J弾のランチャー部分の右舷側まで艦体を貫通した。
衝撃でマルビナスの艦体はスリップするようにフラつき、生き残った乗員は振り回
される。 艦全体に爆発音の連鎖が轟く。 レルエン大尉にとって今まで聞いた事
がない轟音だったが、何が起こっているかはすぐに理解できた。
「ここまでか。 クルー諸君、ありがとう。 以後は各員の判断で行動せよ。」
事実上の退艦命令だった。 そして先行するムサイ2隻への通信を送る。
「マルビナス被弾した、後落する。 残存諸艦の健闘をいの、、」

0089.10.18 0925 ガンビア宙域戦闘区域 ==========

ジオンの旧式艦は、連邦の旧式艦のレーダー圏外射程からの精密射撃で撃沈された。
アヴァロン全体で6基12門の主砲をそれぞれ二斉射して、当たったのは一斉射目
で一発。 二斉射目で四発。 宇宙における有視界機動戦で艦砲を当てるのは非常
に難しい事だった。 それも、目視外どころか、ミノフスキー粒子影響下とは言え、
レーダー範囲からも外れている距離からの射撃では、常識では全く当たらないのが
当然だった。
しかしその距離で20%もの命中率を叩き出す精密射撃を可能としたのは、カルテ
ィアイネン中尉の搭乗するネモAEWから送信された精密観測データの賜物だった。 
マルビナスにとっては、極遠距離の精密射撃が不可能になる標的速度に、わずかに
届かない戦速しか出せなかった事が不運だった。
出遅れたアヴァロン艦隊のMS各機も、ようやくそれぞれの戦いを開始している。

0089.10.18 0925 アレキサンドリア級カルダモン艦橋 ====

「ちっ! 間抜けしやがって!」
舌打ちしたプラット大佐が、心の中でホイットニー准将へ毒づく。
「速度このまま。 艦隊進路084。 右舷からくる敵艦に正対しろ。 艦砲を先
 頭の1隻に集中。 敵艦をかわし次第、艦隊進路172。 艦隊最大戦速で第5
 4艦隊と合流する!」
迫りくるのは軽巡2隻。 迎え撃つは重巡1隻と軽巡2隻。 だが・・・
「こんな連中まともに相手できるかっ。」
大佐はここで踏み止まりまともに戦うという気はなかった。 

単独で、死に物狂いの狂兵の相手などしたくもない。 とにかく第54艦隊と合流

すれば何かと心強いじゃないか。 旧式とはいえマゼラン級の主砲は、今となって

は多分この宙域では最強の艦砲だろう。 

ホイットニーの間抜けがバカ程の損害を出してこれだけ戦力が減った以上、これか

ら敵に対応するなら残存の全軍で対応するべきじゃないか。
「一応、前衛MS隊のディエール少佐に、『必要なら』艦隊へ補給に戻るよう、艦
隊座標と一緒に連絡を入れておけ。」
ホイットニーがガンビアまで送り込んだ自艦隊のMS隊が孤立するかどうかの責任
を、1回の通信で軽く前線の少佐に丸投げしておく。

艦橋正面主モニターの中で、先頭のムサイ級に仕掛けているMSが1機。 機動す
る時に発する独特の推進炎の跡を、艦の周囲に絡みつかせている。
「あれは? マクファーソンとこの機体か。 ・・・よし、そのまま抑えとけよ。」
ムサイ級からは防空用の火砲がいくらかMSを狙って火を噴いているが、それでも
艦砲はこちらを指向してメガ粒子砲で砲撃してくる。
「味方がいる! 危険だ、主砲砲撃一旦中止! 艦隊、即座に面舵一杯、艦隊進路
 174へ転針後、艦隊最大戦速! ビーム攪乱幕弾を艦周囲へ投射しろ。」

連邦の前衛3艦隊の内、チャービル艦隊はMS隊を残し全滅。 キャラウェイ艦隊
も旗艦と護衛のサラミス改1隻が失われ、艦隊としては壊滅状態だった。
戦艦を含む新鋭艦9隻の3艦隊に、旧式艦を主力としたわずか4隻で突入したガン
ビア艦隊も、既に艦隊としての火力の7割を失い、残存艦2隻も傷ついている。 
唯一の大型艦である旗艦レンドラと後詰の殿艦を失い、マッキーナ中佐が指摘した
「艦隊の行動線」は限界に達しようとしていた。
 

第1話目