黒いマラサイ (誰が為の宇宙の輝々-1) | 夢の大地

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ガンプラ、TRPG、MTG、コンシューマゲーム、他、気が向いた時に色々とつらつら書いていきます。

「たがためのそらのきき」、と読みます。

 

スペイン内戦の悲恋を描いたアーネスト・ヘミングウェイの「誰が為に鐘は鳴る」

とは何の関係もありません。(多分)

が、ちょっと検索してみたのですが、映画版の主人公はゲイリー・クーパー。

相手役の女優さんがイングリッド・バーグマン。

ガトーのセリフに「ゲイリーか、作戦は成功だ。 撤退する!」

シーマのセリフに「バッタはバーグマンに任す!」

ってのがありませんでしたっけ? 

まさかスタッフの誰かが・・・? 0083って悲恋物語でした・・・っけ?

 

少し前の再販の時、偶然量販店で見つけたマラサイ。

さる友人に、さる理由で、両肩トゲ付きの機体を進呈したいと思い、個人店にも

足を運んで、パーツ取りの為に2つ目を入手。

両肩トゲ付き機は無事当人に渡したのですが、当然の帰結として両肩シールド機
が出来上がる訳です。 それがこの機体になります。

 

申し訳程度のメタルパーツと、パネル様のプラ板をわずかに追加しています。

バックパック左上部にはアンテナを追加。 ハンドドリルで穴を開け、差し込

んで接着しているので、折れる事はあっても取れる事はないでしょう。

 

正直、マラサイのビームライフルは、あまり私の心に響くデザインではないの

で、今回はジャンクの中にあったジャイアントバズを再生して持たせました。

旧式火器を使う懐事情も反映できるかと思います。

 

物語中は実質の指揮官機の1機。 その示す方向には、敵か? 未来か?

 

後方を確認しつつ、撤退の殿(しんがり)を務める。 

ちょっとこれをイメージ。  ( ゚∀゚)o彡゚

 

不幸なネモのメインカメラが捉えた最後の映像、のイメージで …φ(・ω・ )

 

新しいストーリーを本格的に始める初回が、まさかマラサイになるとは想像して

いませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

0089.10.18 0510 ガンビア周辺宙域 ============

マゼラン級改「アヴァロン」の艦橋には、第54索敵機動艦隊「アヴァロン」の司

令マクファーソン大佐が難しい顔をして、モニター越しの作戦会議に臨んでいた。

ハマーン戦争が終結した後、旧来のジオン残党にネオジオン残党が合流した事はい

くつもの情報から確実となっていた。 宇宙でもそれらの残存勢力を討伐する為の

小規模な索敵機動艦隊がいくつも編成され、全宙域に渡って残党勢力の討伐に振り

向けられた。
「ダウンフォール作戦」と名付けられたこの討伐作戦で、いくらかの小規模な戦闘

を潜り抜けた第54索敵機動艦隊「アヴァロン」は、通常の外周航路よりも遠いガ

ンビア宙域で、ジオン残党軍の基地化された小惑星を発見した。
アヴァロン艦隊だけでは手に余る戦力があると見たマクファーソンは、すぐに「ブ

ルズアイ(大規模目標の符丁)発見」を打電。 48時間以内に近隣の周辺宙域か

ら3つの索敵機動艦隊が集結し、合計4艦隊で、2隻の戦艦、2隻の重巡洋艦、8

隻の軽巡洋艦、50機超のMS戦力が集結し、第23索敵機動艦隊の旗艦アイリッ

シュ級戦艦「キャラウェイ」に座乗するホイットニー准将が全艦隊の総司令官に補

された。

「マクファーソン大佐の考えはわかったが、時間がかかるな。」
「准将、ここは敵地です。 艦隊を分散させるのは得策ではないと心得ます。」
「ここは敵地か。 なるほど。 だが私はそうは思わないがね。 ここは我々の領

 域だ。 そもそもその旧式艦で新鋭艦の機動に付いてくるのは無理だと思わんか

 ね? 機動戦の足を引っ張る事になっては全艦隊が危険に晒される。 それとも

 その旧式艦に合わせて、艦隊の機動を制限しろというのかね?」
マクファーソンは内心でため息をつく。 艦隊司令などというのは性に合わない職

分だけに今まで旗艦の性能にこだわる事は全くなかったが、アヴァロン艦隊が作戦

行動を始めて以降、このマゼランの機動力が実は低くいのだという事を今初めて痛

感させられた。

小規模ではあったが今までの戦闘でも感じた事は無かったのだが、まさか味方の将

軍からこれほど直接的に感じさせられるとは・・・。

 

「司令官、宜しいでしょうか?」
「言いたまえ、レンチュラー大佐。」
第37索敵機動艦隊のアレキサンドリア級「チャービル」座乗のレンチュラー大佐

は、いわゆる良識派と言われる極真っ当な士官だった。
「マクファーソン大佐の具申も考慮に値する面があるのではないでしょうか? 大

佐の具申通り、想定される敵の最大反撃線までは艦隊を集中するべきと小官も考え

ます。」
ホイットニー准将の横に控える参謀副官プリシラ・ルカ中佐もレンチュラー大佐に

首肯する。 艦隊の参謀副官としては経験を積んでいたルカ中佐だが、ホイットニ

ー准将に付いたのは初めてだった。 そして3日と経たずに、この司令官が何かに

拒否感を持っている事もよくわかった。 

最初は「正論」への拒否感なのかと思ったが、1週間も経つ頃にはそれが高位の女

性士官に対する感情だとわかった。 いわゆる「女のクセに」と言うヤツだ。
しかも、マクファーソン大佐のように自身に近い、佐官級の女性士官となると、そ

れだけでも毛嫌いするような言動が見え隠れした。 見かけの迫力は「ザ・軍人」

だが、中身は小心者だろうと感じた。
「こちらの戦力は圧倒的だ。 ここはできるだけ時間をかけず、一気に叩くのが得

 策といういものだ。」
それでも参謀副官の任務は果たさなければならない。 拒否されるのは承知の上で。
「准将。 レンチュラー、マクファーソン両大佐の意見は戦術論として見るべき所

 はあると思われます。 想定される最大反撃線に到達してから艦隊を分離しても、

 全体の作戦スケジュール上は問題無いと小官も考えます。」

さりげなくレンチュラー大佐の名を先に出したが、そんな配慮も准将には届かない。

准将はルカ中佐を面倒くさそうにチラっと横目で見やるが、その意見には応えない

まま、もう一人の艦隊司令に水を向ける。
「プラット大佐、貴官はどう考えるかね?」

 

第61索敵機動艦隊、アレキサンドリア級「カルダモン」に座乗するプラット大佐

は、元々ティターンズの士官であったが、日和見主義が幸いし、組織としてのティ

ターンズの崩壊に巻き込まれず、上手く立ち回り連邦軍に「復帰」していた。
やりたい放題やったあげく「自分は悪くない」と言い張って味方面している厚顔無

恥なヤツ、というのがほとんどの認識だったが、当人は全く意に介していなかった。
「准将閣下のおっしゃる通りです。 最短時間ですみやかに叩くべきです。」
注意しなければわからないほど僅かにニヤついた顔でそう応えるプラット大佐の表

情を見たマクファーソンは思った。

「これは戦術を論じているのではないな・・・。」

プラット大佐の一言で大勢は決した。 
その後にホイットニー准将が件の小惑星を「ガンビア基地」と名付けたまでは良か

ったが、直後に准将が伝達したガンビア基地攻略の作戦名を聞いたマクファーソン

はめまいを覚えた。 
「フレイザー演習」、それが作戦名だった。
手元のモニターに表示された「公式」の指令ファイルにもはっきり「演習」と書か

れている。 それは単なる作戦名と言う訳ではなく、ダウンフォール作戦から切り

離されて、前線の艦隊で演習行動を行う事になっている。
「え、・・・演習、・・・ですか?」
それだけ言ってマクファーソンは絶句し、レンチュラー大佐も幽霊を見たかのよう

な表情をして固まっている。
「そうだ。 不満かね? 宇宙は平穏でなければならんのだ。 これ以上、作戦に

 作戦を重ねて軍事的な行動を強調したくないというのが参謀本部の意向だろう。

 チベットへ引っ越し計画中の総司令部も、政府に対してこれ以上つまらん気を使

 わせたくあるまい。」
口には出せないがマクファーソンはこの言葉遊びをひねり出した誰かを、最前線で

あるここに引きずりだしたい衝動を覚えた。 

「こいつはまともな結果にはならんだろうな・・・」
部下将兵に何と説明する? 君たちは命を懸けて「訓練」に行くのだと説明するの

か? おそらく敵味方合わせて、何百人、否、おそらく千人以上が死ぬ事になるだ

ろう。 それを「訓練」だと言うのか? ならばガンビア基地にいる連中は演習に

参加する「味方」なのか? この「演習」が何を意味するか、決めた連中はわかっ

ているのか?

「旧式艦は機動戦の邪魔になる。 後ろから慎重に付いて来たまえ。」
それがホイットニー准将からの最終的な命令だった。
「了解しました。 後詰はお任せください。」
命令が発せられた以上、否は無い。 それが軍人だ。
しかし先を思いやると気は重くなる。 それが人間だ。
新鋭艦に比べれば機動力に劣る旧式艦の率いる艦隊が後落する事を承知のうえで、

新鋭艦3隻が率いる3艦隊は最大戦速でガンビア基地に向かった。
まだわずかに白い点に見えるだけのガンビア基地を見やりながら、ルカ中佐は無駄

を承知でそれでも進言した。
「准将、敵地での戦力分散は危険です。 やはり4艦隊の連携を維持すべきでは?」
「んん? そうかも知れんな。 ああ中佐、CICの中の連中の様子を見てきてく

 れ。 ハールマン大尉は優秀だが実戦でのCIC単独指揮は初めてだ、頼むぞ。」
いつ敵が来るかわからない宙域にさしかかりつつある時に、しばらく艦橋から出て

いけ、という事だ。 余程疎ましいらしい。 中佐は命令を実行する為にCICに

向かった。
「口うるさい女共だ。 そもそもあんな石っころで何人の人間を養える? マクフ

 ァーソンが追い付いてくる頃には、連邦軍旗がひるがえっておるわ。」

同時刻、前衛3艦隊の左翼に位置するカルダモン艦橋のプラット大佐は白点状のガ

ンビア基地を見やりながら唇の片方を上げていた。 傍から見れば、敵に対する傲

岸不遜な態度と見えなくもないが、その内心は全く違っていた。
「准将ももう61才。 30真ん中のマクファーソンがすぐ下の大佐じゃぁ、それ

 だけでも嫉妬するに十分だな。」
彼は、ホイットニー准将にもマクファーソン大佐にも何の興味もなかった。 

今どう振舞えば自分の利益を最大化できるか、と言う事だけが興味の対象だった。 
「まあしかし、嫌われている小物とは言え、中央に多少は顔の効くヤツだ。 せっ

 かくお近付きになれたんだ、当面は准将の肩書を立てて喜ばせておいてやるさ。」
チューブパックのコーヒーを口に含む。
「にしてもマクファーソンも運の無いヤツだ。 せっかく見つけた手柄のネタを准

 将に丸々持っていかれるとは。 ま、俺もせいぜい分け前にあずかるとするか。」
モニターの中のアヴァロンの敵味方識別信号は遥か後方に置き去りになり、更に距

離は開いていっている。
「フフ、ご苦労さん。 あとは後ろで見てるがいいさ。」

0089.10.18 0825 ガンビア基地内中央司令部 ========

「連邦艦隊より入電。」
「入電? 通信ではないのか?」
中央司令部とはいえ、大型バス2台分程の広さしかない部屋の中で、今はこの秘匿

基地B7Dの司令官となっている、元ジオン公国突撃機動軍の分艦隊司令官だった

ヒルトン・ヒューグ少将は違和感を覚えた。 初手で降伏勧告の通信を送って来る

のは予想していたが、一方的な電文を送って来るとは思っていなかった。
「はい。 入電です。」
「内容は?」
「読みます。『 降伏か、攻撃か、10分以内に賢明な選択を望む。』以上です。」
「ハハッ、10分とは、ナメられたものだな。」
「返電はどうしますか?」
「『話し』をする気のないヤツなど放っておけ。次に何かあったら報告してくれ。」
ヒューグ少将は自身のインコムの回線を開く。
「ハドロン中佐、聞こえるか?」

0089.10.18 0826 ガンビア基地第1MSドック =======

学生時代はラグビーをやっていた巨漢のアレン・ハドロン中佐は、ヒューグ少将か

らの連絡を受け、まだ見えぬ連邦軍に向けた敵意の燃える眼差しを更に鋭くした。
「なるほど、それで『攻撃』を選択という訳ですか。 了解しました。 予定通り、

 フライタークとロージヒカイトには敵MS隊を引き付けさせます。 艦隊の作戦

 開始と同時に、私も敵艦隊に仕掛けます。」
一年戦争時、ハドロンはMA-05ビグロに乗っていたが、整備が追い付かずソロ

モン戦で撃墜された。 味方に救助された後にリックドムでア・バオア・クー戦に

参加。 デラーズ紛争を経てハマーン戦争まで、一貫して連邦政府と対決する陣営

に身を置いた。

まだジオン公国が成立する前の時代に、ジオン共和国内でルールを無視し身勝手に

振舞う連邦軍の巡洋艦と接触した連絡船に乗船していた彼の父親は、その事故で宇

宙に放り出され、未だに見つかっていない。 

父の事故を受け、兄弟を育てるために母親は苦労した末に病没。 

兄として大切にしていた弟は、どうしてもとの本人の希望で、ハドロンの意では無

かったが地球に留学させてやった。 卒業したら宇宙と地球の架け橋になるような

仕事がしたいと言っていた彼は、ジオン出身者として連邦政府の治安機関に拘束さ

れ、強制送還させられる寸前に一年戦争が勃発。 その後は一切の情報が途絶えた。
同じチームでプレイしたラガーマンの仲間達も次々に死んでいった。 ある者はザ

ビ家に心酔して。 ある者はスペースノイドの自由と平等のために。 ある者は生

きる為にやむおえず軍人となって。 

そして今、当時の仲間はほぼいない。 妻子を持たないハドロンにとって、連邦政

府と連邦軍は生涯をかけて対峙すべき仇敵となっていた。

0089.10.18 0827 ガンビア基地第2MSドック =======

本来右肩だけにある機体独特の折り畳み式シールドを両肩に備えた、黒いRMS-

108のモノアイが光る。 コクピットのベイ・フライターク大尉は、この基地に

ある24機のMS隊の実質的な指揮官である。 本来はハドロン中佐がその任務に

あたるハズなのだが、中佐の搭乗する機体の性格上、MS隊の指揮を取るのは難し

かった。 更に激情型の中佐の性格は「部隊の指揮」には徹底的に不適だった。 

その事はハドロン自身が良く理解していたので、フライタークは半ば中佐にMS部

隊の指揮を押し付けられたも同然だった。
「了解しました、中佐。 では予定通りに敵MSを引き付けます。」
それでも、グリプス紛争、ハマーン戦争を切り抜けたベテランに気負いはなかった。
「ヴェルダ、聞いたか? そっちは正面からはぶつかるなよ。」
フライターク率いる20機の通常のMSに比べ、その指揮下にあるとは言え、ヴェ

ルダ・ロージヒカイト大尉率いる4機の「変形機」隊は、その機動力の高さを利し

た陽動や攪乱を主任務とされていた。 集団同士で正面からぶつかるような戦いに

は向かない。
「OK、OK。 そこらへんは私に任せときなって。」
「了解した。 それでは諸君、いってみようか。」
先頭を切って黒いマラサイがガイドラインに沿って歩みだす。 各々、時代も性能

もバラバラで雑多な種類のMSがその後に続く。
「中佐、フライターク、ロージヒカイト両隊、出撃します。」

0089.10.18 0835 キャラウェイ艦橋 ============

「熱源出ました。 ガンビア至近の宙域にMSらしき熱源多数展開。 総数25」
「ほほう、潔く降伏しに出てきたか? それとも戦う気か?」
参謀副官のルカ中佐が、モニターに映る光点を見ながら眉をひそめる。
「敵が降伏する気なら、こんなに多数のMSを展開させる必要はありません。」
「なら叩く迄だな。 全艦隊対空戦闘用意、MSを発進させろ。 全MS隊は敵M

 Sを排除しつつ、ガンビア基地までの宙域の制宙権を確保せよ。 艦隊各艦は適

 宜MS隊への火力支援を実施。 制宙権確保後に第1射程まで前進する。」
「准将、敵前で艦隊に直掩機を置かないのは無謀です。 たとえ少数でも直掩機の

 配置をご再考下さい。」
「・・・中佐はいつも慎重だな。」
褒めているのではないと言う事は誰にでもわかる口調だった。
「まあいい。 通信、2機をこの艦隊の直掩につけさせろ。」
通信士はすぐにMS隊の指揮官と回線を開き命令を伝えはじめる。
「たった2機、それもこの艦隊にだけですか?」
ホイットニー准将はため息をつきながら、口うるさい中佐を横目で見やる。
「中佐、これ以上直掩を増やせば前衛のMS戦力が減るとわからないのかね?」
諭すというよりはバカにした口調で中佐へ指摘する。
「だから4艦隊をまとめて運用するように進言したではないか。 そうすればアヴ

 ァロン艦隊のMS隊を丸々直掩に回すこともできたのに。 ましてや、わざわざ

 挑発的な電文を送って、早期の激発を誘ったのはあなたではないか。」
と言いたかったが、2つも階級が上の将軍閣下に対し、艦橋内では言えなかった。

0089.10.18 0845 ガンビア正面宙域 ============

フライターク率いる20機のMSと、連邦艦隊から出撃したRGM-86RジムⅢ

を主力とする計40機以上のMS隊が正面から接近する。 

フライタークの駆る黒いマラサイは、一年戦争時に09系のMSが主に装備してい

たジャイアントバズを手にしていた。
初弾の一撃は1機のシールドを弾き飛ばすと同時に、それを貫通した猛烈な破壊力

が左腕の構造をも破砕した。 

しかしそのパイロットはそれを心配する必要はなかった。 左腕が破壊された事を

認識する前に、既にフライタークの放った第2弾が機体を捉えていた。

大昔なら巨大な戦艦の主砲にも匹敵する口径360mmの新型成形炸薬弾頭が、ミ

スナイ・シャルディン効果により成形された強烈な貫通力の侵徹体を、ジムⅢの胴

体を覆う複合装甲に叩き込む。

運悪く致命部に被弾した機体は文字通り粉々に爆散した。

これで、なめてかかってきた連邦軍の敵愾心は大いに燃え上がる事だろう。
連邦軍MS隊からの攻撃も激しくなり、更に距離が近づく。 目の届く範囲だけで

も2機の味方機が被弾して後落し、直後には別の1機が撃破されたであろう閃光を

発する。 倍の数の敵に本当に正面からぶつかれば、自分はともかく部下の犠牲は

大きいだろう。
非情なようだが、もともと1機撃破された時が逃げ時だと想定していた。

「全機、一旦引け! 要塞防空圏内まで後退しろ!」

フライタークは作戦通り、連邦軍側がガンビア基地と呼ぶB7D秘匿基地に向かっ

て、踵を返すように指揮下のMS隊に指示を出す。
これで連邦軍には、こちらの士気が低く、逃げ崩れたように見せる事が期待できる。
連邦のMS隊は、こちらが背中を見せればB7Dまで必死に追いかけて来るだろう。
反転軌道を描き、戦闘速度の落ちたフライターク隊を援護するように、ロージヒカ

イト隊の4機が側面から牽制射撃を加え、フライターク隊を追う連邦軍MS隊の機

先を制し、追撃速度を緩めさせる。
しかしロージヒカイトは同じ宙域に長居はしない。 常に一撃離脱を繰り返し、連

邦軍MS隊の得意な射程には入らない。
高速のロージヒカイト隊にかまわず、逃げるフライターク隊を追う連邦軍MS隊。
元々、ガンビアまでの宙域の確保が命令であり、最終的にはガンビア陥落が目的で

ある以上、逃げるフライターク隊を追ってガンビア基地に取り付こうとするのは当

然だった。

 

0089.10.18 0851 キャラウェイ艦橋 ============


「見ろ、ヤツらはもう逃げ崩れている。 我が方の戦力は圧倒的だな。 よし、第

 2射程まで全艦隊を前進させろ。 艦砲射撃で一気にガンビアを陥とす。 取り

 付き次第、MS隊には進撃路を啓開させてガンビア内部へ突入させる。」
正面や手元の戦況を映すモニターを見ながら、ホイットニー准将は満足げに微笑む。
「敵の前衛が脆すぎます。 あの程度の接触で後退するくらいなら、わざわざ突出

 してくる必要はありません。 それにあの規模の基地なら、わずかであっても要

 塞砲が存在すると想定できますが、接近するMS隊に対する火力投射すら確認さ

 れません。 小官はこの敵の動きを陽動だと考えます。」
少しは警戒心を持って欲しいとルカ中佐は内心ため息をつく。
「そうだとしても、既にMS隊とガンビアは指呼の距離だ。 勝負はついたような

 ものだが、それでも艦砲の支援は必要だよ。」
「敵の次の動きがわかるまで、要塞砲射程外の第3射程に艦隊を置けませんか?」
「置けないな。 即戦即決だ。 艦隊最大戦速で第2射程迄前進させろ。」
時間がかかればマクファーソンの艦隊がでしゃばってくるではないか。
ホイットニー准将にとっては第1にマクファーソン、第2に敵、そして第3に中佐

も疎ましくなっていた。
「中佐、すまんが私の部屋の机からブリーフィングファイルを取ってきてくれ。」
「え! 戦闘中に、ですか?!」
「中央からの指示がいくつかメモしてあったんだが・・・。 頼んだよ。」
また艦橋から出て行けと言うのか! しかも戦闘中だぞ!!
中央からの指示がメモしてある重要な物なら、なぜ部屋に置いてきたのか?!
戦闘配備で隔壁が閉鎖されている艦内を移動するのに、どれだけの時間がかかるか!
そしてこの命令が、プリシラ・ルカ中佐の運命を決める事になる。

 

0089.10.18 0845 ガンビア正面至近宙域 ==========


「よーし、しっかり付いてこいよ。」
交戦しながら逃げるフライターク隊の最後尾に付いた黒いマラサイは、時折機体を

振り返えらせ牽制の発砲を繰り返す。 当てる気はないが、連邦軍MS隊の前面で

360mmの弾頭が時折炸裂する。 この牽制射撃は連邦軍MS隊にとって、挑発

とも、必死の抵抗とも映ったが、いずれにしても敵愾心の炎へ更に油が注がれる結

果となっていた。
「第2中隊はB7Dの第2MSドックへ撤退、第1中隊は第2ドック周辺のバンカ

 ーへ予定通りに各小隊ごとで布陣しろ。 第2中隊、俺が撤退を援護する。 第

 1中隊は布陣完了と同時に、遅れている第2中隊への援護に移れ。 敵のMS隊

 をB7Dの表面で釘付けにする。」
矢継ぎ早に指示を出しながら、ジャイアントバズの弾倉を交換しつつ、連邦軍MS

隊最前衛からの射撃に対応して回避運動を繰り返す。 
設計された時代が違うので、基本性能でわずかに劣るマラサイにジムⅢが肉迫する。
しかし近距離射程に入る寸前で、ロージヒカイト隊が遠距離からの射撃を加え、連

邦軍MS隊の足を鈍らせ、すぐに逃げていく。 変形機の特徴を最大限に活用し、

徹底的に援護に徹する。
まるで、黒いマラサイに先導されるかのように、連邦軍MS隊はガンビア基地表面

に接近し、想定していたよりも容易に先頭の機体が表面に接地した。 

周囲から火力が集中してくるが、対応しきれない程ではない。 それでも次々に接

地する連邦軍MS隊にもある程度の損害が出だしてくる。

比較的旧式機で構成され機動力で多少劣る第2中隊が撤退した、堅牢な第2MSド

ック周辺に配置された塹壕状のバンカー。 
その1つに陣取ったハイザックとガルスタイプのMSの上方向から連邦軍MS3機

が射撃を加えつつ接近を試みる。 前衛のガルスではなく、後方で援護していたハ

イザックが先に被弾し動きが止まる。 その直後、ハイザックは無数のメガ粒子の

ビームを被弾し撃破される。 

局地戦ではあるが孤立したガルスは最後の一撃にとビームサーベルを抜き、多数の

被弾をしつつも致命部への被弾は回避しながら、先頭のジムⅢに突撃する。

それに応えたジムⅢがビームサーベルを抜き振りかぶる。 
互いの白兵戦距離に入る寸前、そのジムⅢの頭部に猛烈な勢いで回転しながら飛来

したジャイアントバズの本体が直撃。 頭部バイザーが粉々に割れ、衝撃でのけ反

った体勢のジムⅢの胴体をガルスのビームサーベルが貫いた。
「バッツ! 第2ドックまで退け! このバンカーは放棄する!」
驚いて振り向いた白と赤で塗装されたネモの頭部に勢いよく「着地」した黒いマラ

サイは、頭部が粉々に飛び散り、衝撃で不自然に両膝を着いた不運なネモの胴体を

蹴って勢いを得て残った1機に接近、驚いてビームライフルの銃口を向けたジムⅢ

の右腕をビームサーベルで一気に切断。 勢いそのままに、左肩に装備された巨大

なシールドから機体をぶつける。 
弾き飛ばされた2機の機体にはもう構わず、黒いマラサイはガルスを引き連れ第2

ドックまで撤退した。 重装甲のドック・ハッチは、1発2発なら戦艦艦砲の直撃

にも耐えられる。 とりあえずは一安心だ。
それと同じタイミングで、隠蔽されていた要塞砲やVLS様式のミサイル発射装置

が射撃を開始。 対抗する連邦艦隊の投射する火力が要塞表面を穿つ。
しかし、連邦軍MS隊としては、これでガンビア基地までの制宙権はほぼ確保でき

ただろうと、後方に位置する艦隊にその旨を連絡した。

異変はそのMS隊のはるか後方に位置し、連絡を受信したホイットニー准将率いる

その艦隊で起きていた。

 

 

 

 

 

 

かなり準備はしたのですが、掲載させて頂くからにはお読み頂ける方への責任を考

えると、完全は無理でも、できるだけ齟齬や破綻のないようにしたいと思ってます。

 

 

前日譚1

前日譚2

一年戦争当時、MS隊指揮官時のマクファーソンの乗機です。