このライブはフジファブリックのデビュー20周年を記念するアニバーサリーライブの1つ
4月の「NOW IS」が今のフジならば、こちらの「THE BEST MOMENT」は文字通りフジのこれまでを洗いざらい振り返る…つまりベストアルバムのようなライブ
…そう期待されていたのが7月上旬、鍵盤の金澤ダイスケが2025年の2月をもってフジファブリックを脱退するというニュースが走ると状況は一変
祝福に満ちたアニバーサリーイヤーは大きな様変わりをしてしまった
年内にツアーをやらないことを公言しているため、活動停止前貴重なライブとなった

この日はロッキンが開催されている千葉市蘇我スポーツ公園から移動して参加する強行日程
恐らくこんなスケジュールを組んだのは自分くらいだろう
でも見れなくなってしまっては後悔しきれない
なので事前にスケジュールを組むと5分前に無事着席できた

会場が暗転して流れるのは、フジがリリースした曲のジャケットが流れる演出
アルバムが生きているかに見せる演出もあってとてもユニークなものだったが、その間にサポートドラムの伊藤大地も加えた4人がステージへ
ステージにはこれまで無かったパーカッションもあり、今までのフジとは異なる編成のようだ

オープニングムービーがノイズと共にいきなり途切れると、山内をボーカルとする編成の始まりとなった「STAR」が鳴らされるが、山内(Vo. & Gt.)の声は最初から安定の伸びっぷり
ワンマンでは近年最大キャパであるガーデンシアターの後方までしっかりと声量は行き渡っているだろうし、伊藤も1つ1つのビートに加減が見て取れる
一方で加藤(Ba.)のベースは今まで見てきた中で最も音質がゴリゴリ
今年のフジはツアーをやらないことを明言しているから、自分のサウンドを見つめ直す時間はたっぷりある
その際によく見直したのだろうし、

「悩みなんか 忘れちゃうよ」
「さあ進むのさ」

のように飛び立てるようなオープニング

伊藤のカウントを合図とする「夜明けのBEAT」で山内や金澤がそれぞれ刺激的なフレーズを弾き、間奏ではCody・Lee(李)の高橋響が参考にしているであろう山内による背面ギター弾きに大きな歓声が起こるが、金澤の脱退発表の衝撃は消えないまま本番を迎えている
なので楽しいは楽しいけど、不安な気持ちを抱えたままでライブに参加しているのが客席サイドの心境だ

しかし本格的に山内ボーカルのフジの始まりを告げることになった「徒然モノクローム」で加藤がうねるようにベースを弾いて、伊藤が間奏で16分を刻み山内と共に前の方に飛び出した後、加藤は金澤の視点を遮るかのように金澤の目の前に
この行動に金澤は「どきなさい(笑)」といった仕草をしているのがスクリーンに映った
脱退を発表したとはいえ、メンバー間の関係はぎくしゃくしてない模様だ
この光景を見てようやくライブに集中出来るようになった方も多いと思われる

「Sugar!」のセルフオマージュとも取れる「電光石火」で金澤がキラキラしたフレーズを弾きつつ、途中でラップするといった大車輪な活躍を経て、山内が挨拶代わりのMCを行うが、この間にパーカッションに1人の人間が
その人物こそ、バズリズムライブで参加者が驚いた朝倉真司
どうやら今のフジはパーカッションも加えた5人編成のようだ
「なぜこのタイミング?」と首をかしげたが、「音楽」にサザンオールスターズが登場するし、もしかしたらサザンオールスターズのような編成でライブしたかったのかもしれない
フジの活動がしばらく出来なくなる前に

とはいえ「大きな変化があったか?」と質問されても、漠然とした変化は感じられる曲と感じない曲があり、「プラネタリア」はおおよそ原曲通り
金澤が奏でる流暢なメロディーが広がっていたが、ガーデンシアターのような大規模空間が映え、山内のシャウトが透き通る「Green Bird」は不思議と緊張感が増していた感じだ
伊藤の特徴である正確なビートにパーカッションが加わったことで手数が増えた感じ
パーカッションを配置した効果はしっかり出ている

そんな中で金澤がここで口を開く
それは先日の脱退発表の件だが、金澤は

「一区切りとさせていただきます」

と完全に抜けるわけではないように話した

これに山内や加藤も受け入れたようで、フジと縁を切る訳ではない模様
ポジティブに捉えるならば、充電期間なのかもしれない

「今日はフジファブリックにおいても、自分にとっても重要なライブ。いつも以上に楽しんでください!!」

と金澤が普段以上に楽しむように促し、その金澤が手掛けた「楽園」のダークな世界観に溶け込ませるが、

「枯れ果てた 楽園(ここ)にとどまるなら
君だとしても 僕は牙を剥く」

が今になって大きな意味合いを発揮するとは…

タイアップとなった「Dr.STONE」は科学が衰退し、古代のような生活に戻った世界で仙空が科学を活用して奮闘する物語であるが、朝倉のパーカッションによりアイリッシュになったことでアイリッシュとなり、世界観に近づいた
無論、ここで伊藤がパワフルにドラムを刻んでいることも、山内が間奏で豪快にギターを鳴らしていることも忘れてはならない

序盤のベースの役割を鍵盤で行うため、金澤の負担がフジの楽曲の中でトップクラスな「KARAKURI」も伊藤のタイトなビートと朝倉のパーカッションが絡まり、更に臨場感が増しているが、金澤は今回の脱退コメントに関してやりきって脱退したということ
つまりは完全燃焼した上での脱退を公言していた
「PORTRAIT」の変態楽曲はフジのキャリアの中でも最大級にカオス
それは「PORTRAIT」において金澤が持てる全てを出し切った
そういうことなのだろう
加藤による唐突なラップも含めて

朝倉がここで1度ステージをあとにすると、

「志村くんとも何曲かやりたいと思います」

と話す山内

山内はかつての自身のポジションに移り、マイクスタンドが不在となるのは志村にもボーカルをやってもらうということであり、今でも度々ライブで演奏される「モノノケハカランダ」以降、背後のLEDに生前の志村を映しながら志村の声が同期される形に
もう山内がバンドのボーカルをつとめている時期のほうが長い
でもフジは志村正彦がいなければ存在すらしていない
この演出が行われるのは必然的なもの
同時に久々にリードギターに専念する山内の姿にグッとなってしまう方もいたのではないだろうか

この構成はしばらく続きアイナ・ジ・エンドがライブナタリーの企画で出演してくれた際にはパントマイムも交えてくれた「陽炎」、志村正彦のモノローグが嫌というほどににじみ出た「バウムクーヘン」とどうやら「クロニクル」までのアルバムからそれぞれ1曲ずつ行っている模様
その際、映像にはフジが長年出演してきたロッキンの映像もあったし、山内が脱退を示唆するかのように透明なギターを弾いていた時期も、ストックホルムでレコーディングしていた時期の映像もあった

絶対に忘れたくない志村と共に過ごした時間
前にも書いたが自分は志村が亡くなってからフジを聞き始めた人間だ
こうした映像を通して志村正彦を知ることが出来て良かったし、志村生前時からフジを追っていた方には
琴線に触れるような映像である

そのうえで最後は教科書に掲載されるくらい有名ななった「若者のすべて」がラストとなるわけだが、

「同じ空を見つめているよ」

の通り、山内たちはずっと4人で活動しているように考えていた
山内達が見ていた風景を曲を通して体感することができた

志村をボーカルにするパートを終えて、「Water Lily Flower」では山内が繊細なメロを紡いでくが、フジをメディアが取り上げる際は大半が「若者のすべて」
近年で大きく取り上げられたのはJUJUが「手紙」をカバーした時くらいだろうか
確かに「若者のすべて」は名曲だけど、フジを長年聞いていればいるほど、「いや、そこ以外にも評価されるべき場所はあるでしょ」といった感じになるし、鮮やかで丁寧な「Water Lily Flower」は特に評価されるべきだったと思う
山内のメロディーセンスが存分に発揮された曲だから
2018年に行われたレコ発でもないツアー、浜松窓枠で聞いた際に「凄い曲出来たなあ」と思ったけど、「Particle Dreams」と共にフジ初心者には絶対に「Water Lily Flower」を聞いていただきたい

「ガーデンシアターの椅子の居心地を確かめませんか?」

といった独特な表現で着席を促す山内

こんな言い回しで着席を促すのは山内くらいだと思うが、他のホール会場に比べれば新しいこともあって座り心地は格段にいいガーデンシアターの座席に着席させると、

「人生は年を取るほどわびしくなったり、寂しくなったりするんですよね。僕はそれが良いなと思っていて。自分を肯定するために作った曲。」

と自分を肯定するために作った「月見草」をじっくり聞かせるが、生まれ育った街やある日の風景を浮かばせる山内の歌詞には風情がある
長く人生を歩んでいる方こそ、「月見草」のノスタルジーな部分に浸りそう
FC限定ライブにて唐突に発した口トロンボーンへの言及は流石にないし、口トロンボーンで笑うことも恐らくないだろう

その直後、8月2日、すなわち公演2日前に誕生日を迎えたばかりの加藤慎一がトークするコーナー、カトークが始まるが、

「僕は夏生まれだから学生の頃、誕生日を祝ってもらえなかったんです!成人になってからも!」

と夏生まれである苦労を赤裸々に話すも、「JAPANとか祝ってもらえたやん!!」と山内や金澤にツッコミを入れられる加藤
2013年のロッキンなんて、最後に大々的に祝ってもらっていたのを今も覚えているが、カトーク名物の謎掛けは「20周年」
加藤はこれに「ペット」をかけ、「どちらもめでたい」と解答
山内と金澤は「じわじわくるやつ」と評したが、こちらにはさっぱり分からなかった

着席コーナーはそんなに長くなかったようで、割と早めに起立させると、前回のアニバーサリーライブではフジの歴史を振り返るラップを山内が行った「東京」で踊らせるが、ここらへんでソロ回しが行われようやくパーカッションが朝倉と判明
前回のアニバーサリーイヤーのように歴史を総括するライブをやって欲しかったが

長い間に渡りライブの締めを担ってきた「LIFE」で山内が、

「ギター、俺!!」

と告げた後ギターソロを行い、

「やっぱり僕ら思っていたよりも
簡単にはいかないから
一人きりでいればそれでいっか」

の後には、微妙にギターの弾き方を変えてこの日にしか堪能できない「LIFE」に変えた後、

「ガーデンシアター!!」

と叫んで歓声を浴び、金澤が中毒性抜群なシンセリフを弾く「ミラクルレボリューションNo.9」はキメに合わせて、フォークの握りをモチーフにした振り付けをさせまくるが、ここで思いもよらなかった銀テープ発射
ガーデンシアターは東京最大キャパのホール会場ではあるものの、武道館や大阪城ホールのようにアリーナ会場ではない
なので銀テープは飛ばないと思ったらこれ
ミラクルレボリューションが起こってしまった

伊藤と朝倉が和のビートを刻み、山内が煽るまくる「FEVERMAN」では加藤が打楽器隊2人と共にじっとせずにいられないグルーヴを築くが、最初のサビから煽るまでもなくモノノケのような振り付けをする客席

「両の手を振って返し押して返し
空になっていいもんね」

といった単純な振り付けが会場を支配するのはいつになっても壮観
巨大キャパワンマンでこの不穏な振り付けをするのは当分ないのだろうか
なんとかもう1回、圧倒される景色を見たい

更に「星降る夜になったら」で会場に星を降り注がせるが、ここまで書いたレポを読んでいただければ分かるように悲壮感は全くない
人間関係に亀裂が入ったような感じもなく、純粋に良いライブをしている
もしも件の発表が解散だったら、アニバーサリーライブらしからぬ雰囲気になっていただろう
復活する可能性は残された
あまりに早いけど夢の続きに期待している

そんなライブも終盤、山内は

「自分たちの曲を受け取ってくれる人も含めてフジファブリック。」

と告げた

4月に行われたLINE CUBE SHIBUYAワンマンでも、山内は似たようなことを話していた
この4ヶ月でバンドの未来が一時的に閉じることが決まってしまっても、山内のマインドは変わらない
リスナーも含めてフジファブリックの一員なのだ

「人生はショウタイムだから!!」

という天然発言をすることも変わりないが(笑)

この発言は盛大に滑り、加藤も言及せざるを得なくなったが、

「最後は組曲ですよ!!」

と簡潔に説明した「ショウ・タイム」でブルースかと思いきや、ファンク、プログレとカメレオンのように変化するのはまさにフジの真髄
フジのイメージである変態ロックで本編は終了した

アンコールの前にはこれまでの名場面をダイジェストにしたような映像も流れる
志村が存命した頃、山内にボーカルが変わった後の名場面が次々に映され、自分が参加したライブもいくつか映され、最後には「THE BEST MOMENT」の文字が映されたが、

「僕はこの曲を歌うために東京に出てきた」

という志村の言葉が流れると共に、あの「茜色の夕日」が10年ぶりに演奏された
武道館ワンマンと同じで、志村正彦のボーカルを同期させる形
それは「茜色の夕日」のボーカルは志村正彦以外に想像がつかないから(昔菅田将暉やThe SALOVERSがカバーしたことがあるけど、それはきっと批判を覚悟の元)
やるだろうとは思っていた
「茜色の夕日」は安易に触れてはならない曲
アニバーサリーライブくらいでしか出来ないだろうから

だから武道館のように泣き崩れる人や口パクを合わせる人が続出 
自分も途中までまともにステージを見れないくらい泣いたが、途中でなんとかこらえられた
これが「茜色の夕日」が10年ぶりに解禁された瞬間だった

演奏を終えると金澤がメンバーを代表して感謝を伝えるが、今回のライブの演出には志村正彦の家族が全面的に関与していること(志村家の協力無しで「茜色の夕日」は出来てないはず)
、1st albumをプロデュースした片寄明人がこのライブをプロデュースしていると共に、

「僕の人生は志村によって成り立っているもの」

と金澤の人生は志村に影響が非常に大きいことを明かした

ついで山内も、

「大阪から上京して半年で志村くんに出会えたから今がある。」

とやはり、志村がいるからこそ今の自分がいることを話したように、志村正彦がいかに大きな影響を与えてきたかを話した

記憶が正しければフジの名前を残すべく、加藤が懸命に動いていたことをどこかのメディアで見たことがある
志村正彦が亡くなった直後のCDJでは多くのミュージシャンがフジの曲をカバーした
ならびに忘れてはならないのは、

「志村くんの曲に導いてもらってここまで来た」

と山内が4月のLINE CUBEワンマンで話したように、たくさんの人が志村の曲に導かれた
これからも志村の曲、並びにフジの曲は影響を与えていくはずだ

そうしてこのライブに関わった方々、志村への経緯を表して金澤もギターを背負う「破顔」の

「会いたい人に会えたかな なりたい人になれたかな
君が君らしくいることで僕が僕らしくいれたよ
ただ息をする今日という日が何より素晴らしいことさ
何もいらない さあ行こう 心配なんか何もない 何もない さあ行こう」

はこちらに向けて歌っているかのようで、間奏でオルタナティブロックに変貌を遂げたあとの、

「だんだん登る朝日のよう 重ねた歌も真新しい
僕が僕らしくいることで少しは優しくできたかな
ただ息をする今日という日が何より素晴らしいことさ
闇を切り裂け さあ鳴らそう 遮るものは何もない 何もない さあ行こう」

は前に行くように促すかのよう
あなたを邪魔するものはなにもない、そう言ってるかのように

そして最後に投じたのはまだまだバンドは続くと言わんばかりの「SUPER!!」
あと半年
あっという間だが、まだ半年ある
その半年を全力で駆け抜けるように鳴らしたあと、メンバー紹介では志村正彦の名前が
そうして記念撮影したのち、ステージを去ったのだった

自分は4月のLINE CUBEワンマンのあと、恐らくファンが待ち望んでいるフジファブリックのベストアルバムのようなライブは8月のガーデンシアター、すなわち「THE BEST MOMENT」と書いた
実際は志村正彦のボーカルを同期する場面、山内がボーカルになって以降の曲が選りすぐられほぼ全てのオリジナルアルバムから1曲行われるもの
これもまたBEST MOMENTな1夜

ただフジを長年追っている方々は「銀河」をはじめ、フジのこれまでを彩った曲を聴きたいだろう
「パッション・フルーツ」や「蒼い鳥」、「流線形」、「WIRED」など
活動期間は残り半年、その間にどれだけやってくれるだろうか

そんなフジの今後
山内は2月にまだ何かあるようなことを仄めかしていた
詳細は分からないが、フジファンの間で伝説となった金澤ダイスケ生誕祭が行われたのも2月
来年の2月、活動停止前の花火を打ち上げてくれるのか

フジフレンドパークをフェスにして開催するのもありだし、リクエストライブもあり
○日間連続ライブもあり
このままでは終わらないはずだ

金澤が脱退する理由もどこかで具体的に話してくれるはず
その時を待とう
だからトキメキを限界ギリギリまで我々に頂戴!!

セトリ
STAR
夜明けのBEAT
徒然モノクローム
電光石火
プラネタリア
Green Bird
楽園
KARAKURI
(志村正彦ボーカル)
モノノケハカランダ
陽炎
バウムクーヘン
若者のすべて
(志村正彦ボーカル終わり)
Water Lily Flower
月見草
東京
LIFE
ミラクルレボリューションNo.9
FEVERMAN
星降る夜になったら
ショウ・タイム
(Encore)
茜色の夕日※志村正彦ボーカル
破顔
SUPER!!