何度も延期されたLINE CUBE SHIBUYAを無事に終えたあとはライブハウスツアーに、フレンズとのスプリットツアーを行ったりと今年も活発に活動しているFIVE NEW OLD
「HIGH CARD」の主題歌として「Showdown」、先日は新曲「Touhiko」をリリースしたが、このZepp ShinjukuワンマンはFC限定ライブは恐らく年内初のワンマンだろう
公演日が公演日だけに、Touhikoのち運命のShowdownである

この日は都知事選をやっているし、Zepp Shinjukuの横には日本で最も有名なパチンコホールがなおのこと賑やかになる日
そんな日にZepp Shinjukuでワンマンをするのはタイミングが凄いし、トー横付近ではストリートライブが多々行われているが、Zepp Shinjukuは埋まっている方だろう
集客を踏まえると、ここかO-EASTがFiNO(FIVE NEW OLDの呼称)には適正キャパだと思われる

定刻を少し過ぎた頃にゆっくり暗転すると、今回のワンマンのタイトルである「fino crewsing」に合わせるように、航海していることを感じさせるような音が流れ始める
それに合わせるようにワンマンではお馴染み山本健太(Key.)と共にWATARU(Gt. & Key.)達が先にステージへ
次いでHIROSHI(Vo. & Gt.)がステージに現れ、山本の鍵盤が爽やかに会場を駆け抜けるメロディーを奏でる「Perfect Vacation」から始まると、ステージ後方にはバンドロゴがステージに映るが、1年ぶりに聞くとHIROSHIは合唱を促す場面が増えている
去年のLINE CUBE SHIBUYAまでほとんどやらず、イベントでもやる日とやらない日があったりするが、タイトルがcrewsingだし、「海っぽい曲といえばこれだもんな〜」と思う
序盤から揺れる会場は海で起こる波のように揺れている

腕に刺青を入れつつ時にパンキッシュにドラムを叩くHAYATO(Dr.)のビートと共に、HIROSHIが自己紹介したあと、照明が黄色に耀く「Sunshine」はサビの

「We'll be alright, alright」

に合わせて、客席がグッドポーズを取るのがお約束
SHUN(Ba.)によるグルーヴィなベースラインで踊らせつつ、間奏ではHIROSHIの合図と共に手拍子を楽しむが、毎回良いところを持っていくのはWATARUのギターだ
山本と共に鍵盤を弾き、音数を増やしているが、「Sunshine」のギターソロは直射日光でも浴びているような感じ
屋内なのに、太陽の光が届いているかのようだ

音を切らさずテンポダウンさせ、山本が織り成す鍵盤を中心にSHUNのスラップベースを鳴らしまくる「Don't Be Someone Else」で手拍子させながら踊らせるが、HIROSHIがサビで客席にマイクを向けると普通に合唱が起こる
FiNOの曲は英語詞が多い
だから合唱は簡単じゃないが、FiNO crewは普通に歌いこなす
この一体感は多くの方に見てもらいたいなあと思っている(HAYATOがスティックを上に投げつつ、キャッチして鮮やかにドラミングしていることも忘れてはならない)

この日はとても暑く、地域によっては40度近くまで温度が上昇
いくらZeppが屋内とはいえ、空調設備には限界があるのでテニスをイメージした衣装を身に纏ったHIROSHIは、

「暑い(笑)もう脱ぎたい(笑)」

とお手上げ(笑)

スマホも簡単に温度が上昇するくらい、夏本番を迎えつつあるが、ギターを背負ったHIROSHIが

「音に酔いしれたいのさ〜」

と航海で波に乗っていくように、クルージングしたいことを伝え、

「どんな曲を歌おうかな〜」

と歌うも、メロディーでバレれており、「Happy Sad」でパンクなアンサンブルを全面に出すが、この日入口付近には活動再開したSWANKY DANKから花束が届いていた
かつてはツアーでお互いにゲストで呼びあった盟友
花束を贈ったということは、再び共演する可能性もあるということだが、FiNOはかつてパンクバンドだったのは有名な話
幾度も音楽性は変化しているが、その変化が色んな仲間を引き寄せ今のような音楽性に繋がったのだろう
リズムはブラックミュージックそのものなのに、メロディアスなのは強固な個性である

ついで「Summertime」と拳を上げたくなるアッパーな曲が続くが、HAYATOが力強くキメを行い、WATARUはエモーショナルなメロを鳴らす
先程までR&Bやジャズテイストな曲をやっていたのがまるで嘘のようで、音圧も一気に強くなるが、「Dance with Misery」を純粋なワンマンでやるのはいつ以来だろう
去年「Too much〜」がリリースから5年経過したことを祝うスペシャルライブを行っていたが、山本の鍵盤がどっぷりとAORの世界に浸透させれば、また雰囲気は大きく変わる
航海は喜怒哀楽に塗れるように、音楽も様々な表情を出す
すなわち色んな音に触れることであり、ステージも客席も音に酔いしれている

そうしてFiNOのワンマンで重要な部分を担う山本健太、持ち時間が短いライブでは変わってメインとなる部分を担当するWATARUを、

「小柄な山本健太、大柄なWATARU」

と身長差を弄るように紹介し、FiNOきってのミクスチャーである「Liberty」でHIROSHIはいつものようにラップまでこなすが、この日は特にアクセントを入れながら歌っていた印象
最初から最後まで強い口調で「Liberty」を歌っていた記憶はない
歌い方を変えたのはこの日が都知事選だったのもあるのだろうか

そんなFiNOは上半期ほとんどライブをしてなかったようで、関係者やファンからも「何やっているんだ?」と不思議がられていたようだが、どうやら上半期はスタジオを制作していたようでホームセンターに通ったりしていたらしい
そうしたD.I.Y.を行うのなら、ライブが少ないのも仕方がないが、

「ライブしなさ過ぎて、忘れさせられるかと思っていた」

と不安だった模様
トレンドが変わるのが早すぎる今日だからそうなってしまうのも分かるし、新曲をリリースしてなかったら、より不安だったのではないだろうか

もちろんスタジオを設立するだけでなく、新曲も制作していたわけだが、初の日本語読みタイトルとなった「Touhiko」は、事前にコーラスを練習させつつも中身はサカナクションの「新宝島」のように70・80年代の歌謡曲を意識させながら、WATARUのギターがエモを醸し出すFiNOだから作れる曲
同時に

「騒がしい街から逃れて」
「ほらいつものあの場所へ」

とライブ会場へ誘うような曲
ステージ後方には乗り物もレーザーで描かれていたが、特に新宿なんて陽キャではない自分には近づきにくい町
客席には普段は新宿に足を運ばないような方もいた
この「Touhiko」がcrewをZepp shinjukuに導いてくれたようなもの

曲調が幾度も変わりながらもアッパーに突き抜けていくアニメタイアップソング「Trickster」、SHUNがシンセベースにスイッチし、WATARUがサンプラー(シンセパッド?)を操作しながらサビでは思い切り歪んだギターを鳴らす「Chemical Heart」とアッパーな曲を続ける中、山本は急にチルサウンドっぽいメロディーを奏でる
まるでバラードでも始まりそうな気配
「LNLY」でもやるかと思ったが、そこから繋がれたのはEDM全開な「One By One」

WATARUもSHUNもシンセ、HAYATOも打ち込み中心のビートを使用するなどある意味非バンド曲
しかも女声コーラスのパートも同期は使わず、HIROSHI自身が歌う音域の広さ
ここには脱帽したが、アウトロになるとWATARUはギターに持ち替えHAYATOも生のドラムに
それどころかHIROSHIはサンプラー(かシンセパッド)を使って、ハイブリッドロックに切り替えた
ダンスミュージックがこんな変貌を遂げるなんて思いもしないが、FiNOはライブでアレンジを大きく変える曲が多い
完成した曲を再構築するかのように、雰囲気を大きく変えるのだ
ライブは決して多いわけじゃないけど、足を運べるなら絶対に参加したい
FiNOは変幻自在のTricksterだから

HIROSHIがアコギを背負うと、日本語版の「By Your Side」とも言うべき、「Moment」をスケール大きく鳴らしていくが、この時のHIROSHIの声は客席をまるごと包括する、そんな優しい声だ
「Moment」の直後、客席からは「ブラボー!!」という声が聞こえたがこれはHIROSHIの家族の声
どうやらHIROSHIは母子家庭で育ったようで、HIROSHIを育てた3人が客席にいた模様
HIROSHIの優しさは「Moment」にしっかり出ている

この日は都知事選の日
これまでが嘘のように著名人が投票報告ツイートをしており、HIROSHIも期日前投票をしたようだが、

「俺たちの音楽で世界を変えることは出来ないけど、心を変えることは出来る。経済的だけじゃなくて心の豊かさもないと。それに自分たちの音楽が貢献できればいいなと想って、そんな世界にしてくれる方に一票を投じました」

と「政治の話聞きたくない人もいるかもしれないけど」と断りを入れつつ、HIROSHIはしっかり自分の意見を表明した

この公演の30分後、現知事3期目どころかとんでもない人物が獲得数2位にいて、自分は正気を失ってしまった
けれどもHIROSHIは断りを入れず、思うことがあればガンガン主張していい
それは他の著名人もそう
駄目な点は異議を唱える
そうして政治にストップをかけに行くことは重要なことだ

政治が悪政に傾けば普通にライブも出来なくなるし、貧困家庭が増えてしまっているのは完全な政治の責任
金銭面が原因でライブに参加出来ないのはあまりに悲しいし、いくら経済的に余裕があっても心に余裕がなければ意味がない
揚げ句の果てには、戦争が始まってしまったら全てが戦争優先にされてしまう

だから今回の都知事選、「政治に触れるのはタブー」がようやく消える兆しが見える選挙になった
将来的には経済的にも心にも豊かになる世界へ
そこにFiNOの音楽が貢献できることを願っている

そうした政治の話をすると、時には重くなることもあるが客席からはむしろ大きな拍手が
政治としっかり向き合う姿勢を見せたことで、crewからはより支持が上がったのだろう
故にどんよりすることもなく、FiNOのコンセプトであるONE MORE DRIPに沿うように、浮遊感あるメロディーが広がる「Ghost In My Place」で煌めくような空間へ
喧騒した街どころか社会全体がどこか弱者を切り捨てるような雰囲気
特にZepp Shinjukuの横はトー横なので尚更だが、居場所がなくても、ライブハウスには居場所がある
My Placeが

その煌めきが一瞬で熱に変わるのは、鉄板の「What's Gonna Be?」であるが、SHUNがなぞるベースラインはR&B仕様であっても、HAYATOのビートはまごうことなパンク
R&Bとパンクを絶妙な黄金比率で融合できるのはFiNOくらい
独特の音楽性の変化が導いたキラーチューン

更に忘れてはならないのは、FiNOの最新代表曲である「Showdown」
「Trickster」と同じく「HIGH CARD」の主題歌になっていたが、音圧は段違い
PVでも表現されていたように、アーバンポップやジャズの雰囲気からサビは一瞬でエモに切り替わる
よく見たらSHUNはベースの弾き方をフィンガー奏法とピック弾きで分けているし、WATARUのギターもこの日1番の爆音だった
一種で全てを持っていく、とんでもない曲だし、多くの人は耳にするべき曲

そして最後はHAYATOのビートが力強く、完全にパンクそのものな「Breathin'」
ライブハウス、いやライブ会場の空気をいつまでも吸い続けるためには、何にも拘束されずに拘束しようとするものからは抜け出す必要がある
そのためには生き続けること、政治と向き合うことは必須だ
自由であるため、縛られないためにもkeep
breathin'するように刻ませるような本編ラストだった

アンコールで戻ってくると、WATARUが物販紹介を行い、それからHIROSHIが合流するが、FiNOはこの前日に渋谷にあるアマゾンミュージックのスタジオ(shibuya eggmanのすぐ近くにある)で前夜祭を行っており、そこで作られた新曲「crewsing」をWATARUが鍵盤を弾く、弾き語り形式で
まだ音源化は未定のようだが、いずれ聞ける日が来るだろう
1時間でこれを作ったのが凄いが

山本も含む3人が戻ってくると先に記念撮影を行い、掛け声が「ブラボー‼」であるのはとてもシュールだが、告知として11月からFiNO主要都市を回るツアーを開催
しかしこのツアーは東京無し
客席からは「えええ!?」と落胆や驚きに近い声が起こり、

「来てよ!たまには地方にも来てよ‼」

とHIROSHIは要望していたが、東京は9/13に渋谷DIVEにて「Emulsification」の楽曲を全曲行うライブを開催することを発表
「What's Gonna Be?」も「Fast Car」、「In/Out」など今でも演奏される曲が多い
ただ個人的に「Emulsification」はFiNOの転機になった作品と思っている(実際2019年の年間ベストアルバム30にも選出した)
当時リリースツアーには行ってないし、これは見逃せない
2025年の春には結成15周年を祝う特別なライブもあるらしい

すると、

「普段はリクエストに応えることは無いんだけど、あまりにリクエストが多かったから…」

と「Emulsification」から「Bad Behavior」を特別に
HIROSHIはアコギでHAYATOはアイリッシュなビートを刻む「Bad Behavior」がリクエストで聞けるなんてそう予想はしてない
仮にリクエスト制度が出来るなら、「LISLE'S NEON」の全曲演奏ライブをやって欲しいし、楽曲なら「MUSIC WARDROBE」から「How To Take My Heart Out」をやっていただきたい

そしてラストはやっぱり「By Your Side」
去年までと違って客席には突入しなくなったけど、WATARUやSHUNは向き合って、HAYATOがいつものようにビートを爆発させるラストはずっと近くにいる証明のようなもの
先日自分は特に愛しているバンドが来年をもって活動停止することを発表したので、できる限り側にいて欲しいと特に願った

「crewsing」というタイトルの通り、様々な音に酔いつつとFiNOとcrewが歌う…
世界一周なんて書いたら大げさだけど、様々なジャンルの大陸に上陸して音に酔いしれながら歌う
この一夜はそんなPerfect Vacation
参加した方々なら、きっとそう思えるライブだったはずだ

コミュ障で明るい人間でもない自分が新宿に来るのは渋谷と同じくらいキツい
歌舞伎町タワーなんて派手すぎて、自分は長時間居座れる気もしないのだが、Zepp Shinjukuは騒がしい街からTouhikoするためのシェルターになっていた
新宿はFinoと我々にとってのmy placeになっていた

既に都政は不穏な空気を見せ始めている
でもライブ会場で空気を吸うためには、自由であり続ける必要がある
だからkeep breathin'のち正解のない世界でも光る先へ

セトリ
Perfect Vacation
Sunshine
Don't Be Someone Else
Happy Sad
Summertime
Dance with Misery
Liberty
Touhiko
Trickster
Chemical Heart
One By One
Moment
Ghost In My Place
What's Gonna Be?
Showdown
Breathin'
(Encore)
crewsing※新曲、仮タイトル
Bad Behavior
By Your Side





※前回見たFIVE NEW OLDのライブ
※前回見たFIVE NEW OLDのワンマン