個人的に近年シーンに出てきたバンドの中でも、特に演奏技術が高いバンドと思っているクジラ夜の街
4月にはZepp Shinjukuにて映像演出は程々に、歌舞伎町にもファンタジーを出現させたが、今回のワンマンはクジラ初となるホールワンマン
結成7周年を祝うアニバーサリーワンマンである

会場に到着すると、場内からはファンタジーの世界へ誘うようなBGMが流れているが場内は幕がはられており、詳細がどのようになっているかは始まるまで全く分からない仕様
Zepp Shinjukuのアンコールで舞台監督を強調していたことから、絶対何もないわけが無いのは分かるが

開演前に宮崎(Vo. & Gt.)による諸注意説明があり、番組で使用するための収録カメラが入ってること、並びに発声練習をさせたあと、定刻を少し経過したところでゆっくり暗転
普段なら「幸せのかたち」がSEで流れるところだが、この日は特に流れずに変わって登場したのは黄色のジャンパー(でいいのか?フードが付いていたのでモッズコートではない)にサングラスやマスクなどを着用し、容姿が見えない人物
どうやら彼は1000年後、音楽があまり聴かれなくなりロックバンドが絶滅危惧に瀕しているらしい未来から訪れたクジラ夜の街、7歳(結成7周年だから7歳)のライブを見に来たタイムトラベラーらしい
誰が演じているかは察しがつくが(どう考えても声が宮崎)

タイムトラベラーが去ると、ステージの幕が上がっていきサポートの高田(Key. from Chef's)を入れた4人は既に演奏中
遅れて宮崎もステージに姿を現すが、注目されていた舞台にあるのは、「ファンタジア」と書かれた古本屋兼酒場
そう、最初の「踊ろう命ある限り」に登場する架空の店舗が現実になったのである

パンクバンドに所属していても違和感ない秦(Dr.)のパンキッシュなビートも序盤から炸裂しているが、ファンタジアの中にいるということは、クジラ夜の街の世界観に取り込まれたのも同然
ならばライブが終わるまで踊り続ける
これに尽きるのであり、意識せずとも自然に合掌してしまう

宮崎が自己紹介したあと、

「光の速さは1秒で地球8周。自分も好きな人にそれくらいの速さで会いに行けたら良いのに。」

と光の速さについてのウンチクを語り、結束バンドの新曲の歌詞が頭にチラついたが、その光の速さが曲中に登場する「ここにいるよ」は、佐伯(Ba.)のゴリッゴリなベースが牽引しつつも、照明の主張がやや激しい
「光の速さはこんな感じだぞ」と言わんばかりに

ついでデビューアルバムに収録されていたのもあり、パンクな一面を見せつつ山本(Gt.)が風が吹いているように感じさせるギターを鳴らす「風のもくてきち」を爽やかに吹かせると、先陣を切るように話し出すのは秦
4月のZepp Shinjukuワンマンで手紙を持参し、客席を爆笑させたのは今も覚えているが、この日も手紙を持参
冒頭は太宰治の文を引用し、宮崎がツッコミを入れるが、手紙のタイトルが「懺悔」だったことから察せられるように、秦によるセルフ公開処刑に
本人のために内容は伏せておくが、これほどの内容を人前で堂々と晒すことができるのはある意味凄いメンタル
宮崎によれば、更にヤバい内容もあるらしいが、その中身が晒される日はあるのだろうか?

するとここで来月リリースされる新譜より、新曲「失恋喫茶」

「失恋は人を強くする」

と話した通り、失恋をテーマにした曲だが、リプを中心に「メロンクリームソーダ」など喫茶店を連想するワードが多いのも特徴
「ショコラ」のように非ファンタジー系統の楽曲
心を掴まれる方は多いだろう

ハンドマイクになった宮崎による高速ストーリーテーリングが行われると、客席からは大歓声
宮崎が前置きを入れる曲は何回かライブに足を運べばはっきりと分かる
なので多くの人が確信していたであろう、高田の疾走感ある鍵盤や口ずさみたくなるようなギターリフを山本が鳴らす「あばよ大泥棒」はまるで泥棒に別れを告げるかのように、客席の至るところから手が振られていくが、ステージを去った宮崎と入れ替わるように流れた不気味なラジオ音声の後には、宮崎が「ファンタジア」の扉からダークヒーローに扮して登場
ただでさえキメが多く、山本のギターにも佐伯のベースにも注目したいが、結局かっさらうのは宮崎
これぞまさしくダークヒーローである

1週間の終わりということで誰もが経験、あるいは経験したくないであろう終電をテーマにした「裏終電・敵前逃亡同盟」ではじっくり身体を揺らさせるチルサウンドが奏でられつつ、宮崎は本棚の上に用意されたソファで寝転がりながら歌う場面も
近所にあるNHKホールでindigo la Endがワンマンした際、絵音はソファに座る感じで使用していたが、宮崎はこうも大胆
それはダークヒーローの設定が残っていたのかもしれないが

しかし「美女と野獣」になると、宮崎は書棚にある本を手に取るが、そこから宮崎の仕草は、歌詞のテーマである「過去の自分との決別」を意識しているように見えた
クジラ夜の街はファンタジーを生み出すバンドであるが、そのファンタジーを生み出すには表現力、つまりはどんな世界を構築するのか細部まで踏み込む必要がある
それが出来ているから、シーンにおいて唯一無二の世界観を作り出している訳だが、宮崎は俳優としても活動していけるかもしれない
そう思えるくらい、曲の世界を再現していた

宮崎が再びギターを背負い、

「僕の好きな人はギターを弾きながら歌っていた」

とギターを奏でながら告げるが、これは「拝啓」というインターリュード楽曲のようで、この導入を経て「歌姫は海で」に
宮崎が書き記すファンタジーは濃度が濃く、小説やアニメーションにすることもできるだろう
しかし映像は使用することなく、アンサンブルのみで曲の世界観を我々にイメージさせる
それが出来るのは各々の楽器が巧みに強弱をつけるからであり、凄腕スキルを持つメンバーが集っているからこそ
中でも秦、手数の多さは去ることながら明らかにパンクの影響を受けたドラムが強烈な個性を与えている
将来的にはUNISON SQUARE GARDENのTKO、凛として時雨のピエール中野などのように憧れのドラマーとして名を連ねるはずだ

そのうえで宮崎が指揮者のように各々の音を操り始めると、セットが解体
開演直後から後方に時計塔はあったものの、その時計塔が目立つようにファンタジアは解体されていく
そうして時計塔のみになり、

「1000年前のお話を」

とZepp Shinjukuでは朗読劇が始まる入口となった「ヨエツアルカイハ1番街の時計塔」へ

無論、この日も宮崎がカウントすると、会場は暗転
ステージには夜空が広がり、1階席には漂いまくるスモーク
この瞬間にLINE CUBE SHIBUYAはファンタジーの一部となった
現実とかけ離された非日常空間
フリ放題コーリングで見たときも、Zepp Shinjukuで見たときもそうだったが、「ヨエツアルカイハ〜」は会場を一瞬でファンタジーの世界に引き込む魔法が宿っている
クジラ夜の街の楽曲において、最も重要なポジションを担っているのは恐らく「ヨエツアルカイハ〜」ではないだろうか?

「クジラ夜の街のライブは、夢の中です。夢ってことは空も飛べるんだぜ!」

と宮崎がクジラ夜の街でのライブのコンセプトを簡潔に話すが、この煽りは当然秦のドラムソロへの誘導
いつものように超絶ドラムソロを見せつけ「夜間飛行」から、

「よろしくどうぞ!!」

と「夜間飛行少年」に繋がり、我々を自由自在に羽ばたかせるが、最後のサビ前になると、

「悲しいこと忘れなくていい!僕たちに全部任せてくれ!!」

と宮崎は叫んだ

ファンタジーの世界は空想
すなわち人の心を癒すところであり、言い方を変えるのであれば負の感情の放出場
宮崎達はファンタジーを用いて、人々の悲しみを放流させようとしているのかもしれない
ファンタジーとは逃げ場
悲しみに暮れた人々を匿ってくれる空間

更に夜空を飛行させた後は、秦の迫りくるビートに山本のキレあるギターリフで踊らせる「少年少女」が続く
ファンタジー要素はほぼ無く、どストレートなロック
それ以前にクジラ夜の街は飛び道具を用いずにアンサンブルで魅了させているが、スーパーバンドがストレートなロックを鳴らしたら、スーパーストレートなロックに
かつて福岡ソフトバンクホークスの守護神だったデニス・サファテのように、伸びまくる速球を投げている
これをじっとしたまま、聞いてられる訳がない

そしてタイムトラベルビートを擁する「時間旅行」を経て、佐伯のベースが牽引する「時間旅行少女」で最後の曲へ
空を飛べるのであれば、タイムトラベルだって出来る
まさしく夢の中だから出来ることだが、いつもなら歌わせる

「時間旅行少女に手を引かれて
懐かしい未来へ行くのです」

の合唱は無し

しかもZepp Shinjukuでは本編だけでインターリュードも含めて22曲やっている
なのにこの時点で17曲(しかも公演終了まで、「拝啓」の存在は明らかになってないので、実質16曲)
明らかに短すぎる
「それに序盤に出てきたタイムトラベラーは…?」と疑問を抱いていたが、1度宮崎達がステージを去ると、時計塔の針が急に動き出す
ざわつきはしないものの、客席中の視点が時計塔に注目し、時計の針が止まると再びタイムトラベラーが登場

ライブの感想を簡単に話しつつ、

「音楽を、ライブを、ロックバンドを絶やしてはならない」

と話すタイムトラベラーの言葉には、有観客ライブができなくなったコロナ禍初期を呼び起こさせたが、その最中に山本達が戻ってくる
そうして「ずっとおぼえていてね」を演奏している最中、タイムトラベラーは、

「自己紹介が遅れました。我々、1000年先の未来のクジラ夜の街です。」

と正体を告白する

タイムトラベラーが宮崎であるとすぐには分かった
でも単なるタイムトラベラーではなく、1000年後のクジラ夜の街
これは予想も出来たかたはいたのだろうか

そして新曲にして、最後の「Saisei」
歌詞は覚えてないが、とても壮大なアンサンブルだったのは確かだった
加えて宮崎が、

「君のギターも、鍵盤もドラムもベースも愛そう!!君たちの愛も!!」

とクジラの音やそれに関わるものを全て愛すと誓った場面は、きっと忘れられないだろう
これからの決意が述べられた後、ステージは鮮やかに幕を閉じる
2時間も経過してない本編
けれども壮大な映画のエンドロールを見ているような気分になっていた

1度セットをバラしていたためか、セットを再び構築するべく、多くの時間を要した後に「浮遊」が流れる中で、再び宮崎たちが戻ってくると海底にいるような気分にさせてくる「ハナガサクラゲ」へ
今度は夜空から海底へ
いろんな世界を体験させるクジラ夜の街は素晴らしいエンターテイナーだなあと思っていたところ、告知として

①FC「FANTASIA」開設
②ファンネーム決定(FANたち?FANTACHI?誰か詳細求む)
③崎山蒼志とツーマンツアー、「劇情」が決定

中でも③は「オカベボフジラ」で希望していたことなので念願叶ったりだが、Cody・Lee(李)も呼んで欲しかったのが本音である
その崎山とのツーマンを書棚の上に登ろうとしたものの、梯子がないため大恥をかいてしまった秦、並びに最近宮崎と仲良くなっているらしい山本は「おこぼれ」と言い出すので、宮崎はツッコミを入れまくっていたが、佐伯は昔「Heaven」のPVに出ていたらしい

そのうえで宮崎は悲しい話をしようとしていたものの止めて、

「悲しいことはきっと訪れるし、悲しいことは続いていく。いつかあなたの大切な人が亡くなる日も訪れます。」

と現実を告げた
そう、別れからは逃れることが出来ない
自分は去年、親戚を2人失った
覚悟はできていても続けて失くすことだってあるだから

とはいえ、

「人間の感情は天気みたいに変化するんだし、感情の変化を楽しみましょう」

と話す宮崎はとても23とは思えない
しかもこれをツイートしたら、宮崎本人にファボされてしまい、思わずゾッとなってしまった

そして最後は既に春フェスから披露されていたらしい「祝祭は遠く」
アイリッシュぽいけど、パンクでもある
いわばミクスチャーのような曲だが、

「今やめたら何も残らない」

の通り、途中で諦めたら何も残らない
成功していく方々は誰もが諦めなかった
努力は報われるわけではない
それは痛いほど痛感している
でも手放したら何も残らない
だから、

「俺たちの夜はこれからさ
何にも怖いものはない
さあ胸張っていけよ
虚勢だって良いから
遠くの喝采に心やられぬように」

は我々とクジラの愛言葉のよう
周りに惑わされず、進んでゆけと促すかのように

なおかつ、

「進め進め千鳥足でも
発して発して世迷言でも
昨日より、今日より
祝祭は遠くない」

と一歩一歩が祝祭に近づいていると勇気づけ、

「クジラ夜の街は、ずっとあなたの側にいます」

と寄り添う姿勢を見せて、ライブは終了
記念撮影も行い、ステージセットの撮影も許可されたあと、

「クジラが1000年先も聞かれるかは皆様の行動次第」

という宮崎の言葉が最後に届けられて本編は終わった

これまでクジラ夜の街の主戦上はライブハウスだったので、これが初のホール
しかしホールながら、クジラ夜の街のライブは次第にファンタジーの世界、夢の中に吸い込まれる
ファンタジアを実際に作った舞台も、タイムトラベラーが1000年後の未来からロックバンドを見るべくやってくる設定…
どれも素晴らしい非日常体験だった

4月のZepp Shinjukuはソールドアウトしてない
なので自分は正直動員を心配していた
宮崎は友人を連れてくるように頼んでいたほどだし

けれども当日、普通に3階まで人はいた
もう少しでソールドアウトするところまで迫っていたのだ
それだけたくさんの人がクジラのファンタジーに魅了されている、いや悲しみを放出しているということ
クジラは悲しみを忘れさせる存在になっている

この先ホールツアーやアリーナワンマンが出来るようになったら、どんな世界を見せてくれるのだろう?
ホールの先、アリーナで自分はクジラを見たい
クジラ夜の街の夜はこれからさ!!


セトリ
踊ろう命ある限り
ここにいるよ
風のもくてきち
失恋喫茶※新曲
あばよ大泥棒
BOOGIE MAN RADIO
裏終電・敵前逃亡同盟
美女と野獣
拝啓※新インターリュード
歌姫は海で
再会の街
ヨエツアルカイハ1番街の時計塔
夜間飛行
夜間飛行少年
少年少女
時間旅行
時間旅行少女
ずっとおぼえていてね※新曲
Saisei※新曲
(Encore)
ハナガサクラゲ

祝祭は遠く






※前回見たワンマンのレポ