タイトル︰「THE GREATEST UNKNOWN
アーティスト:King Gnu
THE GREATEST UNKNOWN (初回生産限定盤)

 millennium paradeの活動もあったとはいえ、アルバムをリリースするのは「CEREMONY」以来約3年11ヶ月ぶり

だいぶ時間が空いたKing Gnu、久々のフルアルバムです

コロナ禍の到来がサブスクの流れを加速させ、King Gnuもシングルや配信限定シングルを並行させていたわけですが、その結果アルバム未収録楽曲の量が膨大なことに汗
もうこの流れは見慣れたものとなりつつありますが、忘れらんねえよは開き直って全曲収録(↓参照)
Vaundyは新たに新曲を多数収録する戦略にでました(それが「Replica」)

で、King Gnuはというと「F.O.O.L.」以外の楽曲はほぼ収録させることに
新曲もほとんどがインターリユード
これだけではベスト盤も同然でしょう

ただこのアルバムは、ベスト盤に見えてそうではない
色んな音楽媒体でも言及されていますが、既に発表されている曲のほとんどはアップデート
「Album Ver.」と付けられた曲の大半は、ほぼ別物になっていると考えたほうが良いです

実際「カメレオン」はFCツアーの流れを再現するように、冒頭に「MIRROR
(MUSICAによれば、スペインのハビエル・ブストーが手掛けた「O magnum mysterium」がを井口は元にして合唱パートを手掛けた模様)」がセッティング
※元ネタはこれ↓

曲名も新たに「CHAMELEON」となったのですが、曲調(流麗な鍵盤とそっと足元で支えているシンセベースがよく耳に残り、終盤にドラムがタイトになるあの構成。BIGMAMAのビスたんが「どうやって叩いているか分からない」とYouTubeで話してました)が変化してないように見えて、キーが4つ上がるとんでもないアレンジがなされています
井口泣かせのようにも見えるこのアレンジですが、

「僕の知らない君は誰?」

では終わらず、「君は誰?」のフレーズをサンプリングして繰り返す「DARE??」に繋がるというながれ
しかもライブではここに「Vivid Red」をマッシュアップさせるという…
※「Vivid Red」…未音源化楽曲、現在サブスクでも配信されておらず、聞けるのはYouTubeくらい?

※場合によっては消します

このようにこの「THE GREATEST UNKNOWN」は既に発表された楽曲を再構築して、1枚のアルバムへ…
とんでもない作品をKing Gnuは制作しているのです

並びにこの「The Greatest Unknown」は、「スポットライトに当たってない人のための音楽」という意味もあるのですが、

「生き様を悔いるなんて
そんなの御免だわ」

とあなたを肯定する「SPECIALZ」はドラムが打ち込みのビートになっており、従来のロックから逸脱
ギターは歪んでいるのに、リズムは打ち込みやシンセとジャンルから抜け出しはじめ、「千両役者」もリズムがブレイクビーツに変更

「一世一代の大舞台
有名無名も関係ない
爽快だけを頂戴
あなたと相思相愛で居たい」

と言いながら、

「好き勝手放題の商売」

のように好き勝手やって、ジャンルの域を飛び越えてしまったのです
曲のイメージを変化させてまで行うKing Gnuのアレンジ
まるで王者の貫禄です

その魔改造は「劇場版 呪術廻戦 0」の主題歌だった「一途」「逆夢」にも及び、

「届け届けと血を巡らせて
一途に愛します
永遠なんて必要は無いの」

と言わんばかり、16分ビートのストレートなギターロックを鳴らす「一途」は、ベースが強くなったように感じ、アウトロではメタルのような速弾きギターソロが追加に
それどころか「逆夢」の前にも、緊張感のあるバイオリンと流麗な鍵盤が絡み合うインターリユード「δ」が追加
「逆夢」そのものはあまり変化していませんが、

「あなたが望むなら
この胸を射通して
頼りの無い僕もいつか
何者かに成れたなら」
「訳もなく
涙が溢れそうな
夜を埋め尽くす
輝く夢と成る」

は乙骨憂太視点とも、King Gnu視点とも取れる
かつて横浜ビブレ前の特設ステージでライブしていた4人は、今やドームツアー出来るように
感傷的にならずにはいられない名フレーズは、よりセンチメンタルなものになった印象です

このように怒涛のアレンジラッシュとなっており、過剰アレンジを好まない方にはあまりフィットしない気がしなくもありませんが、数少ない新曲である「IKAROS」は常田が、井口がお酒のCMを担当する話が出たところから膨らみ、

「「McDonald Romance」作ったときの感じに近い。」

と公言したように、初期のアルバム「Tokyo Rendez-Vous」にもあったようなAORな感じ
がっつり煮込まれたような曲が多いこのアルバムで「IKAROS」の存在は、身体に優しい食べ物に親しみやすいですし、

「笑ってよ、どうでも良くなる程
燃やし切ってよ、諦めがつく程に
決して微塵の虚しささえ
残らぬほどに、振り返らぬように」

とこういう触れやすい曲にメッセージを込める

ヒーリングミュージックとしての効果も期待できる
そんな1曲ではないでしょうか

その「IKAROS」を皮切りに新曲が続いていくことになりますが、30秒とはいえベースバッキバキな「W●RKHOLIC」は、millennium paradeで椎名林檎とコラボした「W●RK」の一部

それをKing Gnu用に引用した感じですが、ダークなアンサンブルとエレクトロを横断する「)︰阿修羅︰(」はロッキンオンの山崎洋一郎が相当気に入っていたイメージがあります
なんたって、

「修羅修羅修羅の道
危険な程に楽しいでしょ
ピュアピュアピュアな君に
ドキドキが止まらないわ」
「恐れど遊べ
流れるままに
涙を流して身体で笑って
ココロノママニトーキョーシティ
ココロノママニ遊び尽くすわ」

は、常田達の人生観が出ているかのよう
依然混沌とした世の中が続いても、人生を楽しんでいるかのよう
ユーモア満載で聞いているこちら側も楽しくなる1曲と言えます

一方、「ミステリと言う勿れ」の映画主題歌として先行配信されていた「硝子窓」はヒップホップやジャズのアプローチがなされており、しんみりした感じになってますが、

「誰かが決めた宿命や
変えられない運命の中で
生き抜く意味を探し続けたい
弱さは負けじゃない
壊れたら直せばいいよ
誰もが一悪を以って歪さ笑って」

と寄り添うのは、

「ねえ お願い高速を飛ばして
悲しみの向こう側まで連れてってよ
今日だけは総てに糸目は付けないの
硝子窓に映るあなたはわたし
他人事では居られないあなたはわたし」

とあなたのことを我が身のように考えているからではないでしょうか

前に常田は自身のことを「タイアップの奴隷」なんて表現したこともありましたが、それだけだったらリスナーを鷲掴みにする曲は生まれてこないと思います
意図的だとしても、このアルバムのテーマの1つとして、「スポットライトに当たってない人のための音楽」
そのテーマに相応しく、リスナーが求めるようなリリックを掛けるのは流石シーンの王様です

並びに「2 Μ Ο Я Ο」
過去の曲だと「It's a small world」のように、ブラックミュージックやヒップホップが強い曲でここではエレクトロに沿ってジャズやヒップホップを流入

「ずっとずっとずっと
雨上がりの夜空が
この時がずっと続きますように」

と平和を願ったり、

「全部嫌になっちゃったら
全部放り出しちゃいなよ
“嫌になっちゃったら放り出しちゃったら?”」

と無理を強いらなかったりと、King Gnuなりのラブアンドピース曲と言っても良いかもしれません
問題は今後「SPECIALZ」のように、ロックやポップから外れたような曲が多くなりそうな点ですが

そしてこれ以降の曲は全て先行シングル+α

「パチンと弾けて
泡のように消えた
呆気のない運命が
心をえぐった」
「確かに感じた
仄かに歯がゆい
過ぎ去った運命に
囚われたままで」

と簡単に消えゆく命が描かれている「泡」といえばアンビエント故、ライブでの爆発力が凄まじいことになってますが、1Aは歌唱と鼓動のみとより緊張感が強いものになっていたり、

「あの日の悪夢を
断ち切ったならば
スポットライトに何度でも
手を伸ばし続けるから」
「終わりを怖がらないで
所詮無謀だと笑って
人事を尽くし切って今
天命を待つだけだって」

と力強いメッセージが多く羅列された「STARDOM」は、サッカーテーマソングだったことも関係しているのか、イントロから合唱が入り、元から歪みまくったギターや終盤のベースソロなどスタジアムロック色が強かったアンセムはよりグレードアップ

ドラマ主題歌とは思えないくらい、ギターが主張しまくり、

「紡ぐよ でこぼこな此の道に 降り注ぐ雨燦々と
悩ましく 生き惑う僕らの
悲しみさえも 水に流してゆく」

とバンドの使命を描いたような「雨燦々」

「雨燦々と降り注ぎ」

のフレーズがピックアップされた「SUNNY SIDE UP」がイントロに挿入される変化が

「どんだけアレンジすれば気が済むねん」とツッコミを入れそうな方も多そうでしょうし、「ここから更にマイナーチェンジしたりするの?」といろんな意味で怯えたりもしてしまいますが、「BOY」に限っては、そこまで大きな変化が起こっていません
アルバムの中で比較的ポップによった曲ではありますが、ティキシーランドジャズ由来のベースや手数の多いビート、ポップとは思えないくらいギターソロが強力だったりと充分完成されているからでしょうか
数少ないそのままでの収録となりました

「走れ遥か先へ
汚れた靴と足跡は
確かに未来へと
今駆けてゆく
息を切らした君は
誰より素敵さ」

など歌詞も完璧ですからね

そしてこの既発曲にまみれたアルバムにおいて、ラストを担うのは今回のアルバムで最も古い楽曲である「三文小説」
これが実質3部構成になっており、「仝」から物語に引き込まれるような感じになったのですが、「三文小説」は全編再レコーディングとなったようで、最後のサビ前まで鍵盤が排除される大胆な刷新がなされました
つまりは鍵盤が入ってくる際のインパクトが大きくなったということですが、「三文小説」って歌詞に欠点が一箇所も見当たらない
最後になるのも至極当然なんです
特に、

「怯えなくて良いんだよ
そのままの君で良いんだよ」

は、このフルボリュームなアルバムを締めくくるに相応しいもの
更に終焉へ導かれるように、「ЯOЯЯIM」が続き、

「微笑んだ君がいるから」

がループする中でアルバムは終わりを迎える…
「スポットライトに当たってない人のための音楽」の締めには、これ以上ないような終わり方ではないでしょうか

この「THE GREATEST UNKNOWN」は、フルアルバムの常識を大きく変えたと思います
先行シングルをこんなにスクラップアンドビルド作品なんて、セルフカバーアルバムやベストアルバム以外はほとんどありませんからね

同時にサブスクをはじめ、色んな音楽プレイヤーでありがちなのは、既に聞き馴染みのある曲を飛ばす行為
特に配信シングルが多くなってきた今日のシーン、それは大きく増えてきたと思いますが、この「THE GREATEST UNKNOWN」はその流れに抗う作品になると思います
飛ばされないようにするには、アレンジし直せばいい
やってそうでやられてなかった画期的な発明ですよ、これは

MUSICAの年間ベストアルバムではこれが1位となったようですが、それも納得な1枚
フルアルバムの概念をひっくり返す大名盤、ここに誕生です

余談
昨今「コロナ明け」や、「コロナが落ち着いて」なんて言葉をよく耳にしますが、今過去最悪なペースですからね
マスコミが報道してないだけで、コロナ情報を発信しているアカウントを見ればよく分かりますよ

「春はいつだって
当たり前の様に
迎えに来ると
そう思っていたあの頃」

は見事な皮肉となりつつあります…
ここらへんは後ほど、別記事で書きたいと思います

というかある音楽雑誌のインタビューアーさ、どんどん好感度落ちていく
僕のおじさん、つい最近コロナ感染したんですけどね…