5月の下旬に見たZeppワンマンは言うまでもなく素晴らしいものであった
しかしそのアンコールで明かされたのは、春のツアーはアルバムのレコ発ツアー前半戦だったということ
秋から後半戦が始まるまさかの展開だった

その驚きの発表から秋のツアーが始まる前に最新作「Departure∶New My Me」がリリースされたが、音楽性を大きく刷新した前作「MUSIC WARDROBE」を更にスクラップアンドビルド
パンクバンドだった頃からは想像できないほど日本語詞が増加したが、むしろそうした革新によって更にキャッチーとなりやはり彼らが天才だと認識させられた

その「Departure〜」のツアーファイナルはバンド史上最大キャパとなる豊洲PIT
開演時間は19時30分とあまりに早すぎるが

しかし会場に到着すると「こんなに快適な豊洲PITあったかな…?」と思えるくらいに座席は少ない(この公演は全席指定公演、集客が読めないが故に指定席公演にしたとも言える)
6月に同じ会場で見たandropの方が遥かに埋まっていたと断言できるくらい良くも悪くも快適

そうした複雑な状況下で定刻を少し過ぎた頃にゆっくり暗転
エレクトロなSEと共にWATARU(Gt. & Key.)、SHUN(Ba.)、HAYATO(Dr.)、サポートとして春のツアーに引き続き山本健太、更にコーラスとしてハナコも加えた編成
HIROSHI(Vo. & Gt.)もすぐに合流し、andropの「Voice」みたくシンセリフ(山本がこのリフを奏でている)が響く「Nowhere」からスタートするのはなんとなく予想していたが、HAYATOは序盤からシンバルを叩きまくり
今回のアルバム(「Departure:〜」)は原点に回帰したような曲が多く、シンバルが目立つ曲も多いけれども、初っ端からシンバルを連打する姿はパンクバンドのドラマーのよう
パンクバンドだった頃の彼らが帰ってきたかのよう

そんなパンキッシュのHAYATOのビートから連鎖反応が起こったかのように、「Happy Sad」ではWATARUが軽快なギターやエモーショナルなギターを奏で、「Script」ではSHUNがR&Bの肝というべきグルーヴィなベースで踊らせるがハナコがコーラスとして参加したことでWATARUはギターに専念する場面が増え、山本は春のツアーに続きFIVE NEW OLDの世界を広げる拡張期的役割を果たしている
山本といえばあいみょんやXIIXのサポートも行っているけど、こうした活発なサポートミュージシャンはどれだけ超人的な体力を持っているのだろう

序盤が「Departure〜」の収録曲だったため、ギターを背負っていたHIROSHIはここでハンドマイクに
簡単に自己紹介を行い、「Don't Be Someone Else」からは世間が彼らに対して抱いているであろうR&Bルーツのダンスナンバーを続けるが、HAYATOのビートに合わせるように鳴らされる手拍子が曲に進むに連れて大きくなり、HAYATOやWATARUのコーラスパートも以前よりも増えた印象
HIROSHIはリラックスするように歌っており、特に煽ってはいないが、合唱も手拍子も求めないでこの変化
それだけの変化を起こすアンサンブルを彼らは鳴らしているということである

代名詞の「Ghost In My Place」は山本の鍵盤が加わり、HAYATOもジャズ寄りのアプローチ、並びにスピーカーを連想させる映像が登場
視覚面も聴覚面も大掛かりなアップデートがなされているが、

「主役はここにいる誰でもなくあなた」

とスターのように告げるHIROSHIに当然拍手が起こり、「Liberty」のラップパート(音源では踊Foot Worksが担当)はHIROSHIに加えてハナコも担当するが、そのラップパートの際にもHAYATOは力強くビートを刻む
この瞬間だけ、FIVE NEW OLDはミクスチャーロックに変貌しているかのようだ

こうしてパンクにもR&Bにも適応できるオールアラウンダーぶりを披露し、山本の鍵盤もいることで「Stay(Want You Mine)」はよりメロウに
けれどもその直後が「LNLY(これでロンリーと読む)」というのは、一気に奈落の底へ落とされた気分
それもそのはず、「LNLY」はギターを背負い直したHIROSHIのパーソナルな部分が特に出ており、

「しょーもない大人になったら 誰も叱ってくれないなんだ 」

は世間でよく言われる、「怒られるうちが華」をHIROSHIなりに言い換えたものだろう

昨年の暮れ、インタビューによればHIROSHIは爆発したらしい
去年傑作「MUSIC WARDROBE」をリリースし、それなりにサブスクリプションでも再生はされた
それでも不安や苦悩が込み上げ、爆発してしまったのだろうか
その不安が音楽性をガラリとポップに寄せた「MUSIC WARDROBE」から更に解体する「Departure〜」に繋がり、日本語詞も大幅に増えた
こんなにも音楽性を変化させられるのも凄いけど、パンクからブラックミュージックにコンバートしたバンドも日本では数えるくらい
そうした異色の経歴があり作れる曲もあり、R&Bのリズムの元で歌謡曲とエモが同居する「Home」のようなトラックはこのバンドのオリジナリティ
WATARUがギターを弾きまくるアレンジも施されたりと発想が凄いバンドと何度見ても思う(だからこそ、ライブをもっと色んな人に見て欲しい)

オトナモードに在籍していた頃よりも活動の幅が広がったように見える山本が情景豊かな鍵盤ソロを見せHIROSHIはハンドマイクにシフトしたあとは、5月のZeppワンマンで唐突に演奏されていた「One By One」へ
山本以外はほぼサンプラーやシンセベースを弾き、5月に見た際にはなかった女性の歌唱パートはハナコによってフォローされているが、歌唱部分を終えるとHIROSHIもサンプラーを操作し始め、HAYATOも獰猛にドラミング
そうして最終的に深夜のクラブと錯覚するほどにバッキバキな音が充満することに
5月に聞いた際はまだレコーディングされてなく、テストしていた可能性もあるがこんなにも変貌を見せるとなると、オープニングで聞いてみたくもなる
フェスでこれをやれば絶対、多くの人を惹きつけられるはず

直後にHIROSHIがエレキギターを背負い、「Fast Car」ではその名の通り車の映像が背景に投影され、SHUNのゴリッゴリなベースが牽引
けれども間奏になると一気に爆発し、EDM仕込みのバッキバキな音像の次は破壊力抜群の轟音
更に「Moment」でHIROSHIはアコギに持ち替え、美しもエモーショナルな風系をこの目に
どれもホールやアリーナスケールで演奏されてもガッツリ適応するアンサンブル
それらを全てジャンルが異なる曲で表現するのが彼らの表現力の高さだろう

この前日、開幕したばかりのワールドカップで日本が勝利したことが話題となり、ツアーセミファイナルを終えてからずっと自宅でゲームばかりしていたHIROSHIはその姿に勇気づけられたとのことだが、

「いつも僕たちは「新しい自分に会いに行こう」と話していますが、それは髪型を変えたとか性格を変えるというわけではない。自己嫌悪したり、何かのきっかけで自分を変えて成長していくことです。僕が最初はパンクロックが好きで音楽を初めて変化していったように。この時間も人生の中ではほんの一瞬。この90分が終わったらまたそれぞれの旅に出かけることになります。このライブをDeparture Pointとしてこれからも新しい自分に会いに行きましょう」

とこのツアーが自分を変えるツアー、並びにこれを出発点とすることを提案し、タイトル曲の「New My Me」では客席のスマホライトを活用
Chance The Rapperを意識した曲故、音源ではヒップホップのような音作りが成されていたが、ライブではヒップホップよりもラップロックとしてのイメージが勝るようになり、こうしてスマホライトをかざしている瞬間にも新しい気付きは浮かぶ
このライブを経て次なる自分へ
誰もが

「まだ遠い エピローグの続き」

だから

そんな記憶に残る演出がパンクとR&Bを絶妙にミックスし、縦にも横にも乗れる「What's Gonna Be?(PVもバックに表示)」でグルーヴを高め、「Sunshine」ではHIROSHIによる手拍子の煽り方がとても可愛らしいが鍵盤パートを山本が担う場面が多くなったためWATARUはメロディアスなフレーズもエモーショナルなフレーズも表現出来るように
ワンマン以外では山本不在の日もある(し、DEAD POP FESTiVALでは何故かホーンが居たこともある)が、HIROSHIは山本がアレンジャーとしても活躍してくれていることにインタビューで言及していた
今では山本不在の編成が考えられないくらいに存在感が大きい

HAYATOのダイナミックなドラミングやSHUNのゴリッゴリなベース、WATARUによる局面打開なギターなどあらゆる要素が気持ち良い空気を吸うための源となる「Breathin'(バンドへの評価を大きく変えたのはこの曲だった)」からあっという間のラストは、来年放送されるアニメのOPに既に内定している「Trickster」
パンクバンドの側面も、R&Bを軸としたダンサブルな側面も、全てがこの曲に集約されている

「こんなもんでは終わらせない」

と曲で語るかのように、本編は終了

アンコールで戻ってくるとASIAN KUNG-FU GENERATIONのワンマンみたく、撮影が許可されるがステージに立っているのはHIROSHIただ1人
アコギを手にしたので弾き語るということだが、その前にアクセサリーが切れるアクシデントも
もちろんそのアクセサリーは修理予定とのことだが、この日豊洲で弾き語りされたのはCDのみに収録されているボーナストラックの「Old Honda」
どうやら学生時代の友人がFIVE NEW OLDのこれまでの作品に携わっていたようで、彼らに向けて作られたようだ
ちなみに演奏はこの日が初
ある意味自慢できる体験である

WATARU達3人に、サポートの2人も戻ってくるとここで告知
ステージ背景に2020年と2021年に度々中止となったLINE CUBE SHIBUYA公演の事が触れられ、(HIROSHI曰く「ゴジラが登場しそうな雰囲気」と称された)心音が鳴る中、来年7月2日にLINE CUBE SHIBUYA公演を今度こそ開催することを発表
同公演は久々に発声ありきの公演になることもHIROSHIによって示唆されたが、同時に13カード企画も始動
来年の同公演に向けて様々なアクションを起こすようだが、何を起こすのだろう
ワンマンや対バンライブはあると思っている

そんな次なる目的地に向かうかのように、「Departure〜」の出発点となった「Rhythm of Your Heart」が始まるが、この辺りから普通に日本語詞が多く出てくるようになった
BTSに関わった人物もレコーディングに携わっていたけど、よりバンド感が増したよう気がする

そして最後はやっぱり「By Your Side」
HIROSHIはハンドマイクになって、HAYATOは完全に燃焼するべく手数を増やしまくっていたが、ステージからHIROSHIが消えたかとと思った次の瞬間に客席を走り回るHIROSHIがいた
衝動的にアクションを起こしたのか、ラスサビに間に合ってなかったけど(笑)

WATARUがライブを締め来るように美しいギターソロを消えたあと、HAYATOは客席にドラムスティックを投げ込んでいたが、WATARUとSHUNは肩を組みながらステージを後に
この2人、仲良すぎだろ(笑)

パンクバンド時代を彷彿させるエモとバンドのパブリックイメージであるブラックミュージックが共存
 時にパンク、時にダンサブル
今の彼らは誰にも真似することが出来ない変幻自在のTricksterだろう 
パンクからブラックミュージックに、ブラックミュージックからエモに回帰したからこそ、FIVE NEW OLDにしか出来ない領域に入りつつある

それだけに豊洲が埋まらなかったのは少し残念だった
ざっと見ても豊洲にいたのは1000人弱
関係者を除くと800人前後かもしれない
このままではLINE CUBEを埋められないかもしれない

だからこそ13カードプロジェクトを立ち上げたのだろう
この状況を打破するために
来年から始まるアニメのヒット具合ではFIVE
NEW OLDがバズる可能性もある
でも道は自分で切り開いてこそ
この13カードプロジェクトが大きな鍵を握ると思われる

パンク好きにも、ブラックミュージック好きにも、両者に支持されるバンドはそう多くない
だからこそFIVE NEW OLDの音楽をもっと知って欲しい
何故か?
満員のLINE CUBE SHIBUYAで踊り尽くしたいのさ

セトリ
Nowhere
Happy Sad
Script
Don't Be Someone Else
Ghost In My Place
Library
Stay(Want You Mine)
LNLY
Home
One By One
Fast Car
Moment
New My Me
What's Gonna Be?
Sunshine
Breathin'
Trickster
(encore)
Old Honda(「Departure∶New My Me」のボーナストラック)
Rhythm Of Your Heart
By Your Side




※前回のワンマンのレポ