4月にリリースした傑作「アントロギア」のツアーは無事に完走し、夏フェスにも精力的に出演したり過去の風景にはまだ遠いものの、1年にツアーを3本敢行した昨年よりもより素晴らしい1年を送っているバクホン
そんなバクホンが次に起こしたアクションは5年前、凄まじい豪雨の中で開催され色んな意味で忘れられなくなった野音
5年前、同じく雨に打たれたandropは今月上旬にリベンジを果たしたものの、バクホンは果たして

関東圏は前日から台風の影響を受けており、お台場で開催されていたTOKYO ISLANDを始めとする野外フェスにも大きな影響を及ぼしたが、台風消滅後も雨の勢いは収束する気配なし
自宅を出た際に神奈川は晴天だったので「なんとかなるだろ」と思い、新橋に到着するとその期待を裏切るように雨
しかもその雨は徐々に強くなり、気がつけば5年前の野音を彷彿とさせる大雨
野音へ向かう交差点付近にも落とし穴のように大きな水たまりが出現し、前回はなかった雷鳴まで発生
まさか2回続けて荒天の中でバクホンを見るとは…

あまりの荒天ぶりに運営側から常に天気レーダーを確認すること、

「雨が上がるまで凌いでください!!」

と「それでいいのか?」なアナウンスがされたが、前回の野音であった4人による掛け声はなし
定刻にいつものSEが始まると、驚いたのはこの天候にも関わらず裸足だった栄純(Gt.)
昔東京であえて1日野宿したエピソードは有名だが、悪天候でも裸足で立つスタンスにはいかにも栄純らしい

その栄純が個性的なリフを刻み、マツ(Dr.)が16分を刻む「幾千光年の孤独」から始まるが、スタート時点で全身がずぶ濡れとなり、早くもタオルが絞れる状況
仕事中に偶然購入した今治タオル(ファミリーマートで普通に販売していた)を自宅から持参しなかったことを後悔していたが、この雨でも客席から拳が上がりまくっている
「こうなったら開き直って楽しもう」とポジティブシンキングする方が多かったのだろう

正確かつ丁寧に刻むマツのビートの上に岡峰(Ba.)がゴリッゴリとしたうねるベースラインで踊らせる「金輪際」は、雨があまりに酷すぎて

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」

はもはや我々の心境

雷鳴こそ鳴らないものの、周辺が光ったりしているので「よくこの天候で開催出来たな…」と思いさえしてしまうが、

「あまりに儚い光 それでも僕ら手を伸ばし続けよう」

とこの天候でも将司(Vo.)は我々に手を伸ばそうとする

この日の公演は有料配信が実施されており、濡れずに済む点を考慮したら配信視聴組が勝ち組
客席に空席が若干目立ったのは交通機関の乱れが原因で定刻に間に合わなかった方が多い(終盤埋まってなかった座席は埋まっていた)のだろうが、開演に間に合った方は天候など相手にもせず楽しんでいる
その姿を見たら将司達は1ミリもテンションを落とさないし、栄純のカッティングが芸術的な「涙がこぼれたら」が演奏されたら、もう涙がこぼれそう
足元に水たまりが出来ていようが、リズムを刻んでいる

「涙がこぼれたら」を終えた辺りには、雨が少し弱くなって「これは止むかな?」と思った
しかし、マツが

「空も祝福してくれています(笑)」

なんて自虐したら収束しかけた雨が更に強くなる怪奇現象
マツ自身がメインボーカルを務める「天気予報」には、

「ああ天気予報 止まない雨」

なんてフレーズが存在するが、ひょっとしたらマツはとんでもない雨男なのかもしれない(フェスは問題ないものの、野外ワンマンになると雨を降らせるタイプ)

マツ「こんな時こそ音楽に没頭しましょう!!」

と話すも、もう音楽に没頭するしかない状況になりつつあり、将司もギターを背負う「情景泥棒」では凄まじい爆音と雷を鳴らす天候の戦い
「雷には主役は奪わせはせん!!」と言わんばかり、名場面を生み出すべくアンサンブルをぶつけて間奏に入ると、

「神様、雨をありがとうございます」

と表現しているようなジェスチャーをする岡峰(笑)

バクホンは「カルペ・ディエム」のツアーが将司のポリープ摘出、コロナ禍の影響で何度も延期された
けれども今回、野音ワンマンは開催されてる
延期にされることも中止にされることもなく

岡峰の動作は、

「我々は天気では屈しませんよ?」

と挑発しているかのよう

どこか悲哀のメロディーを栄純が奏でる「ファイティングマンブルース」、それはこの状況でも楽しむことに徹する参加者への応援歌
けれども雨は収束する様子はなく、真っ赤な照明がまるで裁判所にいるような気分に陥る「悪人」で、

「有罪 有罪 有罪 有罪 わかってる」

と歌われるまでもなく、「とっくのとうに有罪判決下ってます!!」な天候
過去にバクホンと何度も対バンしている盟友MUCCのボーカル逹瑯が「蘭鋳」の前に毎回、

「全員○刑!!」

とドSな判決を言い渡しているが、今回の判決のほうがどう見ても上である

しかしそのような判決が下っても怯む我々ではない
岡峰のゴリッゴリなベースを合図に「疾風怒濤」を将司の

「踊ろうぜ!!」

を合図に心で叫びつつ踊りまくって天候に抗えば、懐かしの「カラビンカ」は再び将司がギターを背負ったところで、栄純は逆にギターを置いて白鳥をイメージしたような奇妙な踊りを見せるのでその仕草には思わず笑ってしまう
そうしてセッションが激しくなる曲を続けたところで、ようやく雨も収まってきたが、

「虫の声が聞こえるね」

と将司がふらっと呟き、ノスタルジックなフレーズと共に喪失感が強い「何もない世界」へ

昔は公園のブランコや父親とキャッチボールしたりもしたけど、20代後半になるとブランコやキャッチボールはとっくにやらなくなった
成長したと言うべきか
年を取ってしまったと言うべきか
些細なようで大きな喪失感を抱いてしまう

将司と栄純のツインギターが激しさも美しさも奏でて、マツがパンキッシュなドラムを叩く「I believe」と聞かせる曲を連発し、ハンドマイクに戻った「ひとり言」では吠えるように、

「「友達よ 心を一つに 僕のそばにいて 僕のそばにいて」」

を歌唱する将司

終いには体力を使い果たしたかのようにステージに倒れ、岡峰もステージに寝転がりなら演奏
将司たち3人が感じるがままにパフォーマンスする姿勢は昔からずっとそうだ
だからそこマツは派手なアレンジを加えることなく、リズムをキープすることに徹する
あらゆる面でマツはバンドの屋台骨となっている

前回の野音はベストアルバム(「BEST THE BACK HORN Ⅱ」)リリースに伴うもので今回が5年ぶりの開催になることをバクホンの野音初参加者にもわかりやすく説明するが、将司や岡峰の追求により、「夕焼け目撃者」という表題にも関わらず、夕焼けは2回目までしか目撃出来てないことが判明

「半夕焼け目撃者に改名しようかな(笑)」

とマツは嘆いていたが、これはもうお祓いを推奨するレベル
大阪でも荒天をもたらしたら洒落にならない

「次の曲は初めて演奏する曲です。この時期にもピッタリだと思います。」

と将司がナビゲートしたのは、住野よるとコラボレーションした「この気持ちもいつか忘れる」に収録されていた歌謡曲とギターロックが合わさったバクホンの王道「輪郭(歌詞は住野よるとマツの共作)」

「ハナレバナレ」や「君を隠してあげよう」は演奏されていたけど、鍵盤が盛り込まれた「輪郭」は未だに演奏されてなかった
最初は小説とセットでリリースされ、後にアルバム単体で配信されるようになったけれどもこのアルバムのレコ発は行われていない
てっきり制作されたまま放置されるのかと思ったが、これで唯一演奏されてない楽曲となった「突風」もそのうち演奏されるだろう

将司のモノローグこと「瑠璃色のキャンバス」は、STUDIO COASTのクロージングイベントで演奏されたことでコーストを思い出せる曲にもなったが三たびギターを背負った将司がハンドマイクに持ち替えると、バンド史上初の試みとしてスマホの灯りで客席を灯すように呼びかける
盟友ACIDMANのライブでは近年よく見かける光景をバクホンも取り入れたのは、あの光景に感動しただろうか
この演出が施されたのは「世界中に花束を」

「本当は歌いたいけど…」

と将司はボソッと呟いたし、こちらも盟友関係にある9mm parabellum bulletの卓郎や滝も最新アルバム「TIGHTROPE」のインタビューで、

「ロックは大声を出さないと」

と話していた

しかし発声に不安を抱いている方もいる
コロナ禍でのライブで優先順位1位は安全だ(ONE OK ROCKやDragon Ashの件で尚更)
ならば安全に楽しめる方法を
その方法の1つがスマホライト
普段は関わることがないであろう人々がお互いを支えるようにスマホライトで会場を照らす光景は絶景だし、あの豪雨を乗り越えたから手にすることが出来たご褒美だ
配信組にも現地組にも忘れられない景色
伝説の夜になることを決定づける風景だった

「終演が近づくにつれ、天気が回復してますね(笑)」

と将司が話した通り、序盤の大雨は嘘だったかのように静まり返っていた
あの天候に抗った結果とも言えるが、

「心の大雨は降り続いているんじゃないですか?」

に反応は薄め

どう考えても滑り、体感温度が低下してしまったがいつものように煽りまくって、バクホンの新しいアンセム「希望を鳴らせ」、久々にして今すぐにでも合唱したい「Running Away」と伝説の一夜は終盤へ
コロナ禍に入ってからあまり演奏されてなかったので、同期されたマリンバの音色を聞くのもご無沙汰である

栄純がかき鳴らすパワーコードやマツによる性急なビートで押し切る「ヒガンバナ」は、バクホンにとって原点回帰ではあるものの、

「ざわめきの 遠く向こうで 待っている 人たちの顔が 見える? 声が聞こえる?」

を歌謡的なメロディーと共に将司が歌う場面はいつも心に来るものがある
孤独だと思っている方にも、待ってくれている人は必ずいる

そして鉄板の「コバルトブルー」
正直に話すと、この日の将司はそこまで調子が良いとは言えない
Zepp DiverCityで見たときの方が良かったし、尻上がりに調子を上げるタイプだから
でも将司は身体全体を使って、懸命に声を届ける
その姿にはいつだって憧れるし、たくましい
将司の声が聞きたくて、僕たちは呼ばれている

将司が簡単に別れの挨拶を告げた後、最後に演奏されたのはこれも鉄板、栄純や岡峰が台に立って演奏する「刃」

「振り向くな 後ろに道は無い! 突き進め」

と強調したのはもうコロナがいない世界には戻れないこと、コロナと共生するしかないという意味でもあるが、だとしても怯んではならない
いつかは死んでしまうのだから、完全燃焼に向かって進んでいくのみ
その決意を胸にアウトロでは何度も聞いてきた合唱が脳内再生されていた

アンコールで戻ってくると、ステージ後方に飾ってある絵は栄純と岡峰がデザインしたことを明かした上で、

マツ「何をイメージしたの?」
岡峰「疫病退散をイメージ」

と話していたので、近くの人は思わず「アマビエ?」と回答
いい加減コロナに大人しくなって欲しいが、緩和ばかりしてコロナをバックアップしている政府をどうにかして欲しい

来週には大阪野音でもワンマンすることを改めて伝えた上で、将司がアコギを背負い「リヴスコール」から「風の詩」
そう言えば去年のストリングスツアーで「風の詩」はやってないし、生で聞くのは初めて
自然に囲まれた野音で演奏するのにこれほどうってつけな曲はないだろう
当分演奏されなそうな気もするが

ギターやベース、ドラムが各々季節外れの花火を打ち上げるような「導火線」で夏の終わり、ライブの終わりを惜しむと、

「また生きて会おうぜ!」

と将司がいつもの決め台詞を叫んで、最後は終始手拍子が起こる中で、

「旅立ちの日には手を振って」

と別れの挨拶代わりの「太陽の花」を行っていると、ここに来て再び雨が酷くなってきた
しかしながらステージと客席は怯まず、

「何度でもこの手伸ばすから」

と将司が力強く叫び、願いを込めて野音から僕らは歩き出した
あまりの雨の強さにスタッフが、

「どうしても捨てたいものは客席に置いていってください!!」

とアナウンスしていたけど(笑)

体感として5年前の野音よりも過酷だった
あの時雷はなかったし、終演後に大雨なんて無かったから
「伝説を超えるには伝説を」とでも神様は考えたのだろうか
再び我々に試練を与えていったが、試練を乗り越えた野音の景色はこれまで見たどの野音よりも美しかった

開演前から続く雨には「勘弁してくれ…」と思ったが、後ろを振り向かずこのライブに進んだからまた伝説の夜に立ち会えた
死んでも譲れないライブがある限り、振り向くな 後ろに道は無い 突き進め

セトリ
幾千光年の孤独
金輪際
涙がこぼれたら
情景泥棒
ファイティングマンブルース
悪人
疾風怒濤
カラビンカ
何もない世界
I believe
ひとり言
輪郭
瑠璃色のキャンバス
世界中に花束を
希望を鳴らせ
Running Away
ヒガンバナ
コバルトブルー
(encore)
風の詩
導火線
太陽の花



※前回見たワンマンのレポ



 ※前回の野音ワンマンのレポ