「戦国ブリテン アングロサクソン七王国の王たち」 | 世界史オタク・水原杏樹のブログ

世界史オタク・水原杏樹のブログ

世界の史跡めぐりの旅行記中心のブログです。…のはずですが、最近は観劇、展覧会などいろいろ。時々語学ネタも…?
現在の所海外旅行記は
2014年9月 フランス・ロワールの古城
2015年3月 旅順・大連
2015年8月 台北(宝塚観劇)
を書いています。

「戦国ブリテン アングロサクソン七王国の王たち」
桜井俊彰:著
集英社新書

 

 


イギリス史で中世の入り口にあたる七王国時代のことは、知りたいなと思う気持ちはあってもなかなか調べるとことまでは行きませんでした。
しかし新書でこういう本が出たと知って買いに行きました。

まずタイトルがいいですね。単に「七王国」では一般人に刺さらないでしょう。でも「戦国」という言葉を使うことによって、様々な国がせめぎあって戦っている時代というイメージがわきます。

まず、ブリテン島にはケルト系のブリテン人がいましたが、古代ローマの支配を受けました。ローマが滅んでローマ人がいなくなったのですが、スコットランドからピクト人が侵入してきます。そこでブリテン人は、ローマで傭兵経験のあるアングロサクソン人に救援を求めました。アングロサクソン人は期待通りピクト人を打ち破りました。しかしその後もアングロサクソン人はブリテン島に居座り、ブリトン人を支配し始めます。そうしたアングロサクソン人は各地で国を作り、それがやがて七つの国が成立します。

ケント
イーストアングリア
ノーサンブリア
マーシア
エセックス
サセックス
ウェセックス

です。
この七王国がまさしく「戦国時代」となって争い、手を結び、裏切り、と抗争を振り広げていくのです。

その中で抜きんでた王が何人か現れ「上王」と呼ばれます。
この本では、8人の上王を選び、その事績や生涯を順番に紹介していく内容になっています。

この構成はいいですね。
ほとんど知られていない時代なので、年代順に順番に出来事を並べて行っただけではピンと来ないし覚えられない。人物に焦点を当ててその生涯をたどっていったら、人物像が浮かび上がってきてイメージしやすくなります。それに8人は時代が少しずつずれているとはいえ、かぶりながら時代が下っていくので、前の王の時にこういうことがあったけど、この王の時にこの出来事がつながって…と、別の面から見ていくことになり、より立体的に時代の流れを理解することができます。

これはもしや「紀伝体」というヤツでしょうか。
中国の正史の記述方法です。〇〇伝、列伝、という風に皇帝や重要人物の伝記を記述していく方法です。年代順の記述ですと「編年体」といいまして、代表的なものに「春秋」「資治通鑑」がありますが、それ以外にあまり編年体の歴史書は見当たらりません。中国人、年代ごとの理解を求めていないのかと思っていました。歴史書がそれでいいのかと思ったりもしました。

しかし、この本を読みますと、王たちの事績を追いながら戦国時代のブリテンの歴史がたどれます。紀伝体には紀伝体のよさがあるなと思いました。

最初はケント王国のエゼルベルトです。
最初にキリスト教に改宗したこと、最初にブリテン独自のコインを発行した業績があります。ケントはイングランドでも南端にあって、フランク王国とのつながりや影響を受け、交易も行われていたようです。エゼルベルトの王妃ベルタはフランクの王女で、エゼルベルトがキリスト教に改宗したのもベルタの影響があったようです。また、妹をエセックス王スレッドと結婚させ、二人の間にできた子供が王位に就くとエセックスに対して影響を及ぼします。他の王国にもキリスト教への改宗を進め、法典を整備し、他の王国よりも抜きんでていきます。

次はイーストアングリアのレドワルド。「アングロサクソン」を構成するアングル人の国です。
レドワルドはエゼルベルトからキリスト教改宗の圧力を受けます。しかしゲルマンの神々を捨てることはせず、教会だけ建てておきます。しかしそれ以上抵抗したり戦いを仕掛けることはありませんでした。結局エゼルベルトはレドワルドより先に死んだので、エゼルベルトの後継者エアルバルドに対して圧力をかけていきます。そうして着々と他の王国にも影響を及ぼすようになっていきます。
その中で、ノーサンブリアはその前にデイラとバーニシアに分かれていましたが、バーニシアのエゼルフリッドに襲われたデイラの王子エドウィンが逃げてきます。レドワルドはエドウィンを助けてエゼルフリッドに戦いを挑みます。そうしてエゼルフリッドを破り、エドウィンはデイラに戻ってバーニシアを併合してノーサンブリアの王となります。

その次はこのノーサンブリアのエドウィン。
もとはデイラの王子で、エゼルフリッドに襲われた事件の最初から解説されます。
エドウィンはレドワルドが亡くなってから、他の王国を圧倒して上王の道を進みます。

…という風につながっていくのでわかりやすいです。

七王国時代の前半は七つの王国のせめぎあいですが、後半戦は、北欧からやってくるデーン人との戦いになります。デーン人はイングランドにたびたび略奪にやってきます。

最後はウェセックスのアルフレッドです。
アルフレッドはデーン人を破り「大王」と呼ばれるようになります。現在でもイギリスでは歴史上の人物の中で人気のある王様です。
本当のイングランド統一はもう少し先ですが、年代記や法典を編纂するなど戦にも学問にもすぐれ、王国の改革を進めて統一イングランド王国への道を開きました。

ということで、とても面白い本だったのですが。
困るのは、固有名詞が覚えられません。現在の英語ではない、聞きなれない名前ばかりです。そもそも七王国の場所もすぐには覚えられないので、何度も何度も地図を見て位置関係を確認しました。

まあでも固有名詞が覚えられなくてもそのまま飛ばして読んでも歴史は面白いです。