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世羅の気功と日常ブログ

「何もないと思っていた自分に、
小さな“できた”がくれた喜び」を
テーマに、気ままに想いのままに
書き綴るブログです。

幸せの芽 ―― セイ】

その夜セイは広場から少し離れた大きな木の根元に腰を下ろしていた。

 

眠るつもりはなかった。


ただ、目を閉じて、身体を休めたかっただけだ。

 

静かな時間の中で、セイは端末を開き、アイテム一覧から、今日手に入れたばかりのものを呼び出す。

 

〈幸せの種〉

 

どこにでもありそうな、小さな種。

 

特別な効果があるわけでもない。


今すぐ何かが変わるわけでもない。

 

データとして見れば、ごく普通のアイテムだ。

 

それでも――


セイは、その表示から目を離せなかった。

 

この種そのものに、価値があるわけじゃない。

 

大切なのは、これを手に入れた“結果”よりも、ここに至るまでの時間だった。

 

2人で考え、言葉を重ね、迷いながら、「パートナー」という答えを選んだ。

 

その過程すべてが、この小さな種に、そっと重なっている気がした。

 

思い出は、保存できない。


感情も、空気も、関係性も形として、残すことはできない。

 

けれど、それらが確かに“あった”という感覚だけは、消えずに、ここにある。

 

――この種が育ったら、一体、何になるのだろう。

 

花が咲くのか。


実を結ぶのか。


それとも、何も起きないのか。

 

考えてみて、セイはふと気づいた。

 

幸せとは、結果の名前ではないのかもしれない。

 

過去にも、現在にも、未来にもあって。

 

遠くて、近くて。

 

当たり前すぎて、意識されにくくて。

 

形がなくて、見えなくて。

 

それなのに、確かに、あるもの。

 

今日のクエストで出てきた言葉は、どれも別々のようで、同じものを指していたのだ。

 

幸せとは、どれか1つに当てはまるものではなく、そのすべてでできているのかもしれない。

 

セイは、もう度〈幸せの種〉を見つめる。

 

今は、ただの種だ。

 

でも、それでいい。

 

育つかどうかは、急がなくていい。

 

答えが出なくても、構わない。

 

ただ、こうして考えてしまうこと自体が、もう――何かが、静かに芽を出している証なのだから。

 

セイはそっと端末を閉じ、木にもたれたまま、しばらく目を閉じた。

 

夜は、まだ長い。


けれど、胸の奥には、微かな温度が残っている。

 

それはきっと、今はまだ名前のつかない、幸せの芽だった。

 

(第22話に続く)