セツナが帰ったあとも、部屋の中にはまだ、プリンの甘い香りとカモミールのやさしい余韻が残っていた。
ルカの首元では、つい先ほど完成したばかりの青い首輪が、かすかに揺れている。
窓から差し込む月明かりが、その銀色の刺繍を静かに照らしていた。
「……ルカ。苦しくはないか?」
セイが声をかけると、ルカは小さく首を振り、誇らしげに胸を張る。
「ぜんぜん!これ、すっごくいいよ。セイくんの目と同じ色なんでしょ?」
「……そう、らしいな」
どこか照れたように視線を逸らしながら、セイはルカの背をそっと撫でた。
自分ひとりのためにあったはずのこの家が、少しずつ形を変えている。
ルカがいて、そして――セツナが「また来る場所」になっている。
その変化を、セイは否定せず、ただ静かに受け入れていた。
(第128話に続く)