キッチンに立つ。
鍋の中で、野菜が静かに煮えていた。
木べらでゆっくりとかき混ぜるたび、やわらかな湯気が立ちのぼり、淡い香りが鼻先をくすぐる。
いつもと同じはずの、ただの夕食の時間。
それなのに、ふと。
「……セツナさんなら、この味付けをどう思うだろう」
無意識に零れた言葉に、セイ自身が一瞬だけ動きを止めた。
木べらの先が鍋底に触れ、かすかな音を立てる。
「またセツナちゃん?」
足元から聞こえたルカの声に、セイは肩をわずかに揺らした。
「……別に。“また”ではないよ」
思ったより早く言葉が返る。
否定したあとで、その不自然さに自分で気づく。
ルカはきょとんとした顔で首をかしげた。
「でも最近、セイくん、セツナちゃんのことばっかり話してるよ?」
「えっ……そんなはずは……」
「さっきも言ってたよ?」
「……!」
その瞬間。
頭の奥で、何かが弾けた。
(第203話に続く)