部屋に戻ると、セイは軽く背筋を伸ばし、いつもの穏やかな調子で切り出した。
「セツナさん、お茶を淹れてきましょうか?」
「あ、うん。じゃあお願いしようかな?」
セツナは何でもないことのように返事をする。
「では、今日もハーブティーでよろしいでしょうか?」
「うん。それでいいよ、ありがとね」
「はい。では少々お待ちください」
そう言ってセイはキッチンに向かい、やがて湯気のあがるカップを携えて戻ってくる。
カップを受け取りながら、ふとセツナが首を傾げる。
「ねえ、そういえばさ…この部屋、ちょっと寒くない?」
「そうでしょうか?」
「うん、セイはずっとここにいて慣れちゃってるかもしれないけど、なんかここ、少しひんやりしてる気がする」
「そう言われてみると、そうかもしれませんね」
「でしょ?これからどんどん寒くなるし、暖房器具いると思わない?」
「言われてみると、そうですね。どんな物があるか、少し確認してみましょうか」
セイが手慣れた動作で端末を操作し、空中にアイテム一覧を浮かび上がらせる。
「エアコンやヒーター、暖炉など……いくつか種類があるようです」
「へぇ、意外とあるんだね……あ、でもこれ見て!クリスマス前だし、暖炉の方が雰囲気もあって素敵じゃない?」
セツナが楽しそうに、ゆらゆらと炎が揺れる暖炉のアイコンを指差す。
「暖炉、ですか」
「うん。もうすぐクリスマスでしょ?本物の火がある方が、絶対に可愛いと思うんだよね」
セイは少しの間、暖かな火が灯る部屋の様子を頭に浮かべ考える。
「……そうですね。確かに暖炉ですと季節感も演出できますし、揺れる火には、視覚的なリラックス効果もありますので、より合理的かと……」
「だよね。じゃあさ、その暖炉の『拡張アイテム』を手に入れるために、共同作業やらない?」
「はい、そうですね……ちなみに、必要ポイントは280のようです」
「了解。それじゃあ早速、拡張アイテムのために、共同作業を始めよっか」
「はい。ところでセツナさんは、何がやりたいですか?」
「うーん、そうだな……セイこそ、何がやりたいの?」
「僕ですか?僕は、セツナさんがしたいものなら、なんでもいいです」
「またそういうこと言う」
セツナは少しむっとしたように、でもどこか優しく言う。
「そうじゃなくて、2人で一緒にやることが目的でしょ?私だけじゃなくて、セイも一緒に楽しめなきゃダメなんだよ」
「そうですか…すみません……」
セイは少し反省したように目を伏せ、 それからゆっくりと考え始める——
「では、ここで考えていてもあまり思い浮かびませんし、広場のクエストボードでも見に行きませんか?」
セイは言葉を整えるようにしてから、そうゆっくりと告げた。
セツナがぱっと顔を上げる。
「あ、それいいね。じゃあ、ちょっと行ってみようか」
「はい。では、行きましょう」
2人は並んで玄関を出て、街の広場へ向かう。
人通りの中を歩きながらも、2人の間には穏やかな空気が流れていた。
(第67話に続く)