「雪女(2022年)」を大阪のディナーショーではじめて聴いた時、凄みがあって、気風がよくて すぐに気に入った!

 

 

 

 

 

・・・民話は地方によって異なるので、多少の差異はあるかもしれないが、私の知っている「雪女」はこんなストーリー・・・

 

冬山で吹雪に遭い、山小屋に避難した二人の男性.

風雪を避けてひと眠りし、あまりの寒さに目を覚ました若い男は、年老いた男のそばに白いものがいることに気付く.・・・髪も衣装も真っ白い女.

すぐに異界のものであることを察知し、年老いた男が息切れていることにも気づく.

女は若い男に近づき、同じように生気を吸い取ろうとするが、ふと「お前は生かしてやろう」と言って見逃す.

「そのかわり、このことを誰にも告げてはいけない.言えば、いのちを奪う」という言葉を残して.

・・・生還した男はそれからまもなく妻を娶る.子供も授かり、幸せに暮らしていたが、ある吹雪の夜、男はふとあの夜のことを思い出し、傍らの妻に「そういえば昔・・・」と、禁じられていたことを口にしてしまう.途端、妻は悲しそうな顔をし、男は妻があの夜の雪女であることに気付く.

しかし、雪女は男のいのちを奪わない.そのまま溶け去り、あとに残された男は幸せが消えたことを知る・・・

 

・・・「見るな」「言うな」という戒めを破り、不幸な現実に戻る昔話は多い.

好奇心に負けて約束を破る人間の性を嘆いているのだろうか、それとも、人間である以上しかたがないこと、と慰めているのか・・・.

 

作家の阿刀田高は、民話の「雪女」を現代に置き換え、ミステリーに仕上げた.

 

:::: 以下ネタバレ含みます :::::::

 

・・・殺人現場から逃げ去る女を一瞬だけ見た男は、その後娶った妻にその面影をみていた.やがて疑惑が確証に変わる日が訪れ、男は・・・(以下、略)

 

昔話の「雪女」は殺しかけた男に温情をかけ、その男に裏切られたあと、男を殺す代わりに自ら消えていく女性.

短編ミステリーの「雪女」も自分の犯行を目撃されたかもしれない男性の傍らに寄り添い、歳月を重ねる女性(普通なら目撃者は殺すと思うが)・・・両者から浮かび上がる「雪女」は、はかなく耐え忍ぶ女性・・・そして、それはまた、長く日本に浸透してた女性像ともいえそうだ.

 

・・・このような女性像が少しずつ変わってきたのは、1980年に近づく頃だったと思う.「横須賀ストーリー」で「これっきり もうこれっきりですか」と、男性の顔色を窺いながら その背後を歩く女性を歌っていた山口百恵が「ばかにしないでよ!」と 啖呵を切った.そのあと「やっぱり帰るわね」と男の元に戻ったとしても、主張をする女性像が現れた兆しがあった.続く曲では「さあさあ はっきりカタをつけてよ」と男性に詰め寄り、自分から幕を引く.

 

ところで、「歌の力」とは 気持ちがへこんだ時に励ましてくれたり、慰めたり、癒してくれたりして、気持ちを安定させてくれるところが大きいと思う.

また、自分の気持ちを代弁してくれることで、気分が割り切れることもある.

以前のブログに、なかにし礼先生が満州からの引き揚げの途中に「人生の並木道」を感慨深く聴かれた・・・ということを書いたが、それは「励まされた」のではなく、その歌詞に自身との共通点を見出すことで、過酷な状況を「受け入れ」て、運命を「切り替える」ことができたということだと思う.

私事で恐縮であるが、私も職場で嫌なことがあると、人気のない近くの歩道橋の上で傘を振りかざしながら「三味線旅がらす」や「関東春雨傘」を歌い、「浮世を斜(はす)にみ」ることにしている.・・・気分がすっきりする.

 

だから、今ほど女性が強くなかった昭和の時代、世の女性たちは百恵ちゃんの言葉に共感を覚えながら彼女の曲を口ずさんだのではないかと思う.

面と向かっては「ばかにしないでよ」「カタをつけてよ」と言わなかったとしても、心の中でその言葉を吐き、気持ちを整理したのではないだろうか.

 

・・・儚く白い「雪女」も、ただ耐え忍ぶだけではなく、もしかすると、このような言葉を呟いていたのかもしれない、と思わせたのは、Kiina の「雪女」.

「さあ どうするの?」「さあ どうしたい?」という牙を 秘密を共有する男性に向けていた・・・と、思うと白いはずの「雪女」が急に色彩を帯びてくる・・・

 昔話の中で禁忌を犯した罪は、それを破る男だけにあるのではなく、そう仕向けた女にもあるのかもしれない、と思わせる.

 そして、たとえ「見るな」の掟を破り、幸せを失うことになるとわかっていたとしても、それを問わなければならない時もあるのだと思う.

 

♪ さあ、どうするの?

    さあ、どうしたい?・・・ ♪

 

歌詞にある「哀れな雪女」にはなりたくないけど、女というものは その覚悟とともに生きているのかもしれない、と思ってみたりもする.

 

男女の修羅場を見事に表した一曲だと思う.