・・・前編から続く↓

 

 

後編

 

2020年に発売されたポップスアルバムの「Papillon」と「You are you」は「氷川きよし」から「Kiina」への脱皮を図った意欲作だ。

 

「Papillon」は チャレンジ性の溢れる作品で、いろいろな顔が見えて、楽しめる。一方、「You are you」はチャレンジ性よりも、「こういう歌がうたいたい」「こういう気持ちを伝えたい」という こだわりを感じる作品で、今後の方向性がみえてくる。本人の作詞を含むオリジナル曲が多い一方で、数曲のカバーが含まれている。これは意外だった。私なら「Papillon」同様、オリジナルだけにしたい、と思うところだ。

            

 

・・・カバー曲は三曲。うち一曲が、木根尚登の作品「RESET」。

「You are you」の中でこの曲を耳にしたとき、不思議な感触を抱いた。透き通った声・・・やわらかく、やさしく包まれるかと思えば、時に消え入りそうなほど儚い。

道に迷った主人公が未来を手繰り寄せようと思ってはいるのだが、手は伸びず、ただ目の前のものだけを見ている・・・それでも一歩進みたい、明日は・・・。

調べると、木根はこの曲を東日本大震災後の福島での経験をもとに作ったという。MVには被災地の光景も含まれている。

 

東日本大震災後にはたくさんの曲が作られ、一番有名なのは映画監督の岩井俊二が作詞した「花は咲く」だと思う。

詞と言い、曲と言い、自然に耳になじむやわらかさと、力強さを感じさせる名曲である。あの震災で被災した方々に限らず、誰の心にも響く一曲だと思う。

だが、木根の「RESET」を聴いた時、それが被災地での経験をもとに作られた曲、と知ったからかもしれないが、瞼に石巻の小学校が浮かんだ。

避難所になっていた、あの教室に漂っていた空虚な空気を思い出した。あの静けさ。窓から見えた、変わり映えのしない空。

震災で一瞬にして崩れた生活環境と職場、家族、そして描けない未来・・・。失ったものを悲しむ間もなく、越えていかなければならない課題が山積みの現実。「がんばらなければ、試練を乗り越えなければ」と思えば思うほど、気持ちはついていかなかっただろう・・・。そういう中で毎日見上げていたであろう空・・・。

・・・Kiinaの透き通った声は、まるで、あのとき、空をみていた人々と、その姿を見ているだけだった我々の心情を表しているかのようだ。

励ます、というよりも、その気持ちを代弁し、寄り添うような歌い方。

あの時の被災地に渦巻いた心情を木根は見事に曲にし、Kiinaは自分の声で歌った。

そして、それを自身のアルバムに収めた。

 

・・・ コラボカフェの開催地に話を戻そう。

集客なら名古屋のほうが多かったと思う。でも、敢えて仙台を選んだのは、今でもその傷跡を残す被災地を盛り上げたいというKiinaの思いではなかったか・・・被災者に限らず、その目は絶えず弱者に向けられていることに、気付かされる。

 

素の自分を隠さないこと、

今までのイメージを捨ててでも、更に高みに目指そうとしていること、

自分の幼少時の体験を話すことで子供たちに自信と希望をもたせようとしていること・・・。

そのようなKiinaに触れるたび、いつも「この人のファンでよかった」と誇らしく思ってきた。今回のエピソードもそれに加わる。