『オッペンハイマー』58 原子力帝国8 | ヒロシマときどき放送部

ヒロシマときどき放送部

2016年広島で高校の教員を定年退職し現在は山奥のお寺の住職をしています。ヒロシマのこと、放送部顧問をしてきたことを書いてみます。

 オッペンハイマーたちは訴えた。「水爆は明らかに原爆とは異なる。破壊力の無限性と、それがもたらす一般市民の犠牲の大きさのためである。ゆえに、水爆は “皆殺し(genocide)”の兵器であり、その使用者にはいかなる正当化も許されない」と。(中沢志保『オッペンハイマー』中公新書1995)

 しかし、これでは広島や長崎の死傷者の数はたいしたことなく、原爆は「皆殺し」の兵器ではないと言っているようなものだ。原爆は使ってもよいが水爆はダメだという根拠はどこにあるのだろう。私が思うに、オッペンハイマーたちが原爆を作ったことは間違いだったという反省と謝罪を公表しない限り、水爆に真正面から反対することはできなかったのではなかろうか。

 そういえば、映画『オッペンハイマー』の最後のあたりでそんな話が出ていた。1954年のアメリカ原子力委員会(AEC)が設けた保安審査委員会(聴聞会)の場面で、検察官役の弁護士ロジャー・ロブの強烈な尋問。二つ目は、1959年にルイス・ストローズが上院公聴会で言い放った恨みつらみ。そしてオッペンハイマーの妻キティのきつい一言。それらがクリストファー・ノーラン監督によって時間と空間を飛び越えて重なり合い、これではオッペンハイマーの心が圧し潰されてしまうんじゃないかと心配するぐらいの強い印象を与えた。

 聴聞会の場面でロブが問い詰める。

 

 「あなたは知らなかったのですか? 知っていましたよね。あなたが選んだ標的に落とした原爆が数えきれないほど多くの市民を殺したり傷つけたりしたことを。それで間違いないですね」(映画『オッペンハイマー』)

 

 以下はネットに掲載されていた映画『オッペンハイマー』のセリフだ。

 

ロッブ:原爆投下による被害に良心のとがめは感じましたか。

オッペンハイマー:極めて強い良心のとがめを感じた。

(中略)

ロッブ:では良心のとがめがあるから広島への原爆投下には反対しましたか?

オッペンハイマー:我々は…

ロッブ:あなた、あなた、あなたです!「我々」でなく「あなた」の意見を聞いてるんです!

(中略)

ロッブ:あなたは日本への原爆投下を支持しましたよね?

オッペンハイマー:「支持」とはどういう意味かね?

ロッブ:投下場所の選定に協力しましたよね。

オッペンハイマー:自分のやるべきことはした。ロスアラモスにいて政策決定をする立場にはなかった。依頼されたことは何でもやろうとしていた…(Webサイトゆうちゃん/Uchan「映画『オッペンハイマー』セリフ解説!」)

 

 モノクロの画面でストローズが吐き捨てるように言う。

 「オッペンハイマーは一度だってヒロシマへの後悔を口にしたことがない。あいつなら、また同じことをやるだろうよ。あいつが歴史に名を残せたのは原爆のおかげなんだから…」(映画『オッペンハイマー』)

 

 セリフはおそらくノーラン監督のオリジナルだろう。オッペンハイマーをアメリカの英雄としてではなく、機械の一個の歯車に埋没させるのでもなく、一人の人間としてのオッペンハイマーを内と外からメスを当て、彼が「やってしまった」ことはなんだったのかを抉り出そうとした。

(映画を見た時は、喋りはもちろん字幕にも追いついていけなかったので、何を言っているのかはほとんど?……残念)