人類の自殺87 情報途絶1 | ヒロシマときどき放送部

ヒロシマときどき放送部

2016年広島で高校の教員を定年退職し現在は山奥のお寺の住職をしています。ヒロシマのこと、放送部顧問をしてきたことを書いてみます。

 核攻撃により市内中心部が壊滅し、半径100kmを超える範囲で放射線による被害が生じた場合、できる限りの救援や避難誘導をするには、的確な状況把握と対処方針の決定、一刻も早い情報の発信が求められる。しかしそれらは地震などの自然災害でも困難なことがあるのに、戦争中ならばなおさらハードルは高いのではなかろうか。

 しかし政府はこう言っている。

 

 我が国に対する外部からの武力攻撃やテロなどが万が一起こった場合には、みなさんの安全を守るために、国や都道府県、市町村が連携し、対応することとしています。しかし、こうした事態が、いつ、どこで、どのように発生するのかを事前に予測することは極めて難しいうえに、多くの人々に影響を与えます。

 実際にこうした事態に遭遇してしまった場合に、一人ひとりが混乱すると、対応の遅れや新たな危険を生じて、被害を拡大させないとも限りません。行政機関からの伝達事項やテレビ、ラジオの情報を十分に聞き、どのように行動すればよいかを判断するための正しい情報を把握することが重要です。また、地域や職場あるいは外出先の周囲の人々と協力しつつ冷静に行動することが危険を回避するために不可欠です。(内閣官房「武力攻撃やテロなどから身を守るために」2005)

 

 政府は、緊急事態が発生した場合、行政機関の伝達やメディアの情報をもとにした冷静な判断と行動を国民に求めている。しかし、『核兵器攻撃被害想定専門部会報告書』は、「現地対策本部の司令センター機能の健全性が維持されることが不可欠であるが、それは容易ではない」と指摘している。確かに、広島市では県庁も市役所もNHKなどの放送局も全部市内中心部にある。他の都市もそうだろう。核攻撃があれば建物の損害は免れるはずもなく、職員の被害も相当なものになるだろう。生き残った人たちは高レベルの放射能汚染がある中を一刻も早く避難しなければならないとしたら、臨時の司令センターの設置など果たしてできるのだろうか。

 また、お隣の山口県岩国市にあるアメリカ海兵隊岩国航空基地が核攻撃されて地表爆発が起きたとしたら、岩国基地から広島市中心部までの距離は約35km、風向きによれば、これもすぐさま避難を開始しなければならない。その時、知事や市長はどうするのだろう。危険を顧みず庁舎に踏みとどまるのか、あるいはヘリコプターでも使っていち早く避難し臨時の司令センターをどこかに開設するのが得策か。

 自分のところが核攻撃されても、お隣が攻撃されても、県や市が、今どこで何が起きたのかをすぐに正確に把握するのは難しかろう。一般市民はなおさらだ。特に地下室や地下街に取り残された人たちにとって、情報が入らなくて何が起きたか分からなければ、今何をすべきかもわからない。極度の不安からパニック状態になりかねない。

 こんな時こそ政府による迅速な情報収集と発信が求められるのだが、広島や岩国が攻撃されても東京だけは安泰だろうか。東京だって攻撃されているはずだ。それで他所の救援活動にどれだけ関わることができるだろうか。