186.愛と呼んでもいいですか? | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

186.愛と呼んでもいいですか?

昔は、と言っても3・4年前の話なのだけど、カラオケも一晩中でもできた。
テンション落とすことなく朝まで暴れられた。
こういう時、年齢と共に衰える体力をひしひしと感じる。
まだまだ朝を迎えるには早い深夜3時。
私たちはまだカラオケにいる。
眠くて眠くて仕方なくて、頭がボーっとしてくる。
こうまでして頑張っているのは、お泊りするお金がないから。
「あぁ、眠い。なぁせのりん家行こうよ」
「いや」
「何で?寝るだけ」
「絶対寝るだけじゃないし」
「いや、何もせんやん。実家でそんな事せん」
「そういう意味じゃなくて!色んなトコ見るやろうし、勝ってに家上がるわけにもいかんやろ」
「何も見ん!」
「いや、見るから絶対。見たらあかんって事はないけど、恥ずかしいし、それに一番重要なのは、勝手に家にあげられへんってこと」
「俺、評判わるそうやな…」
「彼女がいるなんて口が裂けても言えんからそこは安心し!」
「やっぱ言えんことやわな…でも俺の事話してんねや」
「あぁうん、そこ以外は包み隠さずね」
「んじゃいいやん」
「どこがいいのよ!誰?聞かれて、ゆうじ何て答える?友達です言うん?隠す事はあっても絶対家族に嘘とかつきたくないし!仮に本当の事言われても嫌やし。寝たいなら自分家で寝ぇや」
「今、実家、引越し中っていうても隣の市やけど、俺の部屋今ないねん。だから、な」
「いや!ここまで説明しても来たいとか言うん?」
「ごめん、今のは言うてみただけ」
「彼女がいる人なんて絶対家につれてきたくないし」
「解かったって、ごめん」
「絶対家族になんて紹介できない」
「解かった解かったって、本当ごめん。恋愛の相手が俺なんて親が悲しむわな」
「別にそこまでは…ただ…」
「ん?」
「いつか紹介したい」
「あぁ」


ただ、彼女じゃないから。


彼に怒りをぶつけながら「こんなに愛しているのに」って思いが沸き起こって、そしてたら矛盾にぶち当たった。
私は一体何を基準に愛と呼びそれを作り上げているのだろうか。
「もっと愛されたい」そうも思った。
一体愛って何なんだろう。
怒りながら心の中で自問自答する。
愛なんて知らない。
私は見たことがない。
でも知ってる。
人それぞれだって事も、気付いたらそこにあったなんてベタなものだってことも。
でも欲しい、今すぐ欲しいと思う。
だからといって、与えられたものを愛だと感じるかどうかも解からない。
私の中には本当に愛なんてあるんだろうか。
彼が私の愛を感じると言うから、そんな言葉を鵜呑みに私は彼を愛している気になってるだけなのかもしれない。
もしも、彼が私の愛を感じないっていったのなら、私は彼を愛していると思えただろうか。
こんなに…どんなに?
もっと愛して欲しいと言われた彼はどう思うのだろうか。
あなたは私を愛せていないと言われたのなら…。


彼女がいるから、そんな事で愛せたり愛せなかったり。
何か変な気がする。
彼女がいなくったって、彼の愛は変わらない…だろう。
なのに、なのに。
彼女じゃない事が邪魔をする。


ただ、彼女じゃないだけ。


だけど、そのことはとても大きい。


彼女じゃない私の愛は彼にどう伝わっているのだろう。
何故、彼女じゃないのに私の愛を感じ取れるんだろう。
愛って本当に何?
私の知らない愛を彼が感じてる。


ふと、もう何も考えない、そういう結論に辿りついた。
とはいえ、いろいろ考えてしまうものなのだけど。
さて、私は何を愛と呼ぼうか。
私は彼を愛している。
彼の愛も不思議に感じられる。
問題は…彼女じゃないだけ。


愛と呼んでもいいのですか?


心の中で解決した私の想いは、彼に打ち明けることなく流れていった。
少しだけ彼が無口になって、彼もいろいろ考えている事が解かった。
眠い目をこじ開けて、朝を迎える。
カラオケ店を出て、彼に家まで送り届けられた。
「じゃ、ソフト頑張ってね」
「今日は直ぐ帰っちゃうんやな」
「え…何?!」
「怒ってるんか?」
「怒ってない。たまには聞き分けのいい子でいようかなと」
「そ…お前のワガママなんか、ワガママの内に入らんよ」
「そか、んじゃ家買って」
「大きく出たな!」
「ふふふ、んじゃうちん家来れるようにしてね」
「解かった」
彼はそっと唇を合わせてきた。
すっと彼の唇が離れ、見つめ合った時、離れたくないと思った。
愛はある?
彼の頬にそっと触れ、彼の唇を追った。
「あんま吸い付くなよ…まだ唇ちょっと痛い」
「ごめん…」
「珍しいせのりの積極的なキスはうまかったけどな」
「・・・じゃね、ソフト頑張ってね」
「あぁ」


愛ある場所に、関係性を求めてしまう事の矛盾の答えは誰も教えてくれない。



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