132.愛し方
人はおもしろいもので、本屋で本を選ぶ時最大級のインスピレーションを発揮する。
カラオケもそうだ。
曲を選ぶ時、何かを選ぶ時、人はインスピレーションが働く。
自分の今の心境、求めてるもの、云々。
たまに、ふーんで終わることもあるのだけれど。
私は、随分前に買った田口ランディの『ミッドナイト・コール』という本を手に取り、読みかけになっていた続きを読んでいる。
短編小説が集まった文庫で、『100万年の孤独』という文庫の中盤くらいに当てられた小説を読んでいる。
ある女性のある恋愛を『100万回生きたねこ』という本になぞり描かれている。
会社の年下の男に振り回される自分・気になる自分との葛藤の末、彼女はその男を好きだと認めてゆく。
何を考えているのか解からない男を理解できない男をどんどん好きになってゆく。
だけど、彼女は愛している実感も愛されている実感も感じられなかったのだ。
激しく、切なく、とりとめなく、苦しく、狂おしい恋愛。
私はこの主人公の女性が口にする言葉を、自分の事のように頷きながら読み続けた。
あたかも自分にもこんな経験があったかのように・・・。
引き込まれた。
この小説も終盤に入り、私はある不安を覚えていた。
心がモヤモヤとする。
主人公の女性にシンクロしてしまったのだろうか。
彼女が実在してるかのように、彼女の感情が私に伝わってくるようだった。
小説の中の女性と男性はセックスの後に会話を始める。
彼女がセックスの後に本を読む男に不満をぶつけ、優しさを求めるのだ。
男はどうすればいいかを聞くのだけれど、彼女も迷うわけ。
前の男がしてくれたことなんかを思い出して答えるわけだけど、そんな彼女に男は笑って言ったのだ。
─霜田さん、前の男とはそういうセックスしてたんですね─
男の台詞を読んだ後、私は本を閉じた。
続きを読む気がしなかった。
読まなきゃよかった。
読んでよかった?
すごい嫉妬心が沸き起こったのだ。
彼は私を愛するように、彼女を愛しているのだろうか。
彼は彼女を愛するように、私を愛しているのだろうか。
私は彼を愛するように、前の男を愛していたのだろうか。
私は前の男を愛していたように、彼を愛しているのだろうか。
全てをリセットしたい気分だった。
今の私は何?
急に嫌になった。
同じことが嫌なわけじゃないけれど、何て言えばいいのか解からないけれど・・・。
私が彼だけに抱く愛を・・・。
彼が私だけに抱く愛を・・・。
小説の続きが気になった。
男は彼女の元を去った。
そうなると思った。
だから、自分もそうなると思った。
誰かの愛を押し付け押し付けられたら、そうなるのだ。
小説の中の男は最低な男だと思った。
だけど、多分、違う。
100万回生きたねこが答えを知っている。
もっと愛して欲しい。
私は彼に訴える。
そんな私を彼はどう思うのだろうか。
もしかしたら、今まで感じたことのない愛で私は愛されているのかもしれない。
前の男とは違う愛で・・・。
- 田口 ランディ
- ミッドナイト・コール
- 佐野 洋子
- 100万回生きたねこ