口から吐き出される煙は、紛れもなくたばこのけむり。
男は後ろを向き、後部座席にあるものを探しながら右手のたば
こをスパスパ、けむりがモクモク。あんな状態でたばこの火の
一部が車内に落ちても、気づかないだろう。
・
信号が変わったので私が発進すると、男はあわててくわえたば
このまま私の車に突進しそうに追いかけてきた。
寝たばこで、火事になることはよくある話だが、あんな男の
たばこの吸い方では、車が火事になりかねないだろう。
・
アパートの駐車場に入ると、車に乗った男性が待っていた。
私が降りて会釈をすると、男も会釈をして車から降りてきた。
「Ｎさんですかね。お待たせしてすいませんでした」
アパートの階段を上がってカギを開けながら。
「どうぞ、お入り下さい」「失礼します」
・
「この値段で３ＤＫは安い。Ａ社のシングルアパートと同じ
値段です。絶対にこちらの方が徳です。」
室内を一巡すると、お客さんはポツリと言った。
「どうしてこんなに綺麗なのに、安いんですか」
「建物は古いんですが、退去した後大家さんは良心的にリフ
ォームするので綺麗なんです・・・。どうされますか。」
「申し込みます」「それでは事務所に来て下さい」
事務所に帰り申込書類を書いてもらい、Ｎさんが事務所から
帰るときは外は薄暗くなっていた。
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