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月刊ビューポイント2024年7月号の内容は以下のとおり

 

PHOTO GALLERY
 日本遺産[58]

 荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間

 ~北前船寄港地・船主集落―広島県尾道市

◆里程標

 迷走の岸田政治に国民うんざり 

頼清徳総統就任 始動する台湾新政権

台湾安全保障―迫る中国の脅威に抑止力で対峙

外交課題―「民主主義の台湾」前面に

蔡路線継承―挑発せずに「現状維持」
内政課題―立法院改革巡り与野党激突

中台共通認識「独立せず」 台湾国防安全研究院 王尊彦氏に聞く

◆「日台の絆 再発見」ルポ 先人の日本精神から学んだ”台湾力”
呂秀蓮・元副総統インタビュー

 半導体産業でも連携を強化
◆日本の憲法改正―論客に問う

元衆議院議員 西村真吾氏

 反日の条文は是正せよ/憲法無効論は世界が認める

元武蔵野女子大教授 杉原誠四郎氏

 占領軍より悪い政府の9条解釈/政教分離の未熟な解釈

麗澤大学准教授 ジェイソン・モーガン氏

 親米保守の改憲に注意/9条は「軍」を明記すべきだ

政治評論家 田村重信氏

 自民は結党精神に立ち返れ/解散総選挙で改憲問え

改憲の選択肢示す「責任」―憲法記念日 民間憲法臨調集会 首相がメッセージ

改憲で日米同盟堅固に―河野元統幕長が講演

緊急事態条項の明文化を―新しい憲法をつくる国民会議

<羅針盤>国会で改憲発議実現せよ

◆日本共産党問題

「赤旗」購読パワハラ勧誘問題―12自治体で調査

要注意!来月の若者憲法集会日本の進む道研究所代表 安東幹

宇都宮市議会 共産市議に処分―「赤旗」調査陳謝にルール無視発言

◆旧統一教会問題

不公平な首相に異議申し立て 茨城県取手市議会議員 細谷典男

果たした役割あり―統一運動 広島でシンポ

「信者は声を上げよ」福田ますみ氏 栃木で講演

LGBT問題

性自認で男子も「女子」にワシントン・山崎洋介

 米バイデン政権 学校に新規則/女子トイレ不安 21州が提訴

自民党劣化の象徴だった―LGBT法騒動から1年(森田清策

ウクライナに危険な露新国防相

 長期戦に耐える経済通を抜擢―欧州メディア(ウィーン・小川敏

◆アメリカ保守論壇米コラムニスト・マーク・ティーセン

 トランプ氏 混乱静めれば勝てる

 退任後支持率が回復/失政繰り返すバイデン氏

◆ワールド・スコープ

流出説「信頼できる情報」―米共和党議員(ワシントン・山崎洋介

◆政界の風を読む政治評論家・髙橋利行

 解散か総辞職か―延命に拘泥すれば大乱も

◆沖縄から沖縄支局・川瀬裕也

ギャンブル依存が家庭壊すつきしろキリスト教会 砂川竜一牧師に聞く

祖国復帰52周年 各地で集会―沖縄は分断工作に晒されている 有村参院議員

◆赫き群青 いま問い直す太平洋戦史(35)戦略史家 東山恭三

 キスカ島撤収作戦(下)

 入念な計画成功させた平素の鍛錬/泰然たる指揮官と緻密な幕僚コンビ

◆持論時論(インタビュー)

 ・吉備・岡山の宗教風土 奈良時代/吉備真備や和気清麻呂が活躍(山田良三・岡山歴史研究会事務局長・郷土史家

 ・芸術は精神の糧/私の絵は内的観察の足跡(海老澤研・画家

 ・武道と宗教は表裏一体/極真の歩みは神仏の前の自己管理(森義道・極真会館手塚グループ世界会長

◆文化

 観る者引き込む謎に満ちた空間/東京都美術館「デ・キリコ展」を観る(特別編集委員・藤橋進

◆内村鑑三を読む

 「基督再臨の説教者」②

  世界の現実問題としての再臨(増子耕一

◆山田寛の国際レーダー

非道と闘う母たち 勇気と頑張りへの応援歌

戦場ジャーナリストの死亡 近年は減っては来たけれど                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    

                          (元嘉悦大学教授)

◆メディアウォッチ

<新聞>中国人教授失踪、民間交流次元の危機認識で脇の甘さ露呈した朝日池永達夫

<海外>米国によるウクライナ軍事支援の効果に懐疑的な欧州の軍事専門家(小川敏

<経済誌>自治体と地方創生マネーを食い物にするコンサルの実態報じる東洋経済岩崎哲

<新聞>新年度が始まって40日、日本の「危殆」を綴ったさだまさしのコラム(増記代司

<SNS>「父母」消す立民「婚姻平等法」は共産主義に行き着くと櫻井よしこ氏(森田清策

<新聞>ハト派・宮澤喜一元首相の改憲も集団的自衛権も辞さない「遺言」(増記代司

<新聞>「ニッポン」読みに圧力かける朝日、憲法の「国民」に珍論唱える毎日増記代司

◆教育

子供の「否定語」生かす教育を

  言葉の背後に論理的思考(沖縄支局・川瀬裕也

◆論壇時評

ー国内編ー

「トランスジェンダー」の悲劇―”SNS感染”で手術増える

「同性婚」促す高裁判決―「婚姻の自由」は性倫理の破壊だ

              (編集委員・森田清策

ー韓国編ー

反日マーケティングの効果?―どう見る映画「破墓」の大ヒット

与党敗因は「尹氏への失望」―元老作家卜鉅一氏の総選挙評価

              (編集委員・岩崎哲

◆ビューポイント  

災害時に必要な外国人対応

 危惧すべき意図的な混乱/秩序維持難しい東京直下地震

   ロバート・D・エルドリッヂ(エルドリッヂ研究所代表・政治学博士)

民主主義が後退した30年/民主諸国は態勢挽回の努力を

   西川佳秀(東洋大学名誉教授)

現政権支持するIT労組/「安全保障」理由に広がる規制措置

   岩田伸人(青山学院大学名誉教授)

大学を席巻する反ユダヤ主義

 学内デモでハマスを支持/目標はイスラエルの国家消滅

   クリフォード・メイ(民主主義防衛財団会長)

影響力低下するモスクワ教会

 旧ソ連圏で離脱の動き/ウクライナ戦争支持に反発

   中澤孝之(日本対外文化協会理事)

台湾新総統就任に祝意を/防災担当大臣を派遣せよ

   浅野和生(平成国際大学教授)

中国の高度化するサイバー攻撃

 生成AI使い影響力行使/ハッキングは日々の生活にも

   新田容子(仏国立安全保障防衛研究センター上席フェロー)

トランプ裁判は米憲法の危機

 前例ない前大統領への脅迫/敗色が強まるバイデン陣営

   ニュート・ギングリッチ(元米下院議長)

情報支援部隊を新設した中国

 高まる台湾有事のリスク/日本は積極的米中仲介外交を

   茅原郁生(拓殖大学名誉教授)

中国の暗い未来示す「十不青年」/献血せず、寄付せず、結婚せず

   石平(評論家)

夫婦の共有時間と出産意図

 くつろげる時間の差縮小を/無償労働への夫の手伝い重要

   佐藤晴彦(平成国際大学名誉教授)

届け!拉致被害者家族の思い

 金正恩氏は勇気ある英断を/少子化が深刻化する北朝鮮

   宮塚利雄(宮塚コリア研究所代表)

政権の終焉か自民の終焉か/教育政策に視点移せ

   大泉博子(元衆院議員)

「統帥権の独立」と「無責任体制」

 あからさまな縦割り制度/内閣・陸海軍が別々に天皇に直属

   菊田均(文芸評論家)

のけ者ロシアを支援する中国

 帝国再建目指すプーチン氏/米の国際的役割に対抗で結束

   ジョセフ・デトラニ(元米朝鮮半島和平担当大使)

日本の高度な精神文化の復活を

 消えつつある美しい日本語/子供の社会を覆う暴力的表現

   ペマ・ギャルポ(拓殖大学国際日本文化研究所教授)

◆社説

憲法記念日/国会が改憲議論止めるな

中国人教授失踪/蟻地獄化で露呈する恐怖政治

露大統領就任/有事が続くプーチン氏5期目

適正評価法成立/次はスパイ防止法の制定を

台湾総統就任/守り抜くべき民主の灯台

皇位安定継承/皇族数確保は「皇統」前提に

 

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 役者を目指す二人の障碍者、車いすの田崎花歩さんと耳の聞こえない小野花音さんの物語。二人は障碍者専門のタレント事務所に所属。総勢40人が所属しているという。花音さんは、仙台の東北福祉大学4年生。就職活動の傍ら、東京に通い演劇を学んでいる。彼女は演劇を習い始めて8カ月。聞こえないにもかかわらず、セリフを声に出して演じる。大学の講義は、パソコンの音声文字起こしソフトを使って難なく受講する。友人との会話は相手の唇の動きを読み取り(読唇)、声を発する「口話」で行う。その場にいた友人も感心していたが、そのやりとりは聞こえないハンデを感じさせないほどナチュラルだ。もっともその発音が聞き辛いのは確かだが、これまで自分の声さえ一度も聞いたことすらないのに正しい音を発声できているのは驚異というほかない。

 

 花音さんは生まれつき耳が聞こえない。一般の学校に通い、健常者に囲まれて育つ中で、口話を身に付けたという。お母さんいわく「聞こえる人たちの中で将来生きていくので、自分でなんでもできるようになればいいなと思って育てた」と。明るい性格で、人前に出ることが大好き。演じたいという気持ちをずっと心に秘めてきたという。本人いわく「幼稚園で発表会があり、主役をやりたいと言ったが、聞こえないからと却下されたり、小学校の時もやりたかったけど、同じように聞こえないからダメという経験が多く、やっとチャンスをつかんだので、このチャンスを逃したくない」と意気込む。彼女の物腰・態度、表情、言葉選びや声のトーンからして、今までの経験からの疎外感や社会に対する恨み骨髄という雰囲気は微塵も感じない。誰からも好かれそうな素直で明るい美人。本人の努力もさることながら、親の教育のありようがにじみ出ていよう。

 

 去年10月、花音さんに朗報が。10倍以上の倍率を潜り抜け、NHKの連続テレビ小説「おむすび」の書類審査に合格。事務所の仲間に手伝ってもらい、特別レッスンが開かれた。「受かるとは思っていなくて私の中で一個の新しい挑戦」と花音さん。応募したのはヒロインの友人たちの役で障害があるなしに関わらず、広く募集されていた。しかし、一度に複数の人のセリフを「口話」では読み取れず自分のタイミングがつかめない。「どうやったら聴者の方々とうまく言葉のキャッチボールをしながら演技ができるのか」と悩む。

 

 一方、都内の大学でユニバーサルデザインを研究する花歩さん。「当事者だからできることって説得力があると思う。エンタメを通して多様性やそういうものを多くの人に知ってもらえたら、少しは社会が変わるきっかけになるかな」と話す。事務所に所属して1年ではじめてドラマ出演の機会が与えられる。しかし演出家の藤井清美氏による演技指導でダメだしが。「田崎さんにしかできない芝居とこだわりをこの役に持ってほしかった。それをやらないんだったら、誰でもいいですになっちゃう。なんとなく小道具の車いすに乗っている人じゃできないことをやってほしいし、何で勝負するかは、今まで生きてきた人生」だと檄が飛ぶ。

 

 花歩さんは、幼少期に発症した病気の影響で徐々に歩けなくなり、車いす生活に。「無意識のうちに諦めることには慣れていて、それが当たり前だと思っていた」と語り、周りに迷惑をかけたくないということで、体育の授業や課外活動では見学しがちになったそう。そんな日々を変えたのは高校の友人たちだった。「私ができないかもって言う前に、みんなが次どうするかって役割分担してくれたり、周りがすごく引き出してくれた」「やってみない?とか一緒にやろうって、声をかけてくれた人たちがいたから諦めなくても大丈夫なこともたくさんあった」と述懐。

 

 花歩さんの撮影当日の様子。自分にしかできない演技とは何なのか?彼女いわく「自分がこれまで生きてきた背景もこの役柄に背負わせられるのではないか」「自分が障碍者だからという枠に収まるのではなく、一人の女優として、どういうお芝居をするかどうやって向き合っていくのかが、すごく大事だと感じた」と。

 

 代わって、オーディション当日の花音さん。163人が参加したが、結果は不合格。「自信を持った上で行ったのですけど、そこで自分はまだまだだと思い知った」と涙を飲んだ。加えて「自分のアイデンティティはよくわからない。ろう者(手話)と難聴者(口話)の面もあって、二人の自分がいる感じ」と語る。大学卒業まであと4か月となり、針路についてお母さんに「芸能の方をメインで頑張るという思いは変らない」と伝えるも、お母さんは「生活はどうするのか。親としては不安」だと心配をのぞかせる。

 

 ある日の藤井氏の演技指導で、「発話も得意だからセリフを言う練習もしていて、それはすばらしい武器になると思うが、しかし同時に発話をしなきゃということに気を取られるあまり、気持ちが落ちてしまうよりは、気持ちが盛り上がる瞬間、感情が動く瞬間を捕まえるのが大事」だとの指摘に何か吹っ切れたような花音さん。そして彼女は大手通信会社の内定を辞退して上京を決めた。アルバイトをしながらやはり役者を目指すという。片や田崎さんは車いすでファッションショーにも出演し、活躍の場を広げている。

 

 この「Dearにっぽん」という番組は、何もマイノリティーをフィーチャーすることに特化した企画ではないが、NHKの今の路線からいきおい、そのフレーバーを帯びることになる。今回も二人の障碍者にスポットをあて、その生きづらさや社会への不満をフレームアップしたい動機がミエミエだが、しかし今回の二人はNHKのそんな思惑にスポッとは収まり切らない、自分との戦いを良しとする信念を持ち合わせているといえる。

 

 もとより、障碍者を助け、保護することは社会の責任でもある。しかし現実に、世の中厳しい。番組でもあったように障碍者同士の中でも生存競争があるのだ。当然ながら。自分の思い通りにスイスイなんて行くもんか。この厳しさに耐え、這い上がり、栄光を掴まんとすれば、たとえ健常者であれ、障碍者であれ、人知れぬ努力と砂を噛む屈辱をも甘んじて受け入れる汗と涙の苦労が要るのだ。そして自らの不遇を他人や社会のせいにせず励んだ精進は必ず誰かの目に留まるものだ。

 

 花音さんと花歩さんには心からエールを送りたい。彼女らは健常者にさえ勇気を与える輝きを持っている。しかし、若い彼女らが、今後、躓き倒れようとする場面が訪れても、親や気の置けない友達という帰る場所があるのだと思い起こして欲しい。あなたたちは既に何物にも代えがたい宝を築き上げたのだ。当方に言われるまでもないだろうが。

 

 著者の大津氏は、緩和医療医。これまで千人の最後を見届けてきたという。そんな氏が、これまでの医師としての経験と実感をもとに、人生を後悔しないための25カ条(=多くの人が後悔すること)を説いてくれている。そのすべてが「なるほど」と膝を打つものばかりだが、実践できるかどうかは微妙なものもチラホラ。先立つものや時間の捻出は容易ではない…といえばこれも言い訳なのかもしれないが、わかっちゃいるけど…の世界。

 

 大津氏は、現代医学の風潮に一石を投じてもおられる。今や日本人の死因の第一位であるがんについて、「単純に西洋医学や公衆衛生の向上が感染症などかつての死因を激減させたため、結果として人は長生きとなり、細胞分裂の総回数を増やすこととなったがゆえに、『エラー』であるがんが生まれる確率を増やした」側面の可能性を指摘。また、終末期医療について「ただ長生きすること、ただ健康であること、それが人が生きる最高の『目的』とは思われない。長生きや健康は、自分の夢や希望をかなえる『手段』であると思う」「その医療が人を笑顔にするものでなければ、それはまやかしの医療だ」と強調されるが、まったくその通り。なお、「人が生まれ、交配し、子孫を残すのは、あるいは生きるために食し、寝るのは、生物としての既定路線にすぎない」とし、「人が人であるように生きるということは、そのような生物のくびきから逸脱して生きることかもしれない」との提起も同感だ。さらに「人が見ていなくても、自分は見ている、そして天がみている」「犯罪など犯すべきではない。刑罰があるとかそのような理由ではなく、結局そのこと自体が自分を救うどころかより苦しめるから」に至っては、我が意を得たり。

 

 25カ条の中で、特に印象的だったのが、19番目「結婚をしなかったこと」。その中で「片方が死病に冒されていることを知りながら、つまりごく近い将来に死別することを知りながら、結婚し入籍したカップル」が必ずしもごく稀でないとのこと。そして自らも関わった同様の事例をあげておられる。大津氏は「良い結婚は心の安定と活力を生み出す」とした上で、「受からないと知りつつ受験する『記念受験』のような、通過儀礼としてやっておこうかと、そういう安易な印象は受けない」と。かつまた、勢いやヤケで、ということでもなかろう。しかし、入籍してもほどなく、確実に一方の伴侶の死は訪れる。その後、残された側の人生は長いものになるのかもしれないとして、その再婚までお互い了解済なのか?いやとてもそうは思われない。ともかくも、その後、一人で生きていくことを承知でも結婚したいと思うカップルが一組や二組ではないのだ。

 

 大津氏は結婚という「形」の揺るぎなさや安心感を求めてのことと分析しておられるが、それだけでは物足りない。通常のカップルでも、普段は信仰の欠片もないくせに、いざ結婚となると、チャペルがいいか神前式がいいかなどと霊験あらたかに執り行うことを望む。それは神仏の前に誓いを立てることにより、たとい肉体は滅びようともその愛を神聖で永遠性のものにしたいとの本心からの発露ではないのだろうか。無論、合理的に説明できようものではないことは確か。

 

 もう一つ印象深いのが、20番目「子供を育てなかったこと」で紹介されているエピソード。ある男性が二十数年前、「好きな人ができたから」と言い残し、妻と二人の幼い娘を捨てて出て行った。二人の娘はただ泣いたそう。母親はそれからひたすら働き、貧しいながらも二人の娘をまじめにまっすぐ育てあげた。しかし、無理が祟ったか、娘がともに成人して間もなく他界。また娘たちは泣いた。そして、自分たちを捨てた父親を一生許さないと思ったと。それから十年余りが経って、彼女らに、その父親の危篤が伝えられる。二人は思い悩んだ挙句、会いに行くことを決断するも、「罰があたったんだ」などと眼前で罵ってやろうと身構えていたそう。しかし、病床の寝たきりの父を一目見た刹那、彼女たちは一生懸命その世話をはじめたという。数カ月間にわたり父の意識はもどらないままだったにも拘わらず、一切手を抜かない見事な介護だったそう。大津氏がこれを評していわく、彼女らは「家族の時間を取り戻しているのだ」と。

 

 この父親がクズであることは論を俟たない。しかし彼女たちにとってはかけがえのない唯一の肉親だったのであり、どんな事情があれ、それを変えることなどできない。何より命を与えてくれた存在。親がいなければ「私」は存在しなかった。両親が出会うまでの背景を考えてもみよ。「私」という存在は奇跡の連続の結果なのだ。よもや存在することとしないことをその価値において比較できるとでも?元来、感謝してもしきれないはず。だがしかし、こんなケースはまれで、「あの人はもううちとは関係ない」とか「遺骨だけ送って下さい。骨にするのはそっちでやって下さい」という反応こそありふれたものだという。この母親は男選びは失敗したが、子育ては成功した。無様で屈辱的な思いは家族で共有したろうが、子に毒を吹き込むことはしなかったのだろう。

 

 しかし今、世間の風潮は、「親ガチャ」とか「反出生主義」などと称して、「生んでくれと頼んだ覚えはない」などとこれでもかと親を断罪し、親子関係に法や行政及びNPOが遠慮なく割って入ることを是とする。確かに幼少期の虐待などによって死に至らしめたり、生涯にわたるトラウマを負わせるなどのケースは後を絶たず、緊急性を要する事案は存在する。しかしそれは特殊な事例だ。それとも先の二人の娘は逡巡などせずに、今こそ積年の恨みを父親に投げつけ、「自業自得」「ざまァない」と蹴りの一つでも入れてリベンジすべきとでも? そうすれば本人たちも天国の母親も満足すると?しかし、それをやっちゃあおしまいよ。親も未熟なのであり、必ずしも子にとって理想的な存在ではない。親の成長も含めてその家族の課題だと捉えるべきかもしれない。無論周囲のサポートが必須だ。「愛されなかったことを恨みとせず、愛せないことを恨みとせよ」それが人間の人間たるゆえん。かのオードリー・ヘプバーンもそういう生き方をした。

 

 大津氏はこう締めくくっておられる。「ありがとう」それは後悔のない最期のために必要な言葉だと。この一言を生涯どれだけ言うことができたのか。もしくはせめて今際の際にこの言葉で締めくくることができたか。自分の人生の採点は見極めがつくし、それが悲喜こもごもでも納得せざるを得ないだろう。