映画「いまダンスをするのは誰だ?」を観る | 世日クラブじょーほー局

世日クラブじょーほー局

世日クラブ・どっと・ねっとをフォロースルーブログ。

 

 

 

 「パーキンソン病」…脳内のドーパミン(神経伝達物質)の分泌の減少により、手足が震える、動作が鈍くなる、全身の筋肉が硬くなる、姿勢が前屈みになり、転びやすいなどなどの症状を引きおこす。ただ、その現れ方は人それぞれ。進行性の難病と言えるが、今現在は、薬とリハビリにより、症状を抑えたり、進行を遅らせたりも可能。日本の患者数は14万人以上で、70代以上は100人に一人が発症するという。他人事ではないにも関わらず、この病気に対する理解が進んでいるとは言い難く、それが患者の社会生活上の障害となっている。

 

 雨が降りしきるビルの屋上で、手すりを乗り越えようとするスーツ姿の男。結局、勇気がなく、その場に泣き崩れた…。

 

 馬場功一(樋口了一)。大手建設会社の設計部に勤め、このほど、鹿児島支社から東京の本社に栄転となり、部長職を任されていた。彼はパーキンソン病と診断されていて、手の震えや前傾姿勢、片足を引き摺るなどの症状があったが、会社には伏せていた。元来、仕事熱心だが、上司(塩谷瞬)には盾突き、部下には厳しく当たると言う具合で、徐々に周囲から疎まれ始める。飲み屋に立ち寄れば、ちょっとしたことで居合わせた客と口論に。主治医にも「このヤブ医者!」と喰ってかかる始末。

 

 彼の家族は、ウェブデザイナーの妻・恵(小島のぞみ)と中学生の娘・鈴涼<りず>(山本華菜乃)の3人暮らし。これまで仕事一筋かつ昭和の亭主関白そのままに、家庭を顧みずにきた。ある晩、娘がダンススクールに通っているのを知り、ブチギレ。大立ち回りを演じ、家族からもついに愛想尽かされてしまう。生来の「カタブツ」に加え、病気で思うに任せない自分にイラつき、行く先々で、勝手に”キレて”、当たり散らかす”イタイ”ひと…。その挙句が、冒頭のビルの屋上でのシーンだったのだ。

 

 孤独に打ち震える中、パーキンソン病患者のコミュニティで出会った葛西(IZAM)からのアドバイス、「自分をさらけ出すこと」が胸に突き刺さる。以来、荒んだ生活を改め、趣味のカメラの腕前を生かすことで、同僚にも受け入れられるように。そして、コミュニティでのリハビリを兼ねたダンスに打ちこむ中、インストラクターであるシルビア(杉本彩)に、YouTubeで見たロックダンスをマスターして、娘と向き合いたいと打ち明ける。果たして馬場は、失いかけた人生を、家族を、取り戻せるか?

 

 本作は、証券マンだった故松野幹孝氏(一般人)の実体験に基づいたストーリー。松野氏は2012年にパーキンソン病と診断され、この病気の実情を知ってもらおうと映画化を発案したという。クランクイン直前の昨年3月に67歳で逝去した。

 

 主人公・馬場功一役の樋口了一氏は、自身も2009年にパーキンソン病と診断されている。彼は、古新監督たっての願いで、本作の主題歌制作を快諾した。しかし、古新氏が樋口氏のディスコグラフィを聞く中で、「今まで樋口さんのファンでなかったことを悔いた」というほどに惚れ込み、なんなら、主役をとオファー。樋口氏としては役者経験もない中、逡巡したが、「やったことがない事をやったことがないという理由だけで断るのが面白くない」として、結局、受けることになったという。

 

 本作を観る前の当方の樋口了一の印象は、再放送で観た90年代の「水曜どうでしょう」で、大泉とミスターが、川崎にあった専属のレコーディングスタジオや樋口の自宅を訪ねた回の30代前半の頃のかっこいい姿。本作の設定は40代と思うが、実際の樋口は59歳。前屈みの病気の症状の演技も相まって、細野晴臣を思わせる老け込み具合にちょっとショックだった。演技は初めてなので、シロウトぶりも目立ったが、やはりパーキンソン病を身をもって知る自身の思いが作品ににじみ出ていたと思う。

 

 わが知り合いにもパーキンソン病で闘病中の人がいる。有名人ではマイケル・J・フォックスや初代タイガーマスクの佐山聡氏、ヒクソン・グレイシーなど。本作が病気の理解や患者へのエールとなることを願う。

 

 上映後の舞台挨拶に現れた樋口の姿は、白髪にはなっていたが、かっこよさが健在で病気であることを微塵も感じさせず、うれしくなった。同名タイトルの主題歌もグッド!!

 

(舞台挨拶にて 左から古新監督、音楽担当の村上ゆき氏、樋口了一氏)

 

 

(監督)古新舜

(キャスト)

樋口了一、小島のぞみ、山本華菜乃、塩谷瞬、IZAM、吉満寛人、渋谷哲平、新井康弘、椿鮒子、むかい誠一、岡村洋一、森恵美、西田聖志郎、澤田拓郎、あべみほ、静恵一、今安琴奈、杉本彩