映画「スティルウォーター」を観る | 世日クラブじょーほー局

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 アメリカのオクラホマ州南中部に位置するスティルウォーター。ここに住むビル・ベイカー(マット・デイモン)は元々石油掘削作業員だったが、油田の閉鎖に伴い失職。今現在、定職を探しつつ、竜巻が襲った後の瓦礫処理など日雇い労働で凌ぐ日々。

 

 そんなベイカーが飛行機で向かった先は、フランスのマルセイユ。そこには実の娘であるアリソン(アビゲイル・ブレスリン)が殺人の罪で懲役9年の実刑判決を受け、すでに5年もの間、服役中だった。そんな娘との面会のため定期的に同地を訪れていたのだ。

 

 かねて自分の無実を訴えていたアリソン。このほど真犯人に関わる新情報を得たとしてそれを手紙にしたため、とある弁護士に届けて欲しいとビルに託す。ビルはやっとの思いでその弁護士にたどり着いたが、結局取り合ってもらえなかった。ならばと、手紙に名前が記された男を自ら探すことにしたが、行く手には幾多の困難が待ち受けていた。この事件の真実、そしてその行き着く先にあるものとは?

 

 ビル・ベイカーは白人ブルーカラーで、敬虔なキリスト教徒、娘思いの父親という側面と、過去に逮捕歴があり、妻を自殺で失っているなどの影を引き摺る。彼がトランプ支持者をほのめかす描写もある。なお、娘のアリソンは同性愛者であり、刑に服したのは、その恋人の殺人容疑だ。彼女は父親がこれまで失敗ばかりしてきたとなじり、ホワイトカラーでない負け組として内心軽蔑している。そんな複雑な家庭環境にあって、ビルは娘の無実と親子の関係を取り戻すべく奔走するが、逆にトラブルを引き起こしていく。

 

 ビルが宿をとるホテルで偶然出会い、成り行きから彼の通訳を引き受けたヴィルジニー(カミーユ・コッタン)と娘のマヤ(リル・シャウバウ)。彼女はビルとは正反対のリベラリストだが、言葉や文化の壁、そして法制度の違いなどで翻弄されるビルの助け手となり、やがて親密な関係となっていく。このアイロニーこそポイントだろう。

 

 アリソンが「人生は冷酷」と言うように、本作に明るく希望的なメッセージを汲み取ることは難しい。異国での一介の米国人の無力さに立ちすくむ。ただ、ラストでビルが故郷の風景を眺めながら、「すべてが違って見える」と吐いたセリフは、悲哀の中に一筋の光明を見た。

 

 監督は,、カトリック神父による信者への性的虐待に迫った2015年公開の「スポットライト 世紀のスクープ」で、アカデミー賞作品賞、監督賞など受賞したトム・マッカーシー。

 

(監督)トム・マッカーシー

(キャスト)

マット・デイモン、アビゲイル・ブレスリン、カミーユ・コッタン、リル・シャウバウ、イディル・アズーリ