映画「モスル~あるSWAT部隊の戦い」を観る | 世日クラブじょーほー局

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 がれきの山と化したイラク北部の都市モスル。犯罪捜査中、ISの集団に襲われ、銃撃戦となって目の前で叔父を撃たれて、自らも絶体絶命となった新人警官カーワ。すんでのところで駆け付けたスワット部隊に助けられる。しかし、叔父は息絶えてしまった。スワットの隊長であるジャーセムから仲間に入れと誘われるカーワ。何でも、彼らは連邦警察の正規部隊ではなく、ISに家族が殺されたことが入隊の条件なのだという。そして、困惑するカーワを横目に、容疑者らを残忍な方法で殺害した。ジャーセムいわく、逮捕しても無意味だと。

 

 一緒にいた相棒の警官の心配をよそに、スワット入隊を決意するカーワ。その場でスワットのトレードマークである、ロゴ入りの黒キャップを渡され、さっそく彼らのハンビーに乗り込む。この部隊の任務は何かと問うカーワに「お前の叔父を殺した連中を殺す。それ以上聞くな」とにべもない。部隊は戦闘の度に仲間を失っていくが、やがてISの基地を発見した。ただ攻撃をかけようにもこの手勢では心もとない。それを承知であえての攻撃かそれとも迂回して進むか。思い悩んだ末、隊長の右腕であるワリードが下した決断は…。そしてスワット隊が目指す真の目的とは?

 

 「モスル」はイラク北部に位置する同国第2の都市で、ISの中東最大拠点でもあった。歴史的には同地は紀元前3000年に起こったアッシリアの首都ニネヴェがおかれた場所でもあり、聖書のヨナ書には、預言者ヨナがニネヴェを救えとの神の命令に背き、クジラに飲み込まれる物語が記されている。2017年には米軍の支援を受けて、イラク政府により奪還されたが、町は破壊しつくされており、本作パンフによれば復興には5年の歳月と500億ドルの費用が必要だとしていて、今なおその途上にある。

 

 劇中、ISの基地への攻撃に際して、米軍への空爆要請の意見が提案されるが、「奴らは復興のことを全く考慮しない」と即却下するシーンが印象に残った。思えば、イラクのフセインは邪悪であったが、多民族多宗派国家の同国はフセイン率いる少数派のスンニ派と多数派のシーア派、そしてクルド民族など微妙な構成バランスによって成り立っていたのであって、彼は必要悪だったとも言えよう。それをお門違いの大量破壊兵器を口実にして、イラク戦争に踏み切った米ブッシュ政権。フセインの処刑シーンをネット公開したことでもその腹の内が透けて見えるというもの。他に選択肢がなかったとはいえ、日本もそれに同調したのだ。いずれにしても、イラク戦争を奇貨として、イスラム狂気集団ISは台頭してきた。ジョージ・ソロスらが背後で仕掛けたアラブの春もそうだが、米国の傲慢さと浅はかさの産物ともいえる。

 

 さて、令和4年の新年が明けたが、年末年始テレビは毎度おなじみ、愚にもつかないバカ番組が目白押しだ。昨年もコロナに悩まされたとはいえ、人生が絶望などということはない。苦しい立場でも政府の支援もあれば、ウィズコロナ下での新たな知恵や踏ん張りもあろうし、それこそ自助共助公助の真価が発揮される時だろう。だが、地球の裏側では本作が活写したように、明日をも知れぬ命を懸けて、なおかつISに捕まれば、斬首が待つという極限状況で、家族のため、祖国のため今なお、戦っている若者がいるということを知るべきだ。

 

 もっとも彼らの行為は復讐だ。IS相手に確かに法の下の裁きなど望むべくもないが、復讐はさらなる復讐への連鎖を生み、その怨念は増幅されていく。そもそもこのアラブ世界の始まりは、信仰の父アブラハムの妾ハガルにさかのぼる。息子イシマエルとともに砂漠に追放されたその恨みこそ現在のユダヤとイスラムの対立を中心とした中東情勢をそのまま映し出す。

 

 中東和平はいかにしてなるか。前述のヨナの物語で、ヨナは残虐で高慢なアッシリアの民を救うなど、それが神の命令だとしても御免被りたかった。しかし彼が困難の末、神の言葉を伝えると民も国王もそれを受け入れ、滅亡を免れたのだった。ニネヴェを舞台にしたこの物語の真意を汲み取り、わが国も惰眠をむさぼるのを止め、使命を悟り行動すべきだ。

 

(キャスト)

スヘール・ダッバーシ、アダム・ベッサ、イスハーク・エルヤス、クタイバ・アブデル=ハック、アフマド・ガーネム、ムハイメン・マハブーバ、ワリード・エル=ガーシィ

(監督)マシュー・マイケル・カーナハン