李栄薫編著「反日種族主義 日韓危機の根源」(文藝春秋)を読む | 世日クラブじょーほー局

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反日種族主義 日韓危機の根源 (文春e-book)

 

 元ソウル大教授の李栄薫氏を中心に、6人の専門家による韓国の反日の根源に迫る本書。韓国において昨年7月に発売され、その日本語版として本書が4か月後の11月に日本で発売。それぞれ20万部を超えるベストセラーとなった。韓国でベストセラーとなったということは、一定程度、本書の内容を支持する層が存在することの証でもある。ただ、本書にたいして、文政権のタマネギ大臣、曹国前法相が「吐き気がする親日」とこきおろしたが、勘違いしない方がいいのは、本書は絶対、親日論ではない。平たく言えば、思いっきり左にねじ曲がった立場(強烈な民族主義との化合物)をニュートラルに戻すというに過ぎない。確かに、これだけでも画期的には違いないのだが、本書が世に出ることだけですらいかに困難なことか、「プロローグ」を紐解けば、それこそ、うんざりするほどわかる。

 

 反日種族の反日種族たるゆえんは、本書のプロローグにおいて言い尽くされているといえる。物事に原因と結果があり、本質と現象があるように、このプロローグが言及する内容こそ、原因であり本質であって、340ページに及ぶその後に展開される議論は、その具体例である。

 

 プロローグは題して、「嘘の国」。「韓国の嘘つき文化は国際的に広く知れ渡っています」で始まる。国民、政治、学問、裁判の各分野をスケッチしつつ、「嘘つき」というメンタリティー、否、文化が、社会の隅々まで行きわたった抜き差し難い同国の宿痾だということを示す。

 

 中身を見てみよう。韓国において、2014年に偽証罪で起訴された者が1400人。これは日本の172倍。一人当たりの偽証罪の件数は日本の430倍。虚偽に基づいた告訴、すなわち誣(ぶ)告の件数は500倍。また「この国の歴史学や社会学は嘘の温床」、「この国の大学は嘘の製造工場」とまで記す。そして、人が嘘をつくのは、知的弁別力が低く、それに対する羞恥心がない社会では、嘘による利益が大きいためと断じている。もう十分であり、これだけ押さえていれば、この先、同国で何が起こされても、「さもありなん」の一言で済んでしまう。

 

 本章で、特に印象的だった部分を記す。第1部「種族主義の記憶」の、5「強制動員の神話」の中で、先の大戦の戦時動員に関して、朝鮮人に対するそれが、「強制動員」であり、「奴隷労働」だったとする問題。この論の嚆矢となったのが、1965年に、日本の朝鮮総連系の朝鮮大学校の教員・朴慶植の主張だったとしている。その意図は、当時進行していた韓日国交正常化交渉を阻止するためで、両国の国交が正常化されれば、北朝鮮が包囲されるからだったと解説している。これが今日でも学会の通説となって残り、韓国の政府機関、教育機関、言論界、文化界に甚大な影響を与えたというのだ。そして、巡り巡って、2018年、韓国大法院のいわゆる徴用工判決(実際は半島出身の戦時労働者)につながっている。今も昔も北のプロパガンダにまんまとしてやられているわけだ。

 

 第3部「種族主義の牙城、慰安婦」の、21「解放後の四十余年間、慰安婦問題は存在しなかった」において、「1990年以前は、(中略)韓国人は慰安婦被害を認知せず、慰安婦問題はありませんでした」「1970年代まで慰安婦の実情をよく知る人たちが多数生きていたときには、慰安婦問題は提起されませんでしたが、時が40年以上も過ぎ、もうそういう人たちがいなくなってその記憶が薄れて来るや、架空の新たな記憶が作られ、慰安婦問題が登場した

 

 時間の経過ともに、人々の記憶は薄らぎ、そこに込められた感情も相対化していくのが一般的な人間の有りようだろうが、この慰安婦問題に限っては白昼堂々と逆行してしまう。そして、通常の人間の感性ならあり得ない、それを象徴する像…、まさに忌むべき像を丹精こめてこさえ、わざわざ国際法に反してまで、人様の大使館前に設置しようと試みるわけだ。それは当事者だった彼女らを真心から労り、その苦しみ悲しみを共有し、解放せんとする動機からとはとても思えない。これまた、北と協働した政治目的でしかないであろう。

 

 それにつけても、慰安婦問題については、本書でも若干言及があるが、やはり吉田清治の存在である。済州島で慰安婦狩りをしたという、常識的には相手にもされないような荒唐無稽な作り話も、当事者を名乗り出て語り、韓国に出向いて謝罪までしたり、裁判に出廷するなどに及んで、史実として一人歩きし始めた。ただ、それも朝日新聞という大マスコミが30年間にわたって拡散し、権威付けした賜物だ。そういう意味で、反日種族主義をわれわれ日本人は笑えない。そのままブーメランのように返ってきてしまう。

 

 とまれ、思想戦たる歴史戦はいまなお続く。思想に疎い日本人への処方箋は何か。本書を精読し、とくと考えられたい。