映画「ジョーカー」を観る | 世日クラブじょーほー局

世日クラブじょーほー局

世日クラブ・どっと・ねっとをフォロースルーブログ。

 

 

 かのバットマンの好敵手、ジョーカー誕生のエピソードムービー。主人公アーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)は、コメディアンを目指しつつ、普段はピエロに扮して、各地のイベントに派遣されるという毎日。古びたアパートに精神を病んだ寝たきりの母親と二人暮らしで、アーサー自身、脳の障害によって、突然、笑い出して止まらなくなるという発作を抱えている。なおかつ、ソーシャルワーカーによる定期的なカウンセリングや向精神薬の処方など、社会福祉の支援に依存せざるを得ないという絵に描いたような社会的弱者だ。

 

 そこへもってきて不運が続く。ある日、ソーシャルワーカーから、支援が打ち切られる旨が告げられる。市の財政難の故だという。また、派遣先の営業中に、抱えていた店の看板を少年グループに叩き壊され、アーサー自身もひどい暴行を受ける。そして、護身のためだと同僚に渡されたピストルを派遣先の病院に持ち込んだことがバレて、結局、職場をクビになる。打ちひしがれ、道化の格好のまま地下鉄に乗ったアーサーだったが、一人の若い女性が、3人の会社帰りの男らに絡まれはじめ、それを咎めたところ、逆ギレした彼らに、またしても暴行を加えられる。ただここで、我慢の限界を超えたアーサーは、持っていたピストルで3人とも射殺してしまうのだった。ここから、彼の中で何かが芽生える。

 

 ナイトクラブで、アメリカンジョークなどを披露していたアーサー。彼の独特の感性に、会場はドン引きだったが、コメディ番組の人気司会者マレー・フランクリン(ロバート・デニーロ)が、その動画を取り上げたことで話題となり、彼の番組に出演することとなった。一方、巷ではアーサーが射殺した3人が、超優良企業ウェイン産業の社員とわかって、経済格差が広がり、人心の荒んだ当地(ゴッサムシティ)の下流層からは、拍手喝采が起こり、謎の殺人ピエロを英雄視する動きが広がっていたのだった。

 

 入念に顔にペイントを施し、髪をグリーンに染め、ド派手なスーツを着込み、”ジョーカー”となって番組出演に向かうアーサー。果たして彼は何を語り、何を披露するのか…。

 

 ところで、カール・マルクスは、ユダヤ人家庭に生まれ育ったが、ユダヤ人としては当時のプロシア社会から差別を受け、両親のキリスト教への改宗によって、今度はユダヤ人から疎まれるといった複雑な幼少期を過ごした。やがて青年となり、ヘーゲル哲学の影響から、自由の実現を信念として新聞社の主筆を務めたマルクスに、またもプロシア政府は弾圧を加え、彼はパリ亡命を余儀なくされた。また、プロシア貴族の娘であるイェニーとの結婚に反対していたマルクスの母親は、親戚にそそのかされて、マルクスへの父親の遺産配分を拒絶するということもあったようだ。

 

 パリで経済学研究に打ち込んでいたマルクスに、今度はフランス政府から国外退去命令が。やむなくベルギーのブリュッセルに移ることになったマルクスだったが、プロシア政府からの執拗な追及に、ついにプロシア国籍を放棄する。マルクスは、ヘーゲル思想に傾倒したのちに、フォイエルバッハの人間主義を経て、宗教はアヘンと主張し、私有財産の否定を唱え、最後は、共産党宣言において、「万国のプロレタリアートよ団結せよ!」と暴力革命を正当化するに至った。

 

 一匹の妖怪がムービー界を徘徊している。「ジョーカー」という妖怪が…。本作は21世紀の「共産党宣言」か。言うまでもなく、マルクスのルサンチマンから始まった20世紀の壮大な社会実験は、すでに終わったのだ。その失敗は、彼らの人間観に帰結しよう。サルが労働することによって、人間に進化したのだと。

 

 ”嘆くな、腐るな。愛されなかったことを恨みとせず、愛せないことを恨みとせよ”――これは常日頃、当方が唱える弱い自分自身への「喝」だが、こういう発想とそのための努力精進こそ、人間の人間たるゆえんである。

 

 ハッキリ言う。「ジョーカー」はまったく不健全だ。

 

(出演)

ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ、ザジー・ビーツ、フランセス・コンロイ、ブレット・カレン、ダグラス・ホッジ、ダンテ・ペレイラ=オルソン

(監督)トッド・フィリップス