「ルオー展」を観る | 世日クラブじょーほー局

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(ルオーが毎日祈りを捧げたキリスト十字架像)

 

 ジョルジュ・ルオー(1871~1958)。20世紀最大の宗教画家と称される。キリストの顔のアップをモチーフにした「聖顔」がつとに有名。パリの敬虔なカトリック信仰の家庭で育つ。彼の美術学校時代の教授で、ギリシャ神話や聖書をモチーフにした象徴主義の先駆者として知られる、ギュスターブ・モローに師事し、画家人生を出発。爾来、87年の生涯を閉じるまで「受難」や「キリスト像」を描き続けた。1953年にはローマ法王から勲章を授与されている。なお一昨年、現ローマ法王フランシスコが、8万人以上の若者を集めて祝福を与えたミサにおいて、ルオーの「聖顔」が浮かび上がるガラス素材の十字架のペンダントが配られた。これも今回展示されている。ルオーにとって絵画の製作は、信仰そのものであって、時代とともに、自分の内面と向き合いながら、作風を変化させていった。

 

 本展覧会は、4部構成よりなる。第I章 「ミセレーレ:蘇ったイコン」では、父の死と第一次大戦の勃発に接して、ルオーが構想したモノクロの版画集。ミセレーレ=神よわれをあわれみ給えの意。第Ⅱ章「聖顔と聖なる人物:物言わぬサバルタン」。トリノの聖骸布(キリストの遺体を包んだとされる布、その表面にキリストの顔や体全体が透かしたように浮かび上がっている)の写真に衝撃を受けて着想した「聖顔」をはじめ、ジャンヌ・ダルクなど、サバルタン=被抑圧者をモチーフにした作品群。第Ⅲ章「パッション:受肉するマチエール」。パッションとは、キリストの受難。マチエールとは画肌。晩年のルオーが絵具を何層にも重ね塗りして立体化したような技法に迫る。第Ⅳ章「聖書の風景:未完のユートピア」は、色彩豊かな風景画の中に、聖書やキリストの愛の世界を注ぎ込んでいる。

 

 この展覧会に関して、NHKの「日曜美術館」で特集していたが、かなり前の同番組で、俳優の青木崇高(タレント優香の夫)がルオーの展覧会を訪ねるという企画があった。その中で青木は、「聖顔」と対峙したその刹那、自分の顔を背けてしまった。そして血相変えていわく、あまりの神々しさや迫力に圧倒されて、まともに観るのが怖いと。意外に繊細な感性というか、清い心の持ち主なのだなと思った。当方はそこまで表立ったリアクションはなかったが、やはり「聖顔」のこちらを見つめる眼力には思わず釘付けとなった。日曜美術館でも語られていたが、ルオーが修道院に通った時代に影響を受けたジョリス=カルル・ユイスマンスは、「芸術的な美こそが宗教の根幹になければいけない」と言ったそうだ。移ろいゆく世の中にあって、変わらざるもの、ルオーが生涯追い求めた信仰の奥義、その体化物としての芸術の力にぜひ触れてもらいたい。

 

 「ジョルジュ・ルオー 聖なる芸術とモデルニテ」は、パナソニック汐留ミュージアムにて12月9日まで開催中。