映画「ペンタゴン・ペーパーズ」を観る | 世日クラブじょーほー局

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 「ペンタゴン・ペーパーズ」とは、ケネディとその後を引き継いだジョンソン政権で国防長官を務めたロバート・マクナマラが1967年に作成したベトナム戦争に関する機密文書。その中身は衝撃的で、トルーマン、アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソンと4代にわたる米政権は、ベトナム戦争について国民に何度も虚偽の報告をし、戦況の打開が見込めないにも関わらず、軍事行動を拡大させていった。加えて、「暗殺、ジュネーブ条約違反、不正選挙、アメリカ連邦議会に対する嘘といった闇の歴史の証拠が記されていた」(本作パンフレットより)。

 

 この一部が71年6月、ニューヨークタイムズ(NT)によってすっぱ抜かれる。文書作成を担当した政府系シンクタンク、ランド研究所の研究員によるリークだった。ただNTの幹部らは事の重大性に鑑み、3ヵ月の精査を経て、可能な限り政府や国民を刺激しないという体裁をとったが、当時のニクソン政権が請求した連邦裁判所による記事の差し止め命令が下る。

 

 出し抜かれた他紙はやっきになって文書を追うことになるが、そんな中、ワシントン・ポストの編集部がいち早く文書のコピーを入手する。ポストの編集主幹であるベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)は権力の監視役を自任するとともに、当時マイナーな地方紙でしかなかったポストを何とか全国有力紙へと引き上げようという野心に燃えており、また、女社主であるキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)は折も折、ポストの株式公開を目前に控えていた。ポストが手にした文書の入手元がNTと同じだとわかると共謀罪に問われる恐れがあるとして、顧問弁護士も経営幹部も色をなして記事掲載に反対。ポストの命運を賭けた伸るか反るかの最終判断はキャサリンに委ねられた…。

 

 本作のメッセージを象徴する言葉が、ブラッドリーが発する「報道の自由を守るのは報道しかない」だ。彼が寄って立つ根拠は、合衆国憲法修正第一条にある「連邦議会は、国教の樹立、あるいは宗教上の自由な活動を禁じる法律、言論、または報道の自由を制限する法律、ならびに人々が平穏に集会する権利、および苦痛の救済のために政府に請願する権利を制限する法律を制定してはならない」であり、連邦最高裁の判決も政府による差し止め請求をこれに触れるとして却下した。

 

 ただ、正義のためなら、法を犯すのもやむなしと取られやしまいか。果せるかな、反権力志向のマスコミは、国益そっちのけで売らんかなの報道姿勢に終始し、今日まで増長の一途だ。しかし、内容がどうであれ、政府の機密文書が堂々と朝刊の一面を飾る事態は、ニクソンであれ、トランプであれ、そりゃブチ切れだわ。

 

 ペンタゴン・ペーパーズの暴露により、世界的なベトナム反戦運動に火が付き、米軍は戦場というより、国内メディアに敗れ去った。73年に和平協定(パリ協定)が成立し、米軍はベトナムからの撤退を余儀なくされたが、北ベトナムは協定を守らず、その後南側を軍事侵攻。75年4月にはサイゴンが陥落(解放なもんか)し、ベトナムは完全に共産化され、数十万のボートピープルや百万人以上の粛清が行われたが、メディアはこれには口をつぐんだ。続く、カンボジアやラオスの共産化ドミノも傍観した。

 

 アメリカは自由陣営の盟主を自任し、旧ソ連を盟主とする戦闘的無神論に立つ国際共産主義の世界赤化戦略の野望を指をくわえて見ていていいはずはなく、断乎としてそれを阻止するドクトリンを旨としたのではなかったか…。

 

 12日付、世界日報国際面、ワシントンタイムズ特約の記事によれば、ミレニアル世代(2000年以降に社会人になった者)の8割がメディアを信頼していないとの調査を伝えている。トランプが一人異常ではないのだ。これはネット隆盛だけが原因ではないのは衆知の通りだ。当事者たる新聞はじめメディア人は、本作が描く、誰もが新聞報道を頼りにしていた時代をノスタルジックに回顧し、恍惚感に浸るのもいいが、自らの置かれた厳しい現状を見つめ直す必要がある。

 

(出演)

メリル・ストリープ、トム・ハンクス、サラ・ポールソン、ボブ・オデンカーク、トレイシー・レッツ、ブラッドリー・ウィットフォード、ブルース・グリーンウッド、マシュー・リス、アリソン・ブリー

(監督)スティーブン・スピルバーグ