映画「スリー・ビルボード」を観る | 世日クラブじょーほー局

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 アメリカはミズーリ州の田舎町エビング。その寂れた道路脇に並んで立つ3つの巨大な広告看板。最後に広告が貼られたのは、二十数年前という。そこへ突如、真っ赤な広告が貼り出された。異様なのは色だけでなく、一つ目が、「レイプされて死亡」、二つ目、「犯人逮捕はまだ?」、最後が、「なぜ?ウィロビー署長」の文言。むろん、これは企業広告などではなく、個人によるメッセージ広告だったのだ。

 

 7ヵ月前のこと、主人公であるミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)の娘は、レイプされた上、焼死体となって発見された。残忍かつ冷酷な殺人事件であり、母親としては到底許しがたく、一刻も早い犯人逮捕の報を待ち望んでいたが、何ら手掛かりもないまま、むなしく時間だけが過ぎていた。しびれを切らした母親が、最愛の娘を思うあまり、地元警察の、しかもその署長を名指しで非難する広告掲載に及んだというわけだ。

 

 この設定からして、以降のストーリー展開を予想すれば、警察はすでに犯人の情報を掴んでいるが、お上から圧力が…。警察としては憤懣やるかたない思いで不作為を決めこむ以外なかった…とか。あるいは、殺害された娘は、人種差別撤廃運動に手を染めており、白人至上主義者が幅を利かせる地元警察では内心、当然の報いだという空気が支配的で…などなど。そして、そんなゲス警察とのガチンコを厭わない、娘思いの肝っ玉母ちゃんに思わず拍手喝采…って。はい、全部ハズレ!

 

 本作は、予想を大きく裏切ってくれるという点においては刺激的と言えるが、一体何を言わんとする映画なのか判然としない。はっきり言って、主人公のミルドレッドの暴走に嫌気が差すこと必定。彼女の色香の欠片もないあの怖すぎる顔から、褪せたブルーのツナギとバンダナというスタイルから何から何まで不快にさせる。レイプ殺人鬼を許せないという思いは、ミルドレッドも周囲の人々も警察も同じ。いわんや署長のウィロビー(ウディ・ハレルソン)においておや。本来、広告も必要なかったはずだが、思い込んだら命がけ。わき目も振らず突進していくあの気性。彼女に比べれば、特高まがいのトラブルメーカー警官ディクソン(サム・ロックウェル)など可愛いもの。最後は彼女をテロリストかと見紛うばかりだ。

 

 最初から最後までミルドレッドとの関係性の中で、人々が次々とトラブルに巻き込まれていく一方で、泥沼に咲いた蓮の花のように、心温まる人間性が開花していく様子も描かれ、ホッとする。だが、それも束の間、すぐまたそれは打ち砕かれ、寒々となる。だとしても考えようでは、ミルドレッドの存在なしには、その開花もなかったのか。どこまでも皮肉としか言いようがない。

 

 「殺すな、盗むな、姦淫するな、嘘をつくな」は、人間に課された永遠不滅の十戒だ。ただ、日常生活にまつわる細々とした問題に関して、何が善で何が悪なのか、人それぞれだろう。だが、互いの主張をぶつけ合うだけでは、平行線をたどるのみで、果てしないいがみ合いとなる。そこはやはりわが子を諭すように、一段高いところに立ってから、足元しか見えていない相手に、親の心で導く態度が必要だろう。その動機は無償の愛である。

 

 これだけは言える。ミルドレッドには、愛が根本的に欠けていたと。

 

(監督)マーティン・マクドナー

(キャスト)

フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、アビー・コーニッシュ、ジョン・ホークス、ピーター・ディレンクレイジ