映画「ダンケルク」を観る | 世日クラブじょーほー局

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 ダンケルクとは、ドーバー海峡に面したフランスの小さな港町の名。1940年、第二次大戦のさ中、英仏連合軍の将兵40万人が、ナチスドイツ軍によって、ここに追い詰められていた。ドイツ軍機による空爆が襲いかかる中、連合軍は、海路による脱出作戦を敢行。当初、英海軍の駆逐艦が派遣されるも空爆と魚雷で多大な犠牲を出したことを受け、急遽、民間船徴用を開始。加えて、海軍の船舶供出の呼びかけに、自国の兵士を救わんと我も我もとかけつけた漁船や遊覧船の数は850隻に及んだという。時間とのギリギリの戦いの中、最終的に34万人という兵士が救出されたのだ。

 

 本作は史実に基づき、ダンケルクの戦いにおける3つの視点から構成される。1つ目がダンケルク港において、唯一船が接岸できる防波堤を中心として繰り広げられる主人公トミー(フィン・ホワイトヘッド)の1週間のサバイバル譚。2つ目は、兵士を救出せんとして自前のボートをくり出す船長ミスター・ドーソン(マーク・ライアンス)のドーバー海峡での1日の出来事。3つ目は救出作戦を援護するため派遣された英空軍機スピットファイアのパイロットであるファリア(トム・ハーディー)の空での戦いの1時間。この3つの異なった時間軸の視点が、ダンケルクにおける陸・海・空それぞれの戦いをシンボライズ。そして、本来交わるはずのない三者が奇跡的にシンクロする時、訪れるクライマックスとともに、観客は今なお語り継がれる”ダンケルク・スピリット”の一端を共有することになる。

 

 ただ、ダンケルクの”戦い”とは名ばかりで、実際は、ドイツ軍によって敗走させられた英仏連合軍の撤退劇であり、かつ主人公であるトミーは、自身の生き残りのためにひたすら注力するのだ。本作はこれまでの戦争映画の常識に照らせばかなり異色で、とくに玉砕を潔しとする旧日本軍が刷り込まれている日本人には、眉を顰める向きもあるかもしれない。トミーとて、むろん心晴れやかなわけはなく、帰路、呵責で押しつぶされそうになるのだが、故国である英国民の反応はまったく意外なものだった。この撤退が成功したことによって、のちに英本土防衛を固め、史上最大の作戦・ノルマンディー上陸作戦へとつながっていったのも事実なのだ。

 

 IMAXカメラと65mmフィルムによる撮影とCGを極力使用しないリアリティの追及。周辺部をそぎ落としてフォーカスした情報のシンプルさ。観客は戦場に今まさに居合わせたような感覚に陥ること必定の圧倒的臨場感…。天才クリストファー・ノーランの醍醐味を体感する106分。

 

(出演)

フィン・ホワイトヘッド、トム・グリン=カーニー、ジャック・ロウデン、ハリー・スタイルズ、アナイリン・バーナード、ジェイムズ・ダーシー、バリー・コーガン、ケネス・プラナー、キリアン・マーフィー、マーク・ライアンス、トム・ハーディー

(監督)クリストファー・ノーラン