受付時間をとうに過ぎて鳴った診療所のベル。研修医のジュリアンが対応しようとするが、このあと、大事な予定があり、なおかつ、自分に反抗的なジュリアンを疎ましく思っていた主人公の女医ジェニーは、それを引き留めた。翌日、ジェニーのもとに、刑事が訪ねてきて、診療所の防犯カメラの映像の提供を求める。そこに映っていた黒人の少女こそが、ベルを鳴らした当人であり、彼女はその後、遺体となって発見されたのだった。
あの時、ドアを開けていれば、彼女は死なずにすんだかもしれない。つまらない意地を張ったばっかりに…。なお大事な予定とは、これから勤めることが決まっていた大病院での、ジェニーへの歓迎パーティーだった。それとて、少女の命に代えられようか。身元不明の少女の遺体は、このままでは、無縁墓地に永眠することになる。罪悪感に苛まされたジェニーは、せめて少女の名前だけでも突き止めて丁重に葬ってあげたい。そんな思いから、スマホに収めた少女の写真を示しながら、その足取りを訪ね回るが、行く先々に困難が待ち受けていた…。
これはフランスのとある町の診療所が舞台。地域のかかりつけ医として、来院患者の診療や自宅での往診まで、ハードなスケジュールをこなす主人公ジェニー。全編を通して、来院時のベル音と患者からのジェニーのスマホへの着信音が耳につく。仕事一筋で、恋のチャンスもないのか、若さとそこそこの美貌も持ち合わせているジェニーだが、いつもすっぴんで、服装にはしゃれっ気ひとつない。加えて、仕事柄か、自然と「上から目線」となってしまい、人をイラっとさせて問題をこじらせてしまうのだ。
普段、関心が湧きようのないフランスの医療現場と、感情移入しづらい主人公という、できれば避けたいはずの設定。そこへ、同国がかかえる移民や格差問題が伏線として問題提起され、かなりの野心作といえようか。
本作は、主人公の「あの時ドアを開けておけば…」が象徴するように、人生を決定付けるターニングポイントがいくつも出てくるが、「後悔先に立たず」という人間の浅ましさ、弱さというものがクローズアップされている。ここから教訓をくみ取れば、まず良心に背く行為はやめなければならない。それは、いずれ自分を呪うことになる。そして、自己正当化のための嘘をつくのはやめなければならない。一つ嘘をつけば、それをつき通すために、更に嘘を重ねという具合に、やがて自家撞着となり、良心が耐えかねて自己破滅を招く。そうは言っても、わかっちゃいるけど何とやら…。ことほど左様に、人間は弱い存在。人生とは、誘惑との闘いの記録に他ならない。願わくば、微笑んで終える人生であるように。