映画「われらが背きし者」を観る | 世日クラブじょーほー局

世日クラブじょーほー局

世日クラブ・どっと・ねっとをフォロースルーブログ。

 

 

 

 モロッコのエキゾチックな観光都市マラケシュ。ロンドン大学教授のペリー(ユアン・マクレガー)とその妻である弁護士のゲイル(ナオミ・ハリス)は、倦怠期となった夫婦関係をやり直すべく、この地に滞在中だった。だが思うようにいかない二人。レストランで向かい合った際、仕事の電話のためにゲイルが席を立ったのを見計らい、見知らぬ男が近づいてきた。一目でその筋とわかるこの大柄な男は、「一緒に飲もう」とペリーを誘う。男が引き連れている連中も絶対ヤバそうで、ここは勇気をもって断らなければならない場面のはずだが、人が良く、優柔不断なペリーは応じてしまう。そしてあろうことか、翌日催されるというこの男の娘の誕生パーティーに出席する約束を交わしてしまうのだった。

 

 翌日、ペリーは重大な事実を知るに至る。この男ディマ(ステラン・スカーシュゴード)はロシアンマフィアの一味であり、新しいボスから家族ともども命を狙われていた。冒頭のシーンで、ディマと同じ役回りだった男とその家族が無残に銃殺されるシーンが強烈だ。ペリーはディマから1本のUSBメモリーを託される。その中身は英国の国会議員が絡んだロシアンマフィアのマネロン(資金洗浄)の証拠が収められており、それをMI6に届けて、データと引き換えにディマとその家族の英国亡命に協力して欲しいというのだった。

 

 血も凍るような容赦ないマフィアの所業。カネ、ドラッグ、SEX、バイオレンス、挙句に殺人…あらん限りの非道に手を染め、シノギとする。これには是非もなく、「君子危うきに近寄らず」が鉄則であろうが、こういう世界が存在しているのも現実。そんな無間地獄のごときダークサイドに、怖いもの見たさでもあるまいに、グイグイ引っ張られるまま足を踏み入れた堅気の中の堅気といえるペリーは、何だか自分自身を投影したよう。彼の優柔不断さには正直うんざりさせられるのだが、それでもこの男は決して卑怯や怯懦ではない。女性に暴力をふるうゴロツキ相手になりふり構わずケンカを挑みかかったりする無鉄砲さと正義感を併せ持つ。ディマが一縷の望みを託す大役に彼を偶然選んだようでも、実はそうではなく、「信義を重んずる男」だと繰り返しペリーを評し、この上ない信頼を置く。一方、そのUSBメモリーを手にし、マフィアと通じる元MI6の上司を追い詰めんと奔走する諜報員のへクター(ダミアン・ルイス)。そんな男たちを引き合わせたのも運命(さだめ)だったのか。

 

 本作は英国の作家で、スパイ小説の名手と謳われるジョン・ル・カレの著書が原作。実はル・カレ自身がMI6に在籍した経歴を持つ。なるほどリアリティ溢れる描写はその片鱗を示して余りある。一介の民間人で、武闘や裏社会とは最も縁遠い若き大学教授が、期せずしてマフィアと英諜報機関の息詰まる攻防のフィクサー役を果たしていくストーリー展開は思わず引きこまれた。地味なタイトルとキャスティングは玉にキズでも、映画の醍醐味がたっぷり味わえるキラリと光る作品。

 

(出演)

ユアン・マクレガー、ステラン・スカーシュゴード、ダミアン・ルイス、ナオミ・ハリス、ジェレミー・ノーサム、ハリド・アブダラ、マーク・ゲイティス

(監督)スザンナ・ホワイト