映画「オケ老人!」を観る | 世日クラブじょーほー局

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 梅が岡(世田谷区?)に赴任してきた数学教師小山千鶴(杏)は、当地を拠点とするアマチュア楽団、梅が岡フィルハーモニー(梅フィル)の演奏会を聴いて感動し、高校時代に鳴らしたバイオリンの腕がウズウズ。矢も楯もいられなくなり、ダメもとで入団したい旨の電話を入れると、相手はくぐもったような声で「OK」の返事。千鶴は拍子抜けするもいささか腑に落ちない。翌日、一抹の不安を覚えつつ、それでも心躍らせて練習会場である公民館へ行ってみて唖然…。そこには、楽団員では絶対ありえない老人ばかりが集まって来ていた。そしてコンマス(コンサートマスター)だという野々村(笹野高史)から衝撃の事実を知らされる。梅が岡には二つの楽団があり、一つは楽団員も多く、ハイレベルで洗練された梅が岡フィルハーモニー(梅”フィル”)と、もう一つは梅が岡交響楽団(梅”響”)で、これは老人たちの趣味の集まりといった按配で、レベルとしてはまったくのポンコツ。実は千鶴は、間違えて梅”響”に、入団申し込みの電話を入れていたのだったァ―! チャンチャン。なお、この二つの楽団には浅からぬ因縁があった。

 

 さて、間違えたのなら、「すみません」で、切り上げてくればいいものを、既に歓迎ムードの中、言い出せず、毎回メンバーが楽しみにしている飲み会にまで連れて行かれ、俄然、言い出せなくなり、泣く泣く正式に入団する羽目に。

 

 新天地で思わぬ躓きからスタートした千鶴だったが、紆余曲折を経て、心臓を患いドクターストップがかかった野々村に代わって、タクトを振るまでに。千鶴が密かに好意を寄せる年下の同僚教師坂下(坂口健太郎)との恋の行方も相まって、若き女教師の奮戦記は、悲喜こもごも、十人十色の人間模様に揉まれながら、音楽の本当の素晴らしさへの気づきと、さらに進んで、生きがいある人生にまで昇華されていく。ただ全編を通じて、炭鉱労働者のブラスバンドをモチーフにした英国映画「ブラス!」がカブってくるのと、老人あるあるネタがベタすぎというきらいはあるものの、やっぱり笑えて、泣けて、ラストはしっかり感動させてくれる。

 

 本作が、杏ちゃんの初主演映画だというのは、別にどーでもいいが、(彼女の演技はちょっと素人っぽい)笹野高史はじめ小松政夫、左とん平、石倉三郎などいい味出してるベテラン俳優たちが脇を固め、楽しい作品だ。そして何より当方がこの作品を評価したいのは、人間同士の恨みや憎しみを音楽によって氷解させ、一つになさしめる業を描いているところ。むろん、それはただ耳に心地いいというのでなく、汗と涙と情熱の結晶としての音楽こそが、魂を揺さぶる力があるということを教えてくれている。また劇中、世界最高峰の指揮者で、フランス人のフィリップ・ロンバール(フィリップ・エマール)を通じ、音楽は楽しむのが本分であり、結果として音楽を辞めてしまうという選択肢を与えてしまうやり方は間違っていると提起している。来るべき超高齢化社会の在り方の材料ともなるかな。

 

(出演)

杏、黒島結菜、坂口健太郎、笹野高史、左とん平、小松政夫、藤田弓子、石倉三郎、茅島成美、喜多道枝、森下能幸、萩原利久、フィリップ・エマール、飛永翼、光石研

(監督)細川徹