西田昌司著「総理への直言」(イースト新書)を読む | 世日クラブじょーほー局

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総理への直言 (イースト新書)/イースト・プレス

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 本書の帯には、「“国会の大砲”が暴く~」とあるように、西田氏は常日頃、総理秘書官となられた磯崎洋輔氏とともに、国会ではコワモテで鳴らす。しかし西田氏の本領は、あの屈託のない笑顔の中にあると当方は見ます。今まで当方は、西田氏は税理士から身を起こし、京都府議を経て苦労して国政の議席を得た叩き上げの人士とばかり思っていましたが、ご尊父も参議院議員であられた歴とした二世議員だった。

 1年前までの野党時代、西田氏の民主党政権への攻撃はえげつないほどだったが、本当のことだからしょうがない。しかし西田氏のその矛先は、自らが所属する自民党にも容赦ない。

 西田氏が国政を志した最大の動機は、安倍首相が第一次政権時に掲げた「戦後レジームからの脱却」の一助となりたいという思いからだったそうだ。なるほどわかる。しかしその戦後レジームの主役こそほかならぬ当の自民党だったというわけで、西田氏は、

 「日本の戦後体制は冷戦が前提の仕組みだったのです。その前提が崩れたにもかかわらず、戦後体制を維持しようとしたため、様々な矛盾が噴出し、その守護者たる自民党は下野せざるを得なくなった」と喝破。その後彗星のごとく?現れた小沢一郎と小泉純一郎が改革の旗手として権勢を振るい一世を風靡するが、この二人は一見水と油のようでも、実は「二人とも社会や政治をアメリカナイズすることが改革だと信奉していた」と西田氏はあっさりその正体をバラし、いわゆる新自由主義による市場原理主義、構造改革路線への挑戦状を叩きつける。

 具体的に本書では、民主党政権下で再生された「JAL」問題、「道州制」問題、「TPP」問題を挨拶代わりにメッタ斬りにしてみせる。しかし第三章「TPPは売国条約」の項で述べているとおり、西田氏はかつての社会党ばりにアメリカの香りのするものは何でも反対という教条主義でなく、あくまで「関税自主権をも放棄するような極端な自由貿易に対して、警戒すべきだ」というスタンスを貫くまでなのだ。

 第五章「憲法改正のウソ」では、西田氏は、改憲論ではなく、憲法無効論を唱え、ことに改憲のための96条の先行改正は邪道と断じる。明治憲法の規定によれば、「占領中という正に国家主権が制限されている間は、皇室典範も憲法も改正できないことになります。このことを考えれば、明治憲法を改正して、現行憲法を作ったことは明治憲法に違反する行為であり、やはり無効ということになります」と西田氏。また改憲論について、「憲法の何が問題なのかということを国民に何ひとつ説明していない」とバッサリ。ここまでくると安倍首相に敢然と楯突くようではあるが、西田氏なりの安倍氏へのギリギリのエールなんだろう。

 この西田氏の主張は要するに、国際法に違反して占領中にGHQから頂いた憲法を一言一句変えることなく、66年も後生大事に守り続け、時代は目まぐるしく変転しても骨の髄まで占領時代のまま、こと国防という面においてアメリカに“おんぶに抱っこにずっかんかん”ときていて、「自分たちの国を自分たちで守る、という根本的な自立精神が失われてしまった」戦後日本人に向けての最後通告といったところか。

 当方は、現憲法制定の裏事情は、北康利著「白州次郎 占領を背負った男」(講談社)でよくわかった。同書によれば、明治憲法改正草案は、GHQの民生局によって、「マッカーサー草案」を元に7日間で作り上げた。日本側は天皇制度を人質にとられ、公職追放の嵐が吹き荒れる戦々恐々たる状況下であり、またGHQ側にもソ連を中心とする極東委員会の介入を回避せねばならないというギリギリの事情もあった。かくてその憲法改正草案は、大日本帝国憲法の改正という形式をとり、まず枢密院に諮詢して可決され、帝国議会へ提出。衆議院において421対8で採決された。「GHQに強要された憲法であることはすでにどの議員たちも知っている。多くの議員が無念のあまり嗚咽を漏らした」そうだ。終戦連絡事務局参与としてGHQとの折衝にあたった白州次郎は、憲法改正草案要綱が公表された翌日に「『今にみていろ』ト云フ気持抑ヘ切レス。ヒソカニ涙ス」と記している。(白州手記)
戦後日本の不幸は、この次郎の悔しさを共感できなかったことにあった」と北氏。

 さて、西田氏が保守に目覚めたきっかけは、西部邁氏に私淑したことだと証している。西部氏はつとに反米的スタンスで知られるが、彼がかつてブント(共産主義者同盟)に属し、60年安保闘争で岸政権打倒を掲げて、国会周辺を暴れまわったことを西田氏は知らぬはずはあるまい。現在でも寺脇研(元文科省大臣官房審議官)や、佐高信(評論家)、辻井喬(作家)、宮崎学(作家)など保守とは縁遠く、ちょっと首を傾げる面々との交流が気になるところだ。しかし彼から学ぶべきものは確かにあるので、当方もMXの「西部ゼミナール」は欠かさずチェックしてはいるが。

 ともかくもこんな西田氏が7月の参議院選挙で、京都選挙区においてトップ当選したということは自民党の多士済々たる人材力を示すものといえよう。

白洲次郎 占領を背負った男/講談社

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