今、全国で大ヒットしているテレビの主題歌、「麦の唄」ですが、楽曲としては、大変難しい曲であることは、あまり知られていません。
作曲家の天才ぶりが発揮された曲と言えるでしょう。
今回、「歌う会」の歌唱指導や、グループレッスンで取り上げて、練習しています。
歌を聴きながら、覚えるのは、さほど難しいわけではありませんが、楽器で伴奏となると大変です。
ピアノで伴奏、アコで伴奏となると、かなりのハイレベルの曲なのです。さらに楽譜の読み方も大変です。
何回も転調していくし、その転調の仕方も、よくよく見ないと、分からないような転調なのです。
歌の楽譜には、コードが記載されているので、ポピュラーピアノの伴奏者は大丈夫でしょう。でも、楽曲アナリーぜ(分析)となると、物凄く大変な部分があることは、よくよく考えないと分からない部分もあるのです。
音楽サークルを指導している音楽講師が、この「麦の唄」を歌唱指導曲に取り上げるというのを聞きながら、「この歌を指導するのが、とても億劫だ」と話していました。
一緒にやっているピアノ伴奏者もいるのに、どうしてかと考えていたのですが、その理由が、この楽曲アナリーゼの難しさにあるのではないかと思っていましました。
アナリーゼで解析出来なければ、物凄く難しい歌に思えるからです。そんなことを考えていました。
さて楽曲アナリーゼに入ります。最初は、アウフタクトで、2個の♭、変ロ路長調からスタートです。4拍子の曲、「雨のち晴レルヤ」のような、三連符のバラードの曲です。
最近、三連符のバラードの曲が盛んに作られていますね。最近では、すぎもとまさとの「thanks」なども全くそうです。
8小節後に、まず転調します。いきなりシャープ5個のロ長調に転調です。この位の転調は、ピアノを弾く方なら、何でもないことです。キーが1個あがるのですが、全部の黒鍵盤を使います。
ピアノを弾かない方、アコをひかない方は無理でしょう。この転調を繰り返し、1番2番へと進みます。楽曲の展開の中で、ダブルシャープがあって、一瞬、嬰ト短調に転調するよう技巧を見せますが、すぐに元に戻り、素敵に楽曲を締めくくります。
このダブルシャープを使う技法にも、作者の才能が見え隠れしています。比較的1番と2番は無難に進みます。大体の人が覚えているのは、この部分でしょう。
難しいのはここからです。中間部の繋ぎの部分、サビの部分というよりは、3番への繋ぎという感じです。最初、ロ長調から入り、シャープ1個加わり、嬰へ長調にまず転調します。臨時記号としてとらえても良いです。ここはあまり難しくありません。(ここでシャープは6個になります)
その後、突然2小節ずつの転調がやってきます。それは全くの突然です。キーが突然変わってニ長調(シャープ2個)、そしてさらに2小節後に、ハ長調に転調するのです。その後は、ハ長調で進み、繋ぎの終わりには、ロ長調にキーが変わっていきます。
だからここではキーが変換された部分で、その調で階名を読めば、たやすく音がとれるのですが、それ以外では、本当に困難になります。ナチュラルの記号が沢山ついていて、何が何だか分からない状況になります。
「固定ド」で勉強している方でも、結構困難でしょう。ただ、ブラスバンドをやっていて、「固定ド」以外では、読めない方には、記号通りに上げ下げをするだけですから音はとれるのですが、そこには音楽の調性の流れの感覚は、つかめないかも知れません。この調性の流れが音楽では重要なのです。
ロ長調に戻った後は、そのまま3番へと入り、さらにコーダで終了するのです。
この曲は、作曲者の凄い技巧が散りばめられている曲だと感心しました。
私は、今までどんな曲でも、初見で読み、演奏することは出来ましたが、この曲は、無理でした。クラシックの和声進行、ポピュラーのコード進行の概念を無視した、斬新で、革命的な音楽的な展開だということができるからです。
凄い曲に接して、今、アナリーゼを終えて、ただただ感心するばかりです。やはりこの作曲者は、天才なのだと思わざるを得ません、脱帽という感じで、アナリーゼを終えました。
今は、ピアノで自由に演奏出来るようになりましたが、最初は、大変でした。アコにしろ、ピアノにしろ、一度練習してみる価値のある曲です。大胆な転調の凄さを、実感出来るかも知れません。
歌唱指導に取り組みながら、久しぶりに凄い曲に接し、素晴らしい学習を勝ち取ることができて、本当に嬉しく思いました。
また悪く解釈すれば、一般の方には、CDを買わざるを得ないようにしている曲だとも思いました。楽譜だけでは音はとれないし、テレビやUtubeでは、肝心の難しい部分は流れないからです。全曲をカラオケで歌うためには、CDを買って、耳覚えで歌うしかないような作品なのです。
楽譜からは、アナリーゼ以外では、歯が立たない曲なのです。そんなことも考えてしまいました。難しい曲だからこそ、人々はこぞって覚えようとするのか知れません。
かつて超難しい「天城越え」が、そうであったように。最初は、難しすぎて、ヒットもしなかった曲が、何十年掛って大ヒットに繋がったのです。そんなことも思い出していました。
楽曲アナリーゼは、音楽の深さを知る、魔法の杖なのかも知れません。