静謐で、古い。古臭いのではなく、まさしく古い文章の名残がある。豊かな知性、安定した叙情。
『白髪鬼』をつい先日読んだ。
優秀な書生が弁護士試験を受けるも、毎年試験中に女幽霊が出て、動揺から落第してしまう、というお話。
記憶にひっかかるところがあったので、以前読んだことがあったのかと思ったが、そうではなかった。
これは、科挙にまつわる伝承に酷似しているのだ。
宮崎市定の『科挙』には、幽霊譚が数々紹介されている。その中に、怨念を抱いたまま死んだ女が、試験中、学生の前に現れるという話があったはずだ。
教訓深い内容だったのかもしれないが、そこまでは詳しく覚えていない。試験用紙と机の横に立つ幽霊、という映像だけが印象に残っている。
その印象は、怖さによるものではなかった。むしろ美しさか、官能によるところが大きい。
どうも自分は、女性の恨みに多少感じるところがあるらしい。
自覚はないMっ気のせいかもしれないが、それだけでもない気がする。美的感覚が何かを告げる。恨みが、女性の容貌を青く燃え上がらせるのではないか……。
この点は、同様の趣味を持つ男は多いだろう。どころか、女性にさえそれは多いだろう。
かの『源氏物語』でも、「淡い恨みは女をいとおしくさせる」といった文章を見た。紫式部の筆であり、訳は与謝野晶子だ。だから、どちらにしても女性の嗜好には間違いない。
分析にもならないが、こうした作用は、恨みが単純・原始的な感情であるというところから来るのかもしれない。
恨みはどうしても歪まない。愛情とは違って、はじめから屈折しているからだ。こみいった感情ではなく、直接に人を切ろうとする。恨みには熱がある。熱のある感情には、人は心動かされずにはいられない。