映画『あかね雲』 | 普通人の映画体験―虚心な出会い

普通人の映画体験―虚心な出会い

私という普通の生活人は、ある一本の映画 とたまたま巡り合い、一回性の出会いを生きる。暗がりの中、ひととき何事かをその一本の映画作品と共有する。何事かを胸の内に響かせ、ひとときを終えて、明るい街に出、現実の暮らしに帰っていく…。

2019年9月17日(火)ラピュタ阿佐ヶ谷(東京都杉並区阿佐ヶ谷北2-12-21、JR阿佐ヶ谷駅北口より徒歩2分)~特集「戦後独立プロ映画のあゆみ PARTⅡ」~で、18:50~ 鑑賞。

「あかね雲」

作品データ
製作年 1967年
製作国 日本
配給 松竹
上映時間 107分

日本初公開 1967年9月30日

「あかね雲」⑵

水上勉(1919~2004)の同名小説を、『湖の琴』の鈴木尚之(1929~2005)が脚色し、『処刑の島』の篠田正浩(1931~)がメガホンを取った。篠田が妻の岩下志麻(1941~)とともに設立した独立プロダクション表現社の第1回作品。撮影は『恋のメキシカンロック 恋と夢と冒険』の小杉正雄。能登の海を背景に、薄幸の運命に流されながらも必死に生きる土地の女と、軍隊を脱走し逃亡中の男との間に悲劇的な愛の炎が燃え盛る…。出演は岩下志麻、山﨑努、佐藤慶、小川眞由美、野々村潔。

ストーリー
1937(昭和12)年頃の石川県輪島。二木まつの(岩下志麻)は、病身の父と貧しい家計を助けるため、商人宿の女中に出た。ある日、狐独なまつのの相談相手となっている女給の律子(小川眞由美)が、景気のいい山代温泉へ行こうと彼女を誘った。まつのは迷ったが、ちょうど缶詰会社の外交員の小杉稲介(山﨑努)を知り、彼が山代で働き口を見つけてくれたことから、山代行きを決心した。山代に向かう列車の中で、まつのは西空に燃えるような茜雲(あかねぐも)を見た。温泉町に着いたまつのは、律子の心配をよそに、小杉を信用して仲居になったが、化粧をして見違えるほど美しくなった彼女は、たちまち酒席の人気者になった。大陸での戦線は拡大する一方で、南京陥落の報が伝わってくる頃、まつのにも水商売の女がたどる運命が待っていた。小杉が世話になっているという中年の久能川(花柳喜章)が最初の男だった。それは小杉が勧めたことで、まつのは小杉と寝るのなら嫌ではなかったのだが、つい久能川がくれる百円に負けたのだ。その心の中(うち)を聞いた小杉は、あてどもなく町をさまよった。その日も、西空には絵具を溶かしたような茜雲が浮かんでいた。その経緯(いきさつ)を知った律子は、自分は娼婦のような生活をしていても、まつのにはそんなことをさせたくないと思っていたから、まつのを叱り、小杉を罵倒した。しかし、まつのは彼を悪人とは、どうしても思えなかった。彼女は金沢の小杉の下宿を訪ねた。二人はいつか堅く抱きあったが、小杉は何故かまつのを振り払った。山代に戻ったまつのは、憲兵少尉・猪股久八郎(佐藤慶)の訪問を受け、その時初めて小杉が脱走兵であることを知った。国民の志気に影響すると秘密裏に捜査していた猪股は、まつのの水揚げの顚末を知り、小杉を人身売買の罪に問い、公開捜査に踏み切った。まつのは山代を追われ、郷里に帰ったが、まもなく身の隠し場所の無くなった小杉から手紙が来た。至急会いたいというのだ。まつのは小杉の潜む福浦港に向かう。漁師町でのうらぶれた宿での二人の再会も束の間だった。まつのの後をつけていた鴨下刑事(野々村潔)によって、小杉はあっけなく捕まってしまった。茫然自失するまつのの目に映ったものは、かつて何度か見た、水平線の彼方に太陽が沈んだ後の、暮れなずむ海の色と、血のような茜雲だった―。