
作品データ :
原題 Berlin Alexanderplatz
製作年 1980年
製作国 西ドイツ/イタリア
配給 アイ・ヴィー・シー
上映時間 898分(全14 話・約15 時間)
「ニュー・ジャーマン・シネマ」の旗手ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(Rainer Werner Fassbinder、1945~82)が、生涯の書として認めるアルフレート・デーブリーン(Alfred Döblin、1878~1957)の大著“Berlin Alexanderplatz”(1929)(早崎守俊訳『ベルリン・アレクサンダー広場』河出書房新社、1971年〈初版〉、2012年〈復刻新版〉)を原作にした、最大かつ最高の集大成的傑作。1979年から80年にかけてTVドラマシリーズとして発表された本作は14部で構成されている。
第一次大戦敗戦の痛手で社会も人々の心も不安定を極めていた。失業者は日々増加し、犯罪が横行した。議会政治は骨抜きとなり、巷ではナチスと共産主義者の対立も激しさを増していた。その半面、ベルリンはヨーロッパ有数の大都市(メトロポール)として爛熟した文化が花開いた。そんな激動の時代を一人の“普通”になりたかった男、フランツ・ビーバーコフ(Franz Biberkopf)が辿る受難に満ちた物語である。キャスト:ギュンター・ランプレヒト、ハンナ・シグラ、バルバラ・スコヴァ、ゴットフリート・ヨーン、エリーザベト・トリッセナーほか。
日本ではファスビンダー没後20年となる2002年10月26日に劇場初公開され、13年にデジタルリマスターでリバイバル。全14話を日替わりで上映。

1945年5月31日、バート・ヴェーリスホーフェン生まれ。1967年に劇団「アクション・テアター」に参加。同劇団解散後の1968年、仲間とともに劇団「アンチテアター」を設立。劇団メンバーとの挑発的かつ実験的な長編映画制作を始める。1978年に発表した『マリア・ブラウンの結婚』により、ニュー・ジャーマン・シネマを代表する監督として世界的に認知される。1980年、念願の企画『ベルリン・アレクサンダー広場』映画化を実現。『リリー・マルレーン』(1981年)、『ケレル』(1982年)では国際的スターを起用した大作映画を撮り上げる。ドイツ映画の未来を託される稀有な存在となった矢先の1982年6月10日、37歳で急死。彼の映画は女性の抑圧、同性愛、ユダヤ人差別、テロリズムなどスキャンダラスなテーマを扱うものが多く、常に激しい議論を巻き起こした。遺された45本の監督作品は、没後三十余年を経過した今も多くの問題を提起し続けている。
cf. 本ブログ〈March 03, 2019〉 本ブログ〈March 05, 2019〉

1878年8月10日、シュテッティンのユダヤ人一家に生まれる。大学で医学を修め、精神科医となるが、一方で作家として執筆活動も行なう。表現主義や社会主義に傾倒した時期もあり、またブレヒトとも親交を持つ。1929年に発表した長編小説『ベルリン・アレクサンダー広場』は「ドイツ散文の傑作」と評され、彼を人気作家に押し上げた。1933年、ナチスが政権を掌握しパリに亡命、さらにアメリカへと逃れる。終戦とともにヨーロッパに戻り、フランス占領軍政府の文学監督官としてドイツのバーデン=バーデンに駐留。戦後ドイツ社会の実情に落胆し、一旦パリに戻った後、50年代半ばよりドイツの病院や療養所を転々とする。1957年6月26日、78歳で死去。彼の代表作『ベルリン・アレクサンダー広場』は、ナチス時代へと傾いていく不穏な時代の社会の病理を克明に記述しているだけでなく、爛熟した文化を生み出した大都市ベルリンの魅惑的な風俗をも余すところなく伝えている。

第1話 [プロローグ]処罰が始まる(DIE STRAFE BEGINNT/82分)
第2話 死にたくなければどう生きるか(WIE SOLL MAN LEBEN,WENN MAN NICHT STERBEN WILL/59分)
第3話 脳天の一撃は心をも傷つける(EIN HAMMER AUF DEN KOPF KANN DIE SEELE VERLETZEN/59分)
第4話 静寂の奥底にいる一握りの人間たち(EINE HANDVOLL MENSCHEN IN DER TIEFE DER STILLE/59分)
第5話 神様の力を持った刈り手(EIN SCHNITTER MIT DER GEWALT VOM LIEBEN GOTT/59分)
第6話 愛、それはいつも高くつく(EINE LIEBE, DAS KOSTET IMMER VIEL/58分)
第7話 覚えておけ―誓いは切断可能(MERKE – EINEN SCHWUR KANN MAN AMPUTIEREN/58分)
第8話 太陽は肌を暖めるが時に火傷を負わす(DIE SONNE WÄRMT DIE HAUT,DIE SIE MANCHMAL VERBRENNT/58分)
第9話 多数派と少数派の間の永遠の隔たり(VON DEN EWIGKEITEN ZWISCHEN DEN VIELEN UND DEN WENIGEN/58分)
第10話 孤独は壁にも狂気の裂け目を入れる(EINSAMKEIT REIßT AUCH IN MAUERN RISSE DES IRRSINNS/59分)
第11話 知は力 早起きは三文の得(WISSEN IST MACHT UND MORGENSTUND HAT GOLD IM MUND/59分)
第12話 蛇の心の中にいる蛇(DIE SCHLANGE IN DER SEELE DER SCHLANGE/59分)
第13話 外側と内側、そして秘密に対する不安の秘密(DAS ÄUßERE UND DAS INNERE UND DAS GEHEIMNIS DER ANGST VOR DEM GEHEIMNIS/59分)
第14話 [エピローグ]ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー:フランツ・ビーバーコップの夢についての私の夢(Rainer Werner Fassbinder:Mein Traum vom Traum des Franz Biberkopf/112分)

第1話―2019年7月19日(金)18:00~鑑賞。
第2、3話―同日20:30~鑑賞。
第4、5、6話―7月23日(火)19:30~鑑賞。
第7、8、9話―7月24日(水)19:30~鑑賞。
第10、11、12話―7月25日(木)19:30~鑑賞。
第13、14話―7月26日(金)19:30~鑑賞。

ストーリー :
1920年代末ドイツのベルリン。物語はベルリンの下層労働者フランツ・ビーバーコフ(ギュンター・ランプレヒト)を主人公として進められる。恋人イーダ(バーバラ・ヴァレンティン)を過失で撲殺して4年服役した後、これからは真面目に生き直そうと誓ったフランツ。しかし、失業者が溢れかえる社会で街頭販売に手を出すが思うに任せず、そして靴紐の訪問販売を始めても、同僚に裏切られて失望し、酒に溺れてしまう。その後体勢を立て直し、ラインホルト(ゴットフリート・ヨーン)という若い男と知り合い彼の仕事を手伝うが、それと知らずに手伝ったのは窃盗団の仕事であった。しかも、逃走の車中でラインホルトの反感を買ったフランツは、車から突き落とされて右腕を切断する破目に陥る。療養が済んでからは娼婦ミーツェ(バルバラ・スコヴァ)と生活をはじめ、ラインホルトを尋ねて窃盗団に入り直す。しかし、フランツは又しても裏切られる。ラインホルトがミーツェをかどわかそうとして結果彼女を殺害、フランツはその共犯にされてしまう。フランツは警察に捕らえられて精神病院に入院、そこでの内省を経て退院、今度は工場の守衛助手の仕事に就く―。


・第1話(プロローグ) :
フランツ・ビーバーコフは恋人イーダ殺害の罪でテーゲル刑務所に服役していた。出所した彼は、大都市ベルリンの中で行き場を失う…。
・第2話 :
「まっとうに生きる」と誓ったフランツは、ネクタイ留めやポルノ雑誌販売を始めるが、うまくいかない。ある時、深い考えもなく、ナチスの党新聞販売に手を染めるが…。
・第3話 :
再び職を失ったフランツは、リナ(エリーザベト・トリッセナー)の知人オットー・リューダース(ハルク・ボーム)と会い意気投合する。さっそく二人は組んで、靴紐の訪問販売を始める。とある玄関先に立ったフランツを見て、住人の女性は動揺した。フランツが彼女の死んだ夫にそっくりだったからだ…。
・第4話 :
フランツはバウマン(ゲアハート・ツヴェレンツ)の住まいに間借り生活をし、日々酒に溺れている。彼は自身の窮状を、すべての財産を失い病に苦しむ聖書のヨブになぞらえ、このどん底から立ち直るすべを見出せない。そんな彼をバウマンはただ優しく見守っている。またエヴァ(ハンナ・シグラ)もフランツの居所を聞きつけてやってくるが、彼は彼女の援助も断わるのだった…。
・第5話:
フランツはイカサマ商売の元締めプムス(イヴァン・デスニー)に仕事仲間になるよう誘われるが、彼はその申し出を断わる。だが、その一味のラインホルト(ゴットフリート・ヨーン)と知り合い、打ち解けるようになる。ラインホルトは女にだらしなく、彼が飽きた女をフランツは次々と引き受けてやる。最初の女は、フレンツェ(ヘレン・ヴィータ)で名前も容貌もフランツに似ていた…。
・第6話 :
フランツはラインホルトの女グセの悪さを治そうとして、次の女トルーデ(イルム・ヘルマン)を引き受けるのを拒否する。ラインホルトは憤慨しつつ、トルーデとの生活を続ける。ラインホルトの口車に乗せられて、フランツはある仕事に出かける…。
・第7話:
フランツは負傷により右腕を失い、エヴァの家で厄介になっている。体も衰弱し再び酒浸りになり、ある酒場でエミーという女(Traute Hoess)に出会う。一方、プムスはフランツの口封じのために見舞金を掴ませようとするが、それを届けに来たブルーノ(フォルカー・シュペングラー)はフランツを殺そうとする…。
・第8話 :
自宅に戻ったフランツは、今や「まっとうに生きる」という誓いを捨て、自堕落な人間になっていた。そこへヤクザな若者ヴィリー(Fritz Schediwy)が訪ねてきて、さっそく彼らは組んで闇商売を始める。暮らし振りのよくなったフランツの元へ、ある日エヴァがやってくる…。
・第9話:
フランツは恋人ミーツェに養ってもらうヒモ生活を始める。ミーツェが彼を働かせたくないからだ。彼は久しぶりにラインホルトを訪ねる。あの時、ラインホルトはフランツを殺そうとしたにもかかわらず、フランツはラインホルトに対する憎しみも嫌悪も示さず、両者の間はいまだ不思議な親愛の情で満たされていた…。
・第10話 :
エヴァは愛人が借りている部屋にミーツェを案内する。そこで不妊のミーツェの代わりにエヴァがフランツと子供を作るという密約が結ばれる。一方、フランツは仕事もせず、いよいよ酒に溺れていく…。
・第11話 :
フランツは再びラインホルトのもとを訪れ、プムスと一緒に仕事をしたいと申し出る。フランツはそれで稼いだ金をミーツェに渡すが、彼女は快く思わない。彼はラインホルトに自分とミーツェの仲を見せつけようとするが…。
・第12話 :
ミーツェはフランツに行きつけの酒場に連れていってくれるようにせがむ。そこでミーツェはメック(Franz Buchrieser)やラインホルトに紹介される。フランツとメックの仲は疎遠になっていたが、フランツはミーツェに彼はいい奴だと紹介する。ラインホルトはフランツが恋人連れでいるのが不愉快だ。そこでラインホルトはメックに仲介させてミーツェと二人だけで会えるよう段取りをつける。その場所とは以前、フランツとミーツェが仲直りしたあの森だった…。
・第13話 :
エヴァはフランツの子供を宿し、二人は喜び合う。だが、ミーツェが戻らないことに、フランツとエヴァは不安を抱く。フランツは彼女を探し回るが徒労に終わる。一方、ラインホルトたちは元締めプムスに中間搾取の疑いをかけ、一度ラインホルト主導で仕事をすることになる…。
・第14話(エピローグ) :
フランツは警察に捕まるが意識不明の状態で、結局精神病院に送られる。ラインホルトは追っ手を逃れるため他人になりすまし軽罪で逮捕され、監獄で初めて男と寝る。やがてラインホルトの殺人罪が露見し、裁判で懲役刑を言い渡される。回復したフランツは、工場の守衛助手の職を得る―。エピローグが示すのは、この二人の破滅した男の関係をめぐるグロテスクなイメージのパノラマである…。
▼予告編