
作品データ :
原題 MARY POPPINS RETURNS
製作年 2018年
製作国 アメリカ
配給 ディズニー
上映時間 131分
第37回アカデミー賞5部門に輝いた名作ミュージカル『メリー・ポピンズ』(1964年)の、およそ半世紀ぶりとなる続編。前作から約20年後の大恐慌時代のロンドンを舞台に、3人の子供の父親となったバンクス家の長男マイケルの前に、再びあの美しい魔法使い“メリー・ポピンズ”が現われ、子育てと借金問題に苦しむバンクス家の窮地を救うさまを、実写とアニメを融合した映像と華麗なミュージカル・ナンバーとともに描き出す。主役のメリー・ポピンズは、『プラダを着た悪魔』『ガール・オン・ザ・トレイン』など次々と話題作への出演が続き、今ではハリウッドを代表する女優となったエミリー・ブラントが務める。共演にリン=マニュエル・ミランダ、メリル・ストリープ、コリン・ファース、ベン・ウィショーら豪華キャストが集結。監督は『シカゴ』『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉』といった大ヒット映画を手掛け、舞台演出家・振付師としても活躍するロブ・マーシャル。
ストーリー :
大恐慌時代の1930年代のロンドン。かつて腕白坊主だったバンクス家の長男マイケル(ベン・ウィショー)は、今では父や祖父が勤めたフィデリティ銀行で臨時の仕事に就き、3人の子どもを育てる父親となっていた。しかし、妻を亡くしたばかりで悲しみに暮れる日々。しかも、折からの深刻な不況で生活は火の車。そこへ追い打ちをかけるように借金返済の期限が迫り、大切な我が家まで失いかねない大ピンチを招いてしまう。そんな時、空の雲の合間から、凧のしっぽにつかまって、旅行鞄と傘を持った女の人が優雅に舞い降りてくる。あのミステリアスで美しい魔法使いのメリー・ポピンズ(エミリー・ブラント)だった。昔(約20年前)と変わらぬ姿に驚きを隠せないマイケルと姉のジェーン(エミリー・モーティマー)に対し、涼しい顔で子どもたちの世話をしにきたと宣言するメリー。彼女はバスタブの底を抜けて海底探検に向かったり、絵画(花瓶の模様)の世界に飛び込み華麗なミュージカル・ショーを繰り広げたりと、マナーに厳しい一風変わった方法でバンクス家の子供たちのしつけをする…。幸せを運ぶメリー・ポピンズの魔法で、窮地に陥ったバンクス家の日常はカラフルに変わり、家族みんなが再び愛と希望を取り戻す―。
▼予告編
▼ Behind The Scenes :
▼ cf. Mary Poppins Returns(2018) VS Mary Poppins(1964) - Song Comparison :
[A little song comparison between the classic Mary Poppins and its newly released sequel Mary Poppins Returns]
1964年、イギリスの作家パメラ・トラバース(Pamela Travers、1899~1996)の原作を基に製作された『メリー・ポピンズ』(原題:Mary Poppins、監督:ロバート・スティーヴンソン)は、実写とアニメーションが織り交ぜられた革新的な映像と印象的な音楽やダンスが、たくさんの人々の心を掴み、今なお世界中で愛され続けているディズニーの代表作とも言える名作である。映画デビュー(初主演)のジュリー・アンドリュース(Julie Andrews、1935~)がメリー・ポピンズ役を務め、第37回アカデミー賞主演女優賞を獲得した。アンドリュースは既にブロードウェイでも『マイ・フェア・レディ』等の主役を繰り返し注目されていたが、一躍映画界でもミュージカル・トップ・スターに躍り出る。そして、次作『サウンド・オブ・ミュージック』も大ヒットし、その映画スターの地位を揺るぎなきものとした。
▼ cf. 『メリー・ポピンズ』(1964年) Trailer :
■私感 :
私は本作を鑑賞しながら終始、ノスタルジーをかき立てられつづけた。そこでは、前作=ジュリー・アンドリュース版『メリー・ポピンズ』の匂いや楽しさが思い起こされるとともに、パメラ・トラバースの原作が発する<大人になっても子供の心を忘れないで><自分の中にある子供心を見つけ出す>というメッセージが喚起されつづけた。
そもそも私がジュリー・アンドリュースの出演作に初めて接したのは、彼女の映画出演2作目に当たる『サウンド・オブ・ミュージック』(監督:ロバート・ワイズ、米国公開:1965年3月2日、cf.本ブログ〈November 29, 2016〉)だった。1965年6月19日の日本初公開直後に鑑賞した同作は、3時間近い尺を一瞬たりとも飽きさせない素晴らしい作りとなっていた。アンドリュース(および共演のクリストファー・プラマー)にすっかり魅せられた私はその半年後、彼女の映画デビュー作『メリー・ポピンズ』(米国公開:1964年8月27日)が1965年12月10日に日本初公開されるや否や、喜び勇んで映画館に飛び込んだのだった。
本作もまた、前作同様、メリーが子供たちにかける魔法の数々は素晴らしいの一語に尽きる!実写とアニメーションを合成したシーンの、優しく美しい色彩とダイナミックな動きが何とも鮮やかで存分に楽しめた。
ただし、本作の場合、前作に比べて、楽曲が若干(否、かなり?)弱いように思われる。
前作では、シャーマン兄弟(ロバート・シャーマン〈Robert Sherman、1925~2012〉&リチャード・シャーマン〈Richard Sherman、1928~〉)による作詞・作曲で、「Chim Chim Cher-ee/邦題:チム・チム・チェリー」、「Feed the Birds(Tuppence a Bag)/2ペンスを鳩に」、「Supercalifragilisticexpialidocious/スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」、 「A Spoonful of Sugar/お砂糖ひとさじで」など代々歌い継がれるような名曲が生まれた。 「チム・チム・チェリー」は、第37回アカデミー賞歌曲賞を受賞。
これに対して、本作では作曲:マーク・シェイマン(Marc Shaiman、1959~)/作詞:マーク・シェイマン&スコット・ウィットマン(Scott Wittman、1954~)によって、「(Underneath the)Lovely London Sky/愛しのロンドンの空」、「A Conversation/君はどこへ」、「The Place Where Lost Things Go/幸せのありか」、「A Cover Is Not the Book/本は表紙じゃわからない」など、前作の世界観を一定限引き継いだ“オリジナル・ソング”が詠まれている。しかし、私に言わせると、それらは総じて一聴に値するフレッシュなメロディーながら、前作のミュージカル・ナンバーより今ひとつインパクトが小さく何か物足りなさを覚える作りだった…。
煎じ詰めて言えば、前作映画が世界中を魅了した見事なミュージカル作品に仕上がったのは、メリー・ポピンズに扮したジュリー・アンドリュースの卓越した歌唱力によるところ、すこぶる大である。玲瓏(れいろう)たる伸びやかな彼女の歌声は、私の耳朶(じだ)を優しく打ち、私の心に嫋々(じょうじょう)と絡みつく…。まさしく絶品だ!
本作では、(私の好きな女優)エミリー・ブラント(Emily Blunt、1983~、cf.本ブログ〈November 28, 2016〉)が、メリー・ポピンズという「とても謎めいていて、風変わりで、可笑しくて、自らの見栄えを気にする人物」(映画パンフ『Disney MARY POPPINS RETURNS』 〈発行日:2019年2月1日、発行所:東宝映像事業部、編集:東宝ステラ〉15頁)を確かな演技力で好演している。
監督のロブ・マーシャル(Rob Marshall、1960~)は言う―「エミリーは、可笑しくて、温かくて、頭の回転が速くて、深い感情を持ち合わせた、実に素晴らしい女優です。彼女はまた、歌も踊りもとても上手にこなせます」「メリー・ポピンズは幾重もの層を持つキャラクターで、外見的には厳格でよそよそしいですが、その内側には温かいハートと子供のような心を持ち合わせています。エミリーはそういった層のすべてを、実に具体的かつ洗練された形で演じることができるのです」(同上34頁)。
私もブラントが「歌も踊りもとても上手」であると思う。しかし残念ながら、彼女はアンドリュースに比肩しうるほどの歌唱力を持ち合わせてはいない―。ただし、その容貌、そして立ち居振る舞いについては、アンドリュースよりもブラントの方が私好みではある


