書籍紹介『春風ぞ吹く 代書屋五郎太参る』 | ちらこれさらり

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  時代小説『春風ぞ吹く 代書屋五郎太参る』

『春風ぞ吹く 代書屋五郎太参る』宇江佐真理・著 2000年初版 新潮社

                       2003年 新潮文庫 カバー装画 村上豊

画像の猫型人形は、漫画家で造形作家の、さわだまこと先生(Ameba「ねこごよみ」)の

作品です。東京・高円寺の猫雑貨&猫ギャラリー「猫の額」さんで販売しています。

『江戸。武家の五郎太は25歳。学業優秀だがまだ小普請(小身)の身で、茶屋で代書の内職

をしている。幼馴染みの紀乃と契りを交わすも紀乃の父は「家格が違う」と認めない。

紀乃と結婚するために一層学問に励み御番入り(役職)を目指す五郎太。一方で代書を機に持ち

込まれるあれやこれやの諸事に、幼なじみの仲間、茶屋の主人伝助と酒屋の弥生ら、手紙配達人

の彦六、代書をもとむ人たちと奮闘する。ある母子の関係修復にかかわり、ある父子の再会を

助け、学問の師匠がかつて恋仲だった女性とのかんざしを介した過去の清算に尽力し、

紀乃の兄の性交未経験を解消させるべく遊郭へ。

ある日、ご隠居の代書を請けたことを機に五郎太の心情に変化が。紀乃との結婚は?

御番入りは?』

 

よく評されているように、作者の人間描写は繊細かつリズムがあってすっと感情移入ができる。

そして読者が抱いた親近感や嫌悪感が、くつがえる転描写も巧みだ。

 

「学問吟味を受けようという心構えができておらぬのか(中略)四の五の言わずに励め。

 誰も最初から自信のある者などおらぬ。臆する心が足を引っ張るのだ。学問は一廉の人間に

 なろうとする者が身につけるものだが、一方、その学問を打ち立てた者もまた、人間だ。

 神や仏ではない(後略)」

いい言葉だ。

 

 花火見物をしている五郎太と紀乃。

 紀乃は「花火が揚がっていない夜空は海の底のようですわね、静かで、はてしなくて」

 (中略)

 果てもない夜空を魚の群れが行く。銀色の鱗を光らせて……。星は栄螺か雲丹か、はたまた

 ひとで、でもあろうか。

なんとも美しい文章だ。