書籍紹介『雷桜』 | ちらこれさらり

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  時代小説『雷桜』 宇江佐真理

 『雷桜』 宇江佐真理・著 平成12年(2000年)初版 角川書店 

      カバー切り絵クラフト 百鬼丸  2000年123回直木賞候補

 
 
初版が2000年だから、その頃か少し後年だったか、馴染みの喫茶店を訪ねると友人らが本書を
 
語りあっていた。私はまだ読んでいなかった。早く読めと強く薦められた。

友人らの「切ない」「登場人物達と別れるのがつらくて読み返した」

そんな言葉が印象に残っている。20数年ぶりに再読。

 

江戸時代後期。瀬田村の庄屋・瀬田家から幼児がさらわれた。名は遊、女児だ。

捜索するも手がかりはなし。残るは瀬田山。そこは村人も敬遠する魔の山。しかし遊はそこにい

た。山で育っていた。十数後、遊は戻ってくる。慣れぬ庄屋暮らしを支える家族。

そんな中、江戸の御三卿清水家に奉公へ出ている兄の縁で、若殿様の斉道が瀬戸村を訪ねる。

山育ちで快活の遊と病弱で癪持ちの若殿様、ふたりの出会いを機に瀬田山で事が起る。

それは遊がさらわれた十数年前にかかわる陰謀の再燃だった。

山育ちの遊と、将軍家を継ぐ可能性もある斉道、互いに想い人となったふたりは・・・。

※写真は、秩父の武甲山と芝桜(作品とは無関係です)

遊の数奇な半生、その兄と清水斉道、清水家の家臣達、瀬田家の人々、それぞれが繊細に描かれ

てつながっていく。彼らの心情が間近に覚えて、読後も登場人物達と別れがたい思いが引きず

る。そんな一冊。

前章と終章で、その後の人々の様子を清水家家臣の榎木を通して表したことは味わいがあった。

 

『馬に乗った二人がゆっくり小道を戻って来た。(中略)斉道は背後から遊を掻き抱き、遊は首

をねじ曲げて斉道の唇を受けていたのだった。傾きかけた夕陽がそんな二人に茜色の光を浴びせ

て一幅の絵のようだった』

好きな箇所だ。その後の展開を追うと上記の美文は切なく映える。

 

斉道は、御三卿清水家から紀州徳川家へ入った徳川斉順がモデルと思われる。多分。