プラシーボ効果に関する一連の記事で、前回、ノシーボ効果について説明した。

 

https://ameblo.jp/sekainokesiki/entry-12875069320.html

 

心理的な要素は、痛みに影響を及ぼす。プラシーボ効果のように痛みが改善する場合もあれば、ノシーボ効果のように痛みが悪化する場合もある。

 

痛みは、身体的な要素のみならず、心理的な要素など、様々な要素から影響を受ける。医療従事者は、必要に応じて、患者教育等により、痛みに苦しむ人が持っているネガティブな心理状態にもアプローチする必要がある。

 

しかし、痛みと関連する教育が効果的なのは、痛みに苦しむ人々だけではない。医療従事者にも、痛みと関連する教育が必要なことが、様々な研究で示されている。

 

医療従事者が持っている痛みの知識や、痛みに関するイメージは一様ではない。医療従事者も、痛みに関して、古い概念(生物医学モデル:身体的要素を重視)の影響を強く受けている場合は結構多い。

 

そして、このような考え方は、医療従事者自身の行動に影響を及ぼす可能性がある。

 

例えば、患者に対して、活動を抑制する指導を必要以上に行い(すなわち、医療従事者自身が治療の進行にブレーキをかける)、結果としてリハビリの進行に遅れが生じて、回復の妨げになる可能性がある。

 

このことに関して、一つ例を挙げる。

 

理学療法士について、腰痛患者への治療に関する考え方を調べる調査票(The Pain Attitudes and Beliefs Scale for Physiotherapists:PABS-PT)がある。

 

この調査票は、研究や教育で用いられている。腰痛の治療に関して、理学療法士が、古い概念(生物医学モデル)と現代的な概念(生物心理社会モデル:身体に加えて、心理や社会など、様々な要素を考慮)のどちらにより影響を受けているか、判別するために開発された(なお、質問の内容は理学療法士でなければ答えられないというものではなく、他の医療従事者でも応用は可能と考えられる)。

 

そして、この調査票と関連する論文によると、古い概念の影響が強い医療従事者は、現代的な概念の影響が強い医療従事者と比べると、日常の活動が腰部に有害であると見なす傾向があり、患者の日常活動や仕事に制限をかけやすい可能性が指摘されている(Houben RMA, et al. Health care providers’ orientations towards common low back pain predict perceived harmfulness of physical activities and recommendations regarding return to normal activity. European Journal of Pain 2005; 9: 173-183)。

 

このように、痛みに関する考え方は、医療従事者の行動に影響を与える可能性がある。特に、慢性痛の場合、影響が大きいと考えられる。そのため、医療従事者にも、現代的な概念を含めた、痛みについての教育(アップデート)が必要となる。

 

痛みに関する教育は、痛みに苦しむ人だけではなく、医療従事者にとっても大切である。このことは重要であり、日本でも多くの医療従事者に知ってほしいと思う。

 

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