痛みに関する重要なテーマの一つとして、プラシーボ効果について、これまでにいくつかの記事を書いてきた。

 

例えば、最初の記事のリンクを以下に示す。

 

https://ameblo.jp/sekainokesiki/entry-12862998572.html

 

何かの「治療」について、高い期待感(例えば、「きっと良くなる」という思い込み)などを持っていれば、その「治療」には本当は効果がなくても(例えば、小麦粉の入ったカプセルなど)、痛み等の症状が改善することがある。

 

このように、心理的な要素は、症状などの変化に影響を与える。これは、痛みについて考える際に、重要なテーマである。

 

そして、心理的な要素は、症状の改善のみならず、悪い方向(症状の悪化)に作用することがある。

 

このような、症状の悪化に繋がる現象は、ノシーボ現象(nocebo phenomena)、あるいはノシーボ効果(nocebo effect)と呼ばれている(日本語では、ノセボ効果とも言う)。

 

プラシーボ効果のことは聞いたことがあっても、ノシーボ効果については聞いたことがないという人は大勢いると思う。しかし、ノシーボ効果も、痛みを考えるうえで重要な要素であり、様々な研究が行われてきた。

 

ノシーボ効果は、プラシーボ効果とは反対に、「(症状が)悪くなるのではないか」というネガティブな思い込み等によって生じる。すなわち、恐怖や不安などの心理状態と関係している。

 

この現象について、分かりやすい例を一つ挙げる。

 

手術後の患者を対象として、鎮痛薬の供給を止めた時の痛みの変化について調べた研究がある。

 

研究参加者は、二つのグループに分けられた。鎮痛薬の供給を止める時に、鎮痛薬を停止することを知らされたグループ(open)と、停止することを知らされなかったグループ(hidden)に分けて、それぞれのグループにおける痛みの変化を確認した。

 

その結果、鎮痛薬を止めることを知らされたグループ(open)は、止めることを知らされなかったグループ(hidden)と比べて、鎮痛薬を停止した後の痛みの増加が大きかったことが示された(Benedetti F. Placebo effects: Oxford University Press; 2014)。

 

グラフを見ると、痛みの増加の違いは一目瞭然で、openのグループは、hiddenのグループと比べて、痛みの強さが2倍くらいに増えている。

 

openのグループの痛みの増加について、鎮痛薬を止めることを知らされたことにより、「痛みが悪化するのではないか」という不安が起こり、痛みの悪化が大きくなったと思われる。これは、ネガティブな心理が痛みの悪化を引き起こすことについて、とても分かりやすい形で示していると思う。

 

ノシーボ効果を知ることは、痛みや、関連する治療について考える時に、重要である。

 

例えば、腰痛について、「腰痛は二足歩行を始めた人類の宿命」、「腰は弱いので、ダメージを受けやすい」等の意見を目にすることがある。

 

これらの言葉は、恐怖や不安を引き起こし、腰痛を悪化させる可能性が高い。実際の組織損傷の程度よりも強い痛みを感じるようになり、活動量の低下や、休職している場合には復職の困難などに繋がる。回復のためには、不適切な言葉だと考えられる。

 

それに、上記の言葉には、そもそも根拠がない。

 

例えば、腰痛が「二足歩行を始めた人類の宿命」であることを証明するためには、痛みは骨(化石も含める)には残らないので、タイムマシンに乗って数百万年前の世界に行き、過去の人類にインタビューをする必要があるが、それは不可能だろう。

 

それに、「腰は弱い」というイメージを持っている人は多いと思われるが、例えば椎間板は、そういったイメージとは異なり、特に弱い身体組織というわけではない(Butler D and Moseley L. Explain Pain: Noigroup Publications; 2003)。また、画像上の変化は、年齢の積み重ねによる自然な変化としても発生する。

 

いずれにしても、ネガティブな思い込みは、症状を悪化させる可能性が高い。患者教育などを通じて、痛みや、痛みがある部位について、なるべくポジティブに考えられるようにしていくことは、とても重要である。

 

心理的な要素は、症状に影響を及ぼす。プラシーボ効果とノシーボ効果の両方について知ることは、痛みについて理解するための一助となる。このことは、医療従事者と、そうではない人の両方にとって、役に立つと思う。

 

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