健康に関する学説は常に変化している。そのため、医師の和田秀樹氏は「コレステロールを下げる」「塩分を控える」などの言説も一概にはいいと言えないという。
和田氏が考える長寿のための食生活とは。本稿は、和田秀樹『50代うつよけレッスン』(朝日新書)の一部を抜粋・編集したものです。
コレステロールを悪者扱いせずタンパク質を中心に栄養を摂ろう
健康に関する学説は不変なものではなく、年々変わっていきますから、健康診断の数値を気にしすぎるのも、精神的に良くありません。
たとえば、コレステロールに関しても日本臨床検査標準協議会による見直しが行われ、2023年4月に基準値が変更されました。コレステロール値はそれまで「150~219」が基準値とされていましたが、今では「142~248」に増えています。
最近の学説では、コレステロールが250を超えると脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まるものの、240ぐらいまではむしろ血管の弾力性を高めることがわかっています。
さらに、東京都小金井市の70歳以上の高齢者を対象にコレステロール値と死亡率の関係を調べたところ、もっとも長生きするのはコレステロール値が高めのグループだったという結果が出ています。
コレステロール値がやや高めの人のほうが長生きしやすいということです。
ちなみにコレステロールには、「善玉」と言われるHDLコレステロールと「悪玉」と言われるLDLコレステロールがあることはよく知られていますが、LDLコレステロールが悪玉と言われるのは、動脈硬化や心筋梗塞の要因になっているからです。
でも、実はがんやうつ病に罹りにくくしてくれるコレステロールも、むしろ悪玉と言われるLDLのほうなのです。
善玉も悪玉も、人間の体にとっては重要な働きをしているということです。ですから私は、健康診断の数値を気にしすぎて、コレステロール値だけにピリピリするのは意味がないと考えています。
食生活で大事なことは、むやみに肉や脂肪を避けるのではなく、日頃からバランス良く肉や魚、野菜などから栄養を摂ることです。
年をとったらなるべく肉を食べたほうがいいけれども、もちろん肉だけを食べていればいいということではありません。コレステロールも悪者扱いせず、タンパク質を中心に広く栄養を摂ることが大事だと考えています。
「塩分控えめ」も考えもの怖いのは低ナトリウム血症
コレステロール値だけでなく、血圧や血糖値などが高いために医師から薬が処方されて数値を下げるように言われている人も多いと思いますが、
このように検査で異常値をあぶり出して薬で正常値に下げる治療は「引き算の治療」です。健康診断で異常値が出ると、
「塩分を控えなさい」
「脂っこいものは避けましょう」
「糖分も控えめに」
「運動して体重を減らしましょう」
などと医師は現状を変えて、多いと思われるものを「引く」ことを求めるのです。
しかし、私が健康を維持する上で重要視しているのは「足し算の治療」です。
これまでに30年以上、高齢者と向き合って診察を続け、アンチエイジング医療も行ってきた経験から、高齢者には数値にこだわる引き算的な治療ではなく、自分の体に不足しているものをどんどん足していく足し算の治療が重要だと考えているからです。
ある程度の年齢になったら、栄養は引いてはいけません。
年を重ねても若々しく健康的に生きるためには、不足している栄養を「足す」ことこそ大事なのです。
たとえば、ブドウ糖をエネルギーに変えるためのビタミンB1が足りなくなると、摂取したカロリーをエネルギーとして活用できなくなります。
すると、消費できなかったカロリーが脂肪として体に残り、基礎代謝が悪くなって老化が進んでしまいます。
また、肉類を食べないと、セロトニンが不足してホルモンが活性化しません。
タンパク質が不足すると、肌のハリや髪のこしが失われ、見た目の老化も進みます。
女性はカルシウムが足りなくなると、骨粗しょう症になる可能性も高くなります。
さらに、健康のために塩分を控えすぎるのも考えものです。
50代以降は腎臓がナトリウムを保つ機能が低下していくため、塩分が足りないと低ナトリウム血症に陥ることがあるからです。低ナトリウム血症は、最悪の場合、意識障害や痙攣に結びつくこともあります。こういうときに運動をしていると危険なのは、言うまでもありません。
「余っている害」よりも「足りない害」のほうが大きい
このように、食事を制限すると体に必要な栄養素が不足して元気や活力が奪われ、免疫力にダメージを与えてしまうこともありますから、50代以上は栄養が「余っている害」よりも「足りない害」のほうが大きいのです。
年をとったら食べ物の品数を増やして、逆に足りないものを足していくほうが老化を防ぎます。これから老年期に向かう中高年も、不足している栄養をしっかり摂ることを考えましょう。
健康診断で血圧や血糖値に高い数値が出たときは、すなわち動脈硬化の危険因子ということにされますが、その場合もすぐに何かが起こるというわけではありません。そのまま動脈硬化が進んでいけば、20年後などのかなり先に脳梗塞や心筋梗塞になりかねないことが予測できるということです。
ですから、まだ先が長い中高年の場合は、医師から塩分や糖分の摂りすぎに注意したほうがいいと言われたら、多少は注意しておくのもいいでしょう。
しかし、過剰に恐れることはありません。「コレステロール値が高いと心筋梗塞になる」とか「血圧が高いのを放っておいたら脳卒中になる」などと言う医師もいますが、ならない人もいるわけです。
健康診断で血圧や血糖値に高い数値が出たら、もしかしたら20年以内に脳梗塞や心筋梗塞になるかもしれないという自覚を持ち、そうなる前に脳ドックや心臓ドックを受ければいいということです。
もっとも長寿なのは「太り気味」の人
このように、栄養不足はうつ病を発症しやすくするだけでなく、免疫力を低下させて老化を進めるため、50代以降に「食べない式」のダイエットをするのは、お勧めできません。
今も健康診断でメタボ指導をしているところもあり、一般的にメタボになると心臓病や脳卒中になりやすく早死にしやすいなどと思われていますが、それは大きな間違いです。
宮城県で体型別の平均余命を調べた大規模な調査によると、「やせ」「普通」「太り気味」「肥満」の4つの体型のうち、もっとも平均余命が短かったのは男女共に「やせ」型の人たちだったのです(調査期間/1995年1月1日~2006年12月31日)。
一方、もっとも平均余命が長かったのが「太り気味」の人でした。
次が「普通」で、その次が「肥満」です。そして「やせ」の人よりも「太り気味」の人のほうが、男性で約7年、女性で約6年、平均余命が長いのです。
「太り気味」というのはBMI値が25以上で30未満の人。一般的には「小太り」と言われる人です。一般的にBMIの適正値は22と言われますが、世界中の多くの研究からも「一番長生きするのはBMI25以上の人」ということがわかっています。
もっとも寿命が短いやせ型の人は、小太りの人より6~7歳も早く亡くなる。かなり衝撃的な結果ですが「やせれば健康」という常識は間違っているということです。
同書より転載© ダイヤモンド・オンライン
朝食をしっかり食べて前頭葉を活性化させる
中高年以上の人がダイエットを成功させたいなら、食べる量を減らすのではなく、少しずつでいいから、たくさんの種類のものをバランス良く食べることがとても重要です。
食べる量を減らすと基礎代謝が低下するだけでなく、ビタミンやミネラルなど、体に必要な栄養素まで減らしてしまうため、細胞が老化して、かえって太りやすい体質になってしまうのです。
特に、朝食をしっかり摂ることが大事です。
お昼まで何も食べずにいると、前日の夕食から血糖値が下がり続け、昼前には脳が飢餓状態に陥ります。その結果、脳の老化を進めるし、脳が働かなくなってしまいます。
『50代うつよけレッスン』 (和田秀樹、朝日新書)© ダイヤモンド・オンライン
やはり朝食はしっかり食べて、前頭葉を活性化させておきたいものです。
私は普段診ている患者さんにも食事制限は勧めていませんが、なるべくたくさんの種類を食べることを勧めています。摂取する食材の種類が減ると栄養バランスが偏ってしまうからです。
食欲が湧かないという人がいたら、まずは自分の食べられるもの、自分の好きなものを我慢せず食べることをお勧めしています。
今、脳が食べたいと思っているものに素直に応じて、幸せを感じながら食を楽しむことが大事だからです。