介護の9割はケアマネージャー
突然、身内が要介護の状態になったとき、家族が救いを求めるのは、ケアマネージャー、ホームヘルパー、訪問看護師といった介護の専門家です。
これまで連載で10回にわたり、今年の正月に他界した父の介護体験を書いてきましたが、ウチを担当した方々は皆、心のこもった介護サービスをしてくれました。
処置を横で見ていても実に安心感がある。豊富な経験や知識からくる確かな技術を感じましたし、なにより父の体を案じ、気持ちに寄り添う姿勢には感動さえ覚えました。
また、分からないことや疑問点があると、なんでも親切に教えてくれました。介護サービスに従事する人たちは志のあるすばらしい人たちなんだな、と思ったものです。
ところが現実は、必ずしもこうした良い介護従事者ばかりではないようです。
要介護者本人やその家族と、介護従事者の関係がこじれることはよくあるようですし、ネットを見ればそれによって生じたトラブルの実例がたくさん出てきます。
介護が始まった当初、介護用品レンタル会社のIさんからこう言われました。
「ケアマネージャーがYさんでよかったですね」
ウチの介護を担当することになったYさんは、Iさんの目から見て誠実な仕事をする人であり、要介護者の家族からの評判も高いケアマネージャーだったからです。
その時、私は不慣れな介護のことで頭がいっぱいでしたし、あまり業界の事情に立ち入るのもよくないかなと思い、それ以上は聞きませんでしたが、父の介護が終わった後、改めてIさんに会ったところ、こんな話をしてくれました。
「なかには意識の低いケアマネージャーがいるんです。
ケアプランを作るのでも、家族が求めていることよりも自分の都合を優先したり、要介護者がSOSを出していてもすばやく対応しなかったり。見ていて家族が気の毒になることがよくあります」
Iさんのような介護用品レンタルの担当者は、ケアマネージャーから連絡を受け、そのケアプランに従ってベッドや車椅子などの介護用品を届けるのが仕事です。日常的に多くのケアマネージャーと接する立場にあります。
また、定期的に介護サービスを提供するホームヘルパーや訪問看護師とは異なり、介護が始まる時や症状の進行などに応じて介護用品の交換が必要な時といったように節目に訪れる仕事であり、その家がどんな介護を受けているか、客観的な目で見ることができるわけです。
加えてIさんは要介護者を「自分の家族だと思って」営業実績とは関係なく、最適な介護用品を届けることを実践している人でした。
もちろんケアマネージャーの依頼によって成り立つ仕事であり、問題を公言することはありませんが、「こんな仕事をしていていいのか」と思うケアマネージャーは多いそうです。
ケアマネージャーは「監督」
私がお世話になった介護サービス事業者のメンバー、すなわち介護用品レンタルのIさんをはじめ、訪問入浴、訪問看護、ホームヘルパー、訪問マッサージの皆さんですが、そのすべての従事者が満足のいくサービスを提供してくれたのは、偶然ではありませんでした。
それはIさんの話によれば、Yさんというケアマネージャーがいてくれたおかげだったのです。どうやら良い介護ができるかどうかの鍵を握っているのはケアマネージャーのようです。
介護の必要が生じると、最初に接触することになるのがケアマネージャーです。ケアマネージャーは介護福祉士などの資格を持ち、一定の実務経験がある者が難関資格である介護支援専門員の試験に合格してなれる専門職。
地域の福祉・介護を担う包括支援センターや介護支援事業所などに所属しています。また、独立し単独で事業を行っている人もいるようです。
仕事は要介護者やその家族から状態や事情を聞いてケアプランをつくり、介護サービスの手配などをすることです。身内が要介護になると、役所や地域包括センターに連絡することになりますが、そこでまずケアマネージャーを紹介してもらうわけです。
Iさんはケアマネージャーの役割を「スポーツチームの監督をイメージするとわかりやすいのでは」と言います。
言うまでもなく、スポーツチームの目的は試合に勝利すること。監督はそのために必要な選手を起用し指揮を執ります。一方の介護も同じチームプレー。
目的は要介護者の生活の支援であり、できれば症状をよくし、家族の負担も減らすといったことですが、そのために必要な介護サービス従事者を起用し、指揮を執る。目的は違いますが、役割は似ているというわけです。
スポーツで手腕を発揮する監督は自分や相手のチームの特長を把握し、状況に応じて的確な選手起用をします。結果を出せない監督はそうした状況判断がいい加減だったり好き嫌いで選手起用をしたりする。
介護も同じで、よいケアマネージャーは介護者の要望をしっかり聞き、置かれた状況に応じて最適な介護サービスを提供する努力をしてくれます。
介護事業者もその仕事ぶりを常にチェックしており、要介護者にとって満足度の高い人をキープしているようです。
最大35人の担当をする激務
では、問題のあるケアマネージャーはどうか。実は、弱い立場にある要介護者の要望よりも自分の方向性を優先することがあるそうです。サービス内容よりも自らが所属する事業所と関係が深い事業者を手配することが多いのです。
私の父の場合、介護期間は1カ月半と短かったこともあるでしょうが、ウチを担当した介護サービスのスタッフが皆、誠実な仕事をしてくれ満足できたのも、Sさんというケアマネージャーがいたからでしょう。
ただ、ケアマネージャーが大変な仕事ということも確かです。ひとりが担当する人数は要介護者35人、要支援者8人までと決められていますが、要介護者が増え続ける今は上限ギリギリまで受け持たされるケアマネージャーも少なくないといいます(Sさんは「少なくしてもらっている」と言っていましたが、それでもウチを担当していた時は28人だったそうです)。
担当する要介護者には独居で毎日のように様子を見に行かなければならない人もいますし、30人あまりのすべてに配慮を行き届かせるのは難しいでしょう。要介護者や家族から見れば担当者はひとりですが、ケアマネージャーにとっては30数人のなかの1人なのです。
Sさんにも、父が亡くなったあとお世話になったお礼を言うために訪問した時、話を聞いたのですが、評判のいいSさんでも、担当した要介護者や家族とトラブルがあると言っていました。
ただ、そのトラブルが自分のミスで生じた場合は謝罪し、二度と同じミスをしないように心がけていると言っていましたし、事態を少しでも良くするための努力を惜しまないそうです。そうした姿勢があるから評判がいいのでしょう。
また、トラブルの種は要介護者サイドにある場合もあるようです。介護サービスは家庭に立ち入らざるを得ない仕事ですが、それを拒む人もいる。逆に過度な要求をする人もいるそうです。
介護は人と人が気持ちの部分も含めて密接に関係する行為。介護サービスを受ける側は、相手の専門性をリスペクトし素直に受け入れる姿勢が大事だと思います。
それでもIさんがいうように、問題があるケアマネージャーが存在することも事実。利用者側がケアマネージャーや介護サービス事業者に不満があっても、何も言えず我慢していることは多いそうです。
要介護者サイドにとってケアマネージャーは頼みの綱。人間関係をこじらせたくないという思いからでしょう。
「でも、受けている介護サービスに疑問を感じたら、変えてもらうのは正当な要求です。場合によってはケアマネージャーを変更することもできます」とIさん。
ケアマネージャーを変更するには、派遣している事業所や地域包括支援センター、役所の介護保険課に相談するといった方法がある。
私の場合は運よく良いケアマネージャーに当たりましたが、そうでない場合は、変更してでもベストと思える人を見つけ、担当してもらうことが大事なのです。